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拳闘士の射程距離

順調にブクマは増えている

有難ぇ

 曇った気持ちに整理を付け、疑問に思っていたドロップアイテムを改めて確認する。


「波動……の指輪? なんだ指輪か。足袋でもいいから靴が欲しかったな」


 名前は良くも悪くも大層で、掌に置いて一見してみるとありふれた銀製の指輪であり、これで装備不可能なら投擲の弾にしてやろうと考えていたのだが、いざ説明欄を見てみるとそうでもなさそうだと実感する。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 アイテム名:波動の指輪

 部位:装飾品

 レアリティ:☆☆☆

 効果:射程距離+2


━━━━━━━━━━━━━━━━━━


「お、結構レアだしやっとまともそうな性能きたな。射程距離……ってのは素手でも効果あるのかが興味あるな」


 装備不可の文字が見当たらなかったため、まともな収穫に小躍りしそうな気持ちに変わる。


 とはいえ、ステータス一覧に存在しなかった射程距離の文字に対し、果たして装備品としては有用なのかの疑念も募ってもいた。


 それでも、空欄状態であった装飾品を埋められると前向きに捉え、サイズが丁度合った人差し指にはめる。


「さあこい! と意気込んだのはいいが、手がデカくなるとかの変化は無しか、本当にただの装飾品だったか……?」


 コウリンは、特に何も起きない状況から期待の意が萎んでいたが、まだまだ折れずに変化点が無かったかを考える。


 しかし、こんなモンスターがウヨウヨいる街の外で立ち止まってのんびり試行錯誤している暇など無いのだが。


「ァァァァ……」


「うわぁ、きったねえ奴来ちゃったよ。さっきのゴタゴタがあったせいでこいつゾンビ化したプレイヤーに錯覚するな、プライド捨てて逃げるか」


 そうこうしている内に、忌まわしき相手であるベーシック・ゾンビの上位種であるミドル・ゾンビが獲物の気配を嗅ぎつけてすぐそこまで迫っていた。


 強さや体格としては下位種より一回り大きく、心なしか異臭も漂う相手なために戦意は起きるはずもなく、コウリンは迷わず背を向ける。 


 だがそこは上位種、やすやすと逃してはくれない。


「しくった! 脚噛まれちった!」


 敵から目を離してしまったのが運の尽き、ゾンビが右脚をがっしり拘束しつつ、何の怨みがあるのか執拗に食い込ませていた。


「グロい! 動きまでエクソシストみたいにグロすぎてもう吐き気がしてきた……」


 稀にしか味合わないような恐怖から、じたばたもがいても尚更食い込まれるし逃走不能だしで、最早不快感の心配どころではなくなってしまった。


「もうホントに嫌だ! こんな最悪な森二度と行きたくねぇ! 今度この森に行くんなら魔導書大量に持ってここら一帯全焼させてやるからな!?」


 冷静さはとっくに消え失せ、語気を荒げて思い付く限りの本心を口に吐きまくるものの、それでもゾンビは振り解けない。


 なので観念して頭蓋に向けて殴ると決心する。噛みちぎられて死ぬよりは遥かにマシであると、怒りと涙を流しながらの手段であった。


「アアアアッ……!」


「あぁ!? コイツぶん殴る前にダメージ食らったような気が……」


 コウリンは一瞬だけ変化に気づいた。

 生ゴミを漁るみたいな気色悪い感触を覚悟していたが、拳に伝わったのは空気と風のみだと。


 なので再び殴る。躊躇はしない。


「ァァァァ……!」


「気のせいじゃない? 今確かに触れる前に仰け反ってたな。もしかして、素手でも射程距離が伸びる効果はあったってことか! あ……ありがとうございます! 俺のエサになっちゃった見知らぬプレイヤー!」


 やはり直接当てる半メートル前に不可視の何かが命中しており、ダメージもしっかり通っていた。


 これこそ汎用性の高さで名高い射程距離上昇の効果。

 かつての所持者だった長銃士の男は、長所を伸ばすためにこの指輪を血眼になって探し求めていたが、念願叶って手に入れた翌日でコウリンに奪われるとは、まさに報われないと言う他無い。


 そしてコウリンの手に渡った結果、拳闘士の短所であった射程距離の無さが改善されたと言って過言ではないだろう。


「グググッ……」


「よっし! 隙あり!」


 ゾンビが衝撃により怯み、嫌らしさ全開の拘束を思わず解く。

 今の通り直に殴るしか攻撃できないのと、直接殴らなくても攻撃が届くようになるとでは、かなり違った戦い方が可能になるだろう。


「じゃあな腐った奴! スピード勝負なら俺の得意分野だからな」


 コウリンは天に救われた気持ちで出口へ向かってひた走る。


 念には念を押し、ステータスポイントの20全部をAGIに注ぎ込んでより確実に逃げられるようにしたが、振り直しが効かない以上、もし誰かが同行してれば軽率だとツッコまれそうである。


「今のうちに街まで戻って、ネイロが忙しくなさそうなら合流しよう。銃やゾンビで死ぬのはゴメンだからな、ハハ……」


 走る最中、強いプレイヤーで連想するネイロの庇護下で行動すると当面の計画を立てて暗夜の森を抜け出した。


 そのネイロが今、スタータウンで巻き起こっている動乱の中で死線をくぐり抜けている真っ只中とは知らずに。



▲▲▲



「掲示板であんだけ煽り散らして逃げ回ったみてぇだがやっとこさ追い詰めたぜ! お前の動きは全て生放送にして配信されている! くたばる所を全国に晒すんだな!」


 包囲の中央にいる男性プレイヤーが大剣を振りかぶった姿勢のまま、薄暗い裏路地に隠れている一人のプレイヤーへと声を轟かせる。


 その隠れて縮こまっているプレイヤーは、圧倒的な人数差にブツブツと文句を呟いていた。


「勝手に配信するとか掲示板の人達ってモラルないな〜。ネイロンちゃんピンチじゃん」


 ネイロはログインと同時に多数のプレイヤーから取り囲まれてしまい、スタータウン内で最も迷路のように入り組んでいる西区の袋小路にまで逃げに逃げたのである。


 西区の特徴を利用してプレイヤー群を撒こうと策していたものの、相手プレイヤーに街の構造を知り尽くしたベテランがいたようで袋のネズミとなってしまったのだ。


「絶対ナイって思ってたデスペナが近いってなるとハラハラだね〜、もう笑ってられないけど。さてさて、このピンチどうやって凌いじゃおっかな〜」


 余裕ぶりながらも緊張のあまり引きつった笑みを浮かべていたが、戦力差から打開案を決めるため、リスクを承知で物陰から僅かだけ覗きこむ。


 見えた限りではどうやら同調している者は五人おり、レベルは最も高くて15、だがネイロがログインした時にはもっと大勢いたため正確には五人以上がいると当てはめられる。


「ガハハ! オレ達が男女平等主義だった不運を呪うんだな……誰だオメェ? オメェもネイロン包囲網に加わりたいのか?」


 しかも藁にもすがりたい思いであるのに、会話から察すると早速相手側へもう一人味方が現れてしまっているようだ。


「ヤバヤバぁ、こんなことになるなら掲示板に好き勝手書かなきゃよかったよお……」


 待てば待つほどどんどん絶望的になってゆく戦況。最早行動を起こす勇気すら喪失してしまっていた。

 ついに年貢の納め時がやってくる。向こうにいるプレイヤーは皆それを待ちわびているのだ。


 ところが、自棄にならずひたすら注意深く観察し続けていたネイロは、プレイヤー集団のなかにどこか見知った顔の者が増えていたと気づく。


「ネイロン包囲網って歴史に出てくる戦いみたいだな。あとお前らお祭りみたいな雰囲気で具体的に何をしているんだよ。しかもネイロンってネイロのあだ名みたいだがまさか同一人物なのか?」


 聴く者が脱力しそうな間の抜けた声に、適当にキャラメイクしたかと思わざるを得ない造形の顔。


「そりゃそうだぜオメェ。ネイロの呼び名知らないってことはさては掲示板見てなかったタチだな? 参加意思が無いんならスキルの巻き添えにならねぇ内にどっか行きな」


「すまん無理。俺だってネイロに用事があるからさ。お前ら気合い入ってるとこ悪いがちょっくら会わせてもらってもいいか?」


 呆れる程のマイペースさ、相貌も最後に会話した時と同じ正真正銘コウリンであった。

今日もう一話投稿できるかなぁ

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