拳闘士とダンジョン
クソみたいなプレイヤーの民度よ
「この先の階段登ればこの洞窟ともお別れだよ。もうひと踏ん張り頑張ってね〜」
人為的に掘り進められたような土づくりのダンジョンに突入してから早10分が過ぎ、二人は襲い来るモンスターとの戦いに明け暮れている内に、地上からの風が届きつつある所まで出口付近に突き進んでいた。
「グフフッグフフッ!」
刹那、不気味な鳴き声を響かせながら、暗がりからモンスターが棍棒を振り回しながら奇襲を仕掛けてくる。
緑の肌にやせ細った相貌をした強敵のモンスターであるハイ・ゴブリンだったが、狙いをすましたはずの相手には避けられてしまう。
「このねいろんちゃんに卑怯は通じないよ! お返しに魔法いっけー! あつっ……!」
ネイロは杖を地に突き立て最大火力のファイアボールを直接持って投げつけるように放つ。
寸分の内に、モンスターは攻撃が届く前に火だるまとなり、バランスを崩して地面に倒れ込んだ。
「ちょっと待て、ピッチャーみたく火の玉をボールみたいに投げるとか熱くないのか」
自傷を伴った行動に思わずコウリンは聞き出す。
「確かに、火とか普通持ってちゃいけないけどその方が早く当たるからね。いわるゆ必要経費ってやつだよ〜」
そう自分が独自に編み出した戦術を誇らしげに言った。
魔法は直撃した者に相応のダメージを与えるが、逆に言えば軽く触れただけでも少ないながらHPが減ってしまう。
そこをネイロは、HPをすり減らしながらも火属性魔法の速度を上げることにより、より敵の出鼻を挫きやすい一撃を可能にさせたのだ。
減ったHPは拾いものの薬草で回復。こうした魔法への工夫のやりようが、このゲームの自由度の高さを物語っているだろう。
「ゴギギギギ……」
しかし、ハイ・ゴブリンはHPがミリで残っていたため、起き上がりざまにネイロへ飛びかかる。
「ヤバ、うっかりし……っ!」
「無茶苦茶のダブルパンチ」
突然の危機にすかさず割って入るコウリン。全く同時に、残像を生み出す速度で拳を振りまくる。
ダブルパンチのスキルはモーションが非常に速いため、このように反撃を許さない程に間断無い攻撃が可能であるのだ。
コウリンに戦闘やボクシングの素質があったのか、今回繰り出した攻撃回数は8回。
MPの消耗を顧みないごり押しのラッシュででハイ・ゴブリンをバラバラに砕けたポリゴンへと変えた。
「やったあ! コウリンにトドメ取られちゃったけどまたここのモンスターを無傷で倒せたね!」
「それは何よりだがこれ結構腕が疲れるぞ。毎日腕立て伏せでもやって鍛えなきゃそのうち腕が死ぬな」
酷使した自分の筋肉を擦って労りながら、現実での研鑽不足を呟く。
二人の戦闘はハイ・ゴブリンの他にも、豚の顔付きをした二足歩行のモンスターであるオークや、迷宮の番人の二つ名を持つミノタウロス等、進路を妨害する多種多様のモンスターと戦いを繰り広げ、だんだん互いのやり方が理解しつつあった。
「コウリンって最初の頃から何倍も成長してるね。特にAGIがすっごく高いっていうのが俊敏な動きで分かっちゃうよ〜」
ネイロが裏のない至極真っ当な口振りで褒め称える。攻略サイトでは評価1の烙印を刻まれた拳闘士でも、いざ近くで見てみればレベル不相応でもそれなりに戦いにはなるのだと知りながら。
「まあステータスポイントは追いかけたり逃げたりするためにAGIに全部使ったからな。あの森での珍事がもう懐かしくなってきて……あ、レベルが9になってた」
一方でコウリンは、レベルアップの効果音を聞きながら嫌な思い出しかないゾンビとの防戦を振り返り、物思いに耽るように語る。
「ちょ……そんなにAGIに振ってるとか本気で言ってるの……?」
だが話を耳にしたネイロにとって一番受け入れ難かった事実は、軽率とも言える振り方をしたコウリンのステータスポイントである。
「STRならまだしもAGIに偏るのは絶対まずいって。ただでさえ10ぐらいしかダメージなかったし、もし他の人と組んだら走ってるだけのお荷物になっちゃうよ?」
「ああ。だからそろそろ攻撃面も含めてバランス良く振り直そうってな。そうすればお前にも負担にならなくて済むだろ?」
コウリンはあっけらかんとした風に言う、その言葉自体にネイロはある種の優しさを感じていた。
しかしネイロにとって、ステータスを振り直そうとの言い分は完全にヘルプすら読んでいなさそうな無知のそれであったのだ。
「ねえコウリン、VRライフエンジョイしてるのに水をさすみたいですごく言いにくいんだけどね……」
コウリンこそ、承認欲求にまみれていた自分が久しく忘れていた他人への好奇心を抱き、失うのは惜しいと思ったプレイヤーだ。
だからこそ事実を伝えたかったが、声に出すすんでの所でコウリンが激しく落ち込む姿が脳裏に過ぎる。それでも責任感で重たくなった口を開かせた。
「ステータスポイントっていうのは振り直しはできないんだよ。それにAGIに振ってスピード上げても根本が解決出来てないし。でも称号貰いまくればある程度のステータスはなんとかなるかもしれないんだけどさ、そもそも拳闘士はSTRに全部振ってもまだ攻撃力が足りない欠点だらけの不遇職って呼ばれてるの……ごめんね」
ネイロは伝え辛い事実をつっかえずに言い切れた。
彼女はVRMMOが好きであり、課金してまで可愛さに特化させた自分自身が大好きで、操作方法さえも知らないような初心者が逞しく成長してゆく様が最高に好きである。
だが純粋に楽しんでいるコウリンが、モンスターやPKプレイヤーからの恰好のカモにされてしまう苦労を要する不遇職だと気づくのが後になればなるほど、大きく挫折してしまうのは確実である。
だから覚悟した上で、この際言っておくべきだと思ったのだ。
「へぇー。でもお前間違ってね? だって今んとこ拳闘士に弱い印象無いし自由に殴りまくってるだけでスカッとするし、それにステータスがやり方が言ってるけどよ、ゲームじゃんこれ」
「ふあ?」
胃に穴が空くほど悩んだ末に打ち明けた事実だったが、話し相手は底抜けのマイペースな性格の持ち主だったと改めて思い知らされた。
「そうか、そういえばゲームだったな。なら変に失敗を考えることなかったじゃねえか。夢中になりすぎてうっかり忘れちまってたぞ。ハハ」
「そーでしたそーでした。コウリンって深刻そうな顔する人じゃなかったんだったね。はぁあ……なんかギャングだらけのとこに放り投げても平然と生きていそうな気がしてきた」
ネイロの苦労は天然っぷりに打ち消され、もう細かい心配なんてせずに純粋にパーティプレイをしようと決断に至っていた。
「じゃあさコウリン、王都に着いたらの予定なんだけどさ。コウリン? あり?」
なんてことなく振り向いてみたら、後衛にいるはずのコウリンが気配ごと居なくなっている。
どうせ茶目っ気でも出して近くに隠れてもいるんだろうと見渡してみたが、辺りは身を隠す障害物すらない一本道であった。
この時点でもう嫌な夜感しかしなかったが、すぐにコウリンからのフレンドチャットが届く。
『すまん。なんか妙な出っ張りを踏んだら落っこちてた』
ネイロとは真逆に緊張感の無い状態で打っただろうメッセージであった。
「やっばあ、多分ランダム生成の落とし穴に引っかかってるよ……。あれ小数点以下の確率でボス部屋に直行するクソトラップだから下手したら助けに行けなくなっちゃうかも」
ダンジョンに設置されてある落とし穴を始めとしたトラップは一度起動すると壊れるので自分も続けて踏めず、ネイロは攻略サイトに載っていた最悪の可能性を危惧したが、こればかりは運なので祈るしかない。
出口へ向かう目的は一旦捨て、コウリンを迎えに行くため即座に下層への階段を目指して走り出したが、すぐさま2通目のチャットが届く。
『なあなあ、なんかでっかいモンスターが流暢に喋ってるんだが、こんな面白いイベントあるんなら早く言ってくれよ』
「あ、オワタ」
ネイロはへなへなと地面に膝を着き、石像のように硬直し放心してしまった。
この短いメッセージで、最悪の可能性が起こってしまったと気づいたに他ならないからである。
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名前:コウリン
職業:拳闘士
レベル9
HP 360/360
MP 360/360
STR:10(+30)
DEF:10(+10+15)
AGI:50(+10)
INT:10
LUK:10
未振り分けステータスポイント5
装備
右手:なし
左手:なし
頭:なし
体:白帯柔道着上
脚:白帯柔道着下
靴:なし
装飾品1:波動の指輪
装飾品2:なし
スキル
【ダブルパンチ】【投擲】
ブックマークアザマスアザマス




