拳闘士は揺るぎない
なんか某一撃男みたいな物腰に……
疲労感がどっと押し寄せて来ている中、意外な人物が登場したおかげで一手先も読めなくなっていた。
(わーーっ! コウリンのバカーッ! どうしてこんな修羅場にやって来てるのさ! 私が引き起こした問題なのに首突っ込まないでよーー!)
コウリンの大物ぶったような能天気さに、思考を放棄し心の中で叫び散らしたネイロだったが、のこのこ姿を現せば蜂の巣にされかねない状況ではどうすることも出来ない。
何秒か時間はかかるがチャットでコンタクトを取ろうと画策するが、モタモタしている間にコウリンと包囲網参加者の会話は続く。
「へっへっへ、この安っぽい装備じゃまだまだクラスの初心者ってとこだなオメェ。ひとつ教えてやるが、ネイロンって奴はオメェみたいな初心者にゃあ率先して協力する優しい先輩だって思うが、実際んとこは自分は天才ダーって悦に入る勘違いナルシストヤローなんだぜぇ」
「うん、大体知ってた。てことはお前らってネイロに現実を知って落ちこませないために蹴散らされに来たってことなのか? やっさしいな」
代表格の男がネイロの素性を解説してくれているものの、コウリンはやる気無さそうに両手をぶらぶらさせながら謎解釈で話を捻じ曲げる。
「オメェなぁ……こっちがぶっ潰す側だってのになんで負ける前提で話進めてんだ。非があんのは毎日掲示板荒らしてるネイロだっつうのによぉ」
「いやー掲示板ってのがどんなとこか全然分からんけど悪いのは下心ありありなお前らじゃね? まあネイロの好感度上げて付き合いたい気持ちがあるのは無理ないけどよ」
コウリンはネット上での彼女の扱いを知らないために、無理矢理な決めつけで強引に話の腰をへし折った。
「なんなんだこいつは! べらべらべらべらと意味不明な事ばっかほざいておちょくってんのか!? あと耳をほじるな耳を! 最低限のマナーってもんがなってねぇのか!!」
「えー、男女平等って言ってた割には俺だけ説教かよ。ゲームで徒党組んでは俺みたいな一人の民間人に粋がるとかないわー」
「オォォメェェエェェなぁぁぁ!!」
手玉に取られるような会話進行のせいでこめかみがピクピク動いてる男に対し、これまたマイペースなのかただの不真面目なのかつまらなさそうにしているコウリン。
不謙な姿勢で会話のデットボールを繰り出しているが、ここまで頑なにスタンスを貫いているといっそ清々しく思える。
「あちゃ〜生配信されてるのにコウリンってば空気読まなすぎだよ……」
包囲の様子が妙だったので、一連の流れを思わず眺めていたネイロは頭を痛める。
初見では変なアバターな人だと思っていたら実は場をひっかき回すジョーカーであったら無理もないだろう。
周りのプレイヤーも神経を逆撫でされたようで、全員からビキビキとした威圧感がコウリンに突き刺さっていた。
一触即発、どう転んでもコウリンは集団相手との戦闘確実だとネイロは匙を投げて肩を落とした。
「ヤバヤバ……やっぱりピンチのヒロインに駆けつけてくれるヒーローはいないってことだね……」
そして、他人に気を配ってられる状況ではなかったと思い出し、一度冷静になって包囲網を観察してみる。
確かにコウリンはここにいるプレイヤー全員からマークされている。
ところがネイロに注視している者はいなかったのだ。
「……よく考えたら今なら抜け出せるチャンスじゃん。あれ? まさかコウリンってこのねいろんちゃんを助けたいためにわざとやった……の?」
ネイロにとって一気に好転した戦況、彼女は防御面では脆いあまり敵が多勢だと途端に弱くなるが、攻撃面は比類なき高さのためすぐに飛びだして先手を取れば確実にプレイヤー達の動きは止められる。
意図していたのか否かコウリンが作り出したチャンスを不意にしないため、意を決して魔法の使用を念じながら風の如く駆ける。
「おいまずいぞ! ネイロンが動き出してる……ぎゃああああああああ!!!!」
「へ? 一体どうした。あっちいいいいいいいい!!!!」
「みんな〜どいてどいて〜! このスーパーヒロインねいろんちゃんには許可無い動画撮影やおさわりは厳禁だよ!」
魔法の火球をまるで豆まきのようにバラ撒き、コウリンを相手にして惚けていたプレイヤー達を炎に包み込んで浮足立たせる。
「お、ネイロだ。やっぱベテランなだけあって苛烈な攻め方だなぁ」
焼け焦げた臭いで満たされたこの場所へ感想を述べたコウリンがこちらへ向く。
のんびりとしすぎているが、そこかしこに放った魔法は無論コウリンを対象から外しているためじっとしている限り無事だ。
暴走と形容できる程の全力疾走をしているネイロだが、コウリンを横切る際に一瞬だけ静止する。
「走るよ、ついてきて」
「え、今なんかいっ……あーれー」
一言耳打ちしてからコウリンの手を勢いに任せて握り、死の危機から救った恩を返すように本人には恐らく読めてないであろう窮地を救った後、無理矢理にでも走らせる。
このスタータウンを騒がせた逃走劇は、出口を突破しても終わらなかった。
◆◆◆
どこへも振り向かず息が上がっても走り続け、ようやく追っ手の足音が消えた辺で膝に手を付き呼吸を整える。
一瞥すると、どうやらはじまりの草原の奥地までやって来ていたようだ。
「はあっ、はあっ……助かった〜。揃いも揃って怒り心頭だったからもうダメかと思ったよ〜」
生きた心地がしなくなる規模で悶着があったが、安堵の息を零すネイロ。
その傍らには、未だに訳が分からず困惑していそうなコウリンがいる。
ネイロの速度に追い着いていけるAGIはあったようだ。
「俺はどちらかといえば終わったってよりこれからなんだが……お前スタータウンで食い逃げでもやらかしたか?」
一応、ネイロが悪事を働いたとまでは飲み込めているようだ。
とはいっても、流石に掲示板でのいざこざが発端だとはコウリンでなくても行き着く者は少ないだろうが。
「ネイロンちゃんは無銭飲食しないもん! それはさておきありがとうねコウリン! ぶっちゃけコウリンのリアル挑発スキルがなかったらリンチされて死んでたよ」
「そんなつもりじゃなかったが……ああっと、どういたしましてと言った方がいい……よな」
コウリンにはまるで複雑な気分であった。
元々の理想では、レベルが高いネイロの下で行動し、彼女に支えられながら進行する協力プレイを行うつもりであったがために、真逆の事態になっているのがどうにも受け入れ難いのだ。
「でもさ、ご覧の通りスタータウンを拠点にするのはしばらく無理そうだから、ここからざっと三キロ先にある王都セカンピニオンっていうところに逃げこもうと思うんだよね〜。てことでこっち来てみ」
「こっち? 岩壁しかなさそうだが……」
そう怪訝に思いつつも、ネイロを信用しついて行く。
「ここだよ! 一応ダンジョンの入り口で白骨の洞窟って名前があるんだけど、実はここを効率よく進んで向こう側に抜ければ近道なんだよ〜」
いざ岩壁の目の前まで来てみれば、二人分の大きさでぽっかり空いた穴が一つ。
この先はダンジョン、様々な罠が仕掛けられ地上より強力なモンスターが蔓延る天然の洞窟である。
「なるほどな、これは正直言って予測してなかったわ。変なこと聞くがウーウー唸ってるゾンビとかいねぇよな?」
「骨のモンスターはいるけどゾンビはいないよ。というかゾンビ系は基本暗夜の森しか出ないし、それがどうかしたの?」
「別に、聞いてみただけだ。了解したからさっさと突っ切ろうぜ」
「はいはーい。初見じゃ暗くて迷いやすい構造だけれど、道は暗記してるから私が先導するね〜。一番奥にボスモンスターがいるけど今回はあくまでただの通り道、だからサクサク進んでくよ〜」
質問する時のコウリンの表情がいつになく真剣であったためネイロは不思議がったが、すぐに頭からかなぐり捨てて白骨の洞窟へと突入するのであった。
コウリンはゲームに興味無いってのに余計に事態を引っ掻き回すからある意味厄介




