拳闘士と王都
日間ランキングからいとも容易く淘汰されました
いい夢を見れた、悔いは無い
ネイロは、コウリンがボス部屋に不可抗力で突入してから急いで最下層まで追いかけたようで、彼女のアイドル風の衣装には土や泥の汚れがそこかしこに付着していた。
どこでも良いので街に着くか洗浄魔法を使えば落とせるのでさしたる問題ではないが。
「コウリンってホントに拳闘士だよね!? なのに私の指示無しなのにソロで楽勝でした〜って何なの!? ネ申なの!? こんな偉業常人には真似出来ないよ〜」
「いや、言うほど善戦してないからな。てかすまん、手一杯だとはいえチャットに連絡返さんでさ」
「んーそれは慣れっこだからいいけど……とにかく! あのボスって速すぎるから誰も手に負えないはずなのによく勝てたね! 何はともあれ初討伐おめでたいよ〜!」
「そ、そうか? 怒ってなくて安心した……」
驚愕のあまり信じられ難いと言った表情で話すネイロであったが、一方のコウリンは手が離せないあまりチャットに反応しなかった件に罪悪感を苛んていた。
「でもワールドニュースで居場所悟られたのはちょいマズいかも。変なプレイヤーさんが来る前に、全速力でこのダンジョンを抜けるよ!」
「いや、ヘトヘトだから休ませてくれ、おい引っ張るなって」
もはや指名手配犯気分であるネイロは、前と同じ手段でコウリンを強引に連れ出した。
当初の目的から大幅に逸れながらも無事取り戻したが、街へ辿り着くまでがダンジョンであるため帰り道も油断は禁物。
二人は颯爽とダンジョンを駆け、目指すべき場所へと歩を早めて行った。
◆◆◆
ダンジョン全体としてはまるで血管のように入り組んでおり、地上を目指しても時に下り階段に進まざるを得なかったりと悩ませる構造だったが、ネイロの脳内地図が正しい道を示し続け、極めて円滑なペースで二人は出口へと到達した。
「ゴーーール!!! 一時はどうなることかと思っちゃったけどこのねいろんちゃんの魔法とコウリンの俊足がかけ合わせていれば余裕のユウだね〜!」
「ぜぇ……ぜぇ……お前魔法ドッカンドッカン撃ちまくってるから崩落しないか気が気じゃなかったけどな……」
手の甲で爽やかに汗を拭いながらストレス発散後のテンションではしゃぐネイロ。
対照的にコウリンは、そんな突風のような勢いに全くついていけてない様子である。
「それは問題ないよ。崩落とかそこまでリアルな要素あんまり無いから撃ち放題で全然いいんだ〜」
「そのあんまりっていうのが不安でしかないんだが?」
ネイロは派手そのものな相貌に違わず、十八番とする戦術も派手にはじけていた。
ひとたび彼女から温存の文字を除いてしまえば、トチ狂ったかのように火属性魔法を四方八方に乱射するため、他のプレイヤーに流れ弾がぶつかる事件もしばしば。
その弾幕の密度は相対する者にとってはまさに驚異の一言だが、穏便に行きたい者からすると良い迷惑である。
「王都はもうちょっとだよ。でもまだ歩くから最後の気力を振り絞ってね〜」
「はいはいわかったわかった」
適当に相槌をうって、数キロ先にそびえ立つ石壁を目印に脚を動かし続ける。
すると遠近法が働いていたのか疲労で目が錯覚したのか、思いの外時間をかけずいともあっさりと到達した。
「おおこれは! まさかこんな建物を一生のうちに見れるなんて言葉が出ねぇ……ご利益ありそうだ」
「ねいろんちゃん到着〜。ここが王都セカンピニオンだよ。スタータウンがド田舎に見えるくらい施設がたっぷり充実してるからきっとコウリンも気にいると思うよ〜」
目の前にある巨大な門扉をくぐり抜けた先で見た光景は、コウリンにとっては夢の国に迷い込んだと誤認識するほどに壮観であった。
建物一つ一つが石造りできめ細やかかつ頑丈に設計されており、道も馬車が楽に通れるよう平坦に舗装されている。遠方にそびえる王城はオーソドックスでありながら厳格な魅力引き立つフォルムであった。
事実、キルラオンライン世界では世界三大都市の一角と呼ばれており、商業人や職人達の中心地として栄えている場所である。
「しばらくはここが私達の拠点になるよ。ゆっくりしてってね〜」
「ああ、道案内ご苦労さんだ。そうか、この世界街だけじゃなくて城もあったんだな。タダで世界旅行してるみたいだし楽しい世界じゃねえか」
「そうだね〜。城塞都市ってラノベでありすぎて食傷気味だけど美味しい食べ物がたくさんあるから全然オッケー! しかも食べても太らないオマケつきでもう最っ高だよ〜!」
二人は並んで歩きながら思い思いの会話を繰り広げる。出会って間もないはずなのに、互いの知恵と運でトラブルを乗り越えただけあって会話に遠慮が無いほどに打ち解けていた。
ネイロが掲示板の住民の標的にされて以来心を安らげている暇が無かったが王都に着いてしまえばこっちのもの。
世界中に数ある都市の中でここの王都まで辿り着いているプレイヤーはまだ少なく、暫くは軛から開放された日々を謳歌出来るだろう。
行き交う人々は皆NPCというあまり見ない光景を眼で感じとりつつある時、コウリンはピタリと立ち止まった。
「そうだネイロ、つかぬこと言うが俺これから三日ぐらい留守になるわ。リアルじゃ休日なんて何それ美味しいの状態だし、俺としても用事をぶっ殺したいくらい不本意なんだ」
神妙な顔つきで少しの間ログインしなくなる体の話を始める。
能天気なコウリンとて、現実世界では切迫された生活を倹約しながら過ごしている。
サービス開始序盤の時期に三日間ものブランクは決して埋め易くはないが、スタートダッシュは大成功を納められたためそのうち誤差になるだろう。
「はーい。あ、ちょっと待って、最後に話したいことあるから」
ログアウトしようとするコウリンを手で制して引き止める。
「なんだ話って」
「実は私のフレンドさんにコウリンと会わせたいんだ〜。だから次インしたらここで待ち合わせしてくれない? 二人揃ったら私も大事な用件を話したいし」
ネイロは普段の半分程度のスマイルで話し返す。
性格故に孤立しがちな彼女でも、自身が話した一人だけだがコウリン以外に仲の良い者だっている。
彼女としても、今後もその者と末永く続けるつもりであるため、いっそ早い内から三人でパーティプレイが出来る仲まで深めようと思ったのだ。
大事な用件はそれとは別にあるのだが。
「構わないが……そんなおいそれと知らん人紹介していいのか?」
「知らない人なのは否定しないけど大丈夫、その人女性なら誰でも気さくに話せる人だからすぐ仲良くなれるよ、多分」
「お、おう。期待できるように努力しとく。じゃあな」
「ばいばーい」
言い切らない語尾を付けたネイロに不穏を感じながら、ログアウトのためコウリンは跡を残さず消えていった。
「私もそろそろ掲示板見てから寝よっと……ん!? このあまあまなにおいは……」
近場から漂う生クリームと甘酸っぱい果実の香りがネイロの鼻腔に届く。
「まさかクレープ!? それも王都限定のリップル味の! 絶対に食べなきゃソンだ!!」
好物の香りに敏感であったネイロは、脳内の情報を甘味に書き換えながらスイーツ専門店へと飛び込んで行く。
この王都、別名美食の国とも呼称されているのだった。
そこから暫し、供給量が少ないため希少価値が高いリップルクレープに出会えた喜びを噛みしめ、頬が落ちるほどの甘味を噛みしめていた。
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「なんでどこを捜してもおらんねんや。あいつワイのこと薄情にも忘れたんやないやろなぁ……というか忘れっぽいとこあるし、どうせホンマに忘れとるわな」
その間、スイーツ専門店の通りにふらふらと一人の男性プレイヤーが通り過ぎる。
レザーマントを羽織った好青年で、どうやら事が上手く運ばないようでやつれている様子だ。
「まあええか。候補としてはこの王都かスタータウンやし、この広さなら明日か明後日には会えるやろ。今日ははよ寝とこ」
男性プレイヤーはそう言い、静かにログアウトした。
次回は掲示板回




