拳闘士とPK戦
ランキング上がってる
う、うれしー
「外しただと!? チッ、運だけは良い奴め」
密集した木々に身を隠しつつ、舌打ちしながらボソボソと口に出す男がいた。
手にはスナイパーライフルに極似した銃が握られており、銃口からは煙が糸のようにゆらゆら昇っていた。
彼は長銃士の職業を選び、長射程からの狙撃を活かしてPKに勤しむレベル8のプレイヤーである。
つまり、直前に誰かを狙撃しようとしたとは言うまでもないだろう。
「こっちから銃声が聞こえたはず。ビビってる内にやられる前にやり返しに行かないと安心できないかな。銃と縁のない日本住まいの俺が銃殺されるとか洒落にならんし」
その男が狙撃しようとした対象のプレイヤーであるコウリンが、間の抜けている表情と食ってかかるような気迫でこちらへ歩き出した。
なお、彼は見境なくプレイヤーを襲っているのではなく、十分計画を練った上でコウリンを獲物としていた。
戦い方からして殴り合いの喧嘩もしたことが無さそうな素人であり装備も貧弱、初心者保護の恩恵が無くなったコウリンを経験値とキル数へ加えるには絶好のカモであったばずだが、不覚にも相手が意図しないバックステップによって躱されたのである。
「まずいな……非常にまずい。オレの銃じゃ装填まで5秒かかる、その間に肉弾戦に持ちこまれればいくら相手が素手でも分が悪い。だが幸いにもAGIはオレの方が高いな、一旦離れて相手が油断し始めた辺りでもう一度撃つか」
男は冷静な判断力で戦闘を一時中断し、自身が考案した逃走ルート通りに木々のオブジェクトの隙間をくぐり抜けて退却する。
遠隔戦闘のみに特化した長銃士の戦い方を理解している引き際であった。
「あれおかしいな、おまわりさんのゾンビがどっかいったっぽいな。いたんなら民間人に銃を向けてはいけませんって説教したかったのに」
コウリンは得体の知れない狙撃主を見失い、一旦足を止め、目を凝らしてキョロキョロと周囲を見回す。
もう遠くまで逃げられてしまったのか、まさか木に変装してるのか、様々な考えが脳裏に巡るものの、その狙撃主は岩陰に潜んで虎視眈々とチャンスを窺っていた。
「……何とか撒けたか、だがもう二度と失敗はしない。もししくじってこれ以上退けば銃声で近寄るモンスターの餌食になるリスクを負ってしまう。次はスキルを使ってでも確実に仕留めてやる」
男は銃弾を込め、長銃士において汎用性の高いスキルである【跳弾】の使用を念じる。
これで、多量のMPの消費と引き換えに次に放った銃弾が外れても地面やオブジェクトに当たり次第様々な方向に跳ね返り、標的にとって予想だにしない一発を食らわせられるだろう。
武器の扱いに慣れてなくてもゲーム内で得られるスキルで必要な分は補佐可能、これがキルラオンラインの親切な要素であり、もしコウリンが事前に調べていたのならメジャーな職業を選んでいたであろう。
「さよならだマヌケ面、柔道部に帰るんだな」
標的の動きが少なくなったタイミングで銃を構え、搭載されてあるスコープを覗く。
定めた狙いはプレイヤー全般の弱点である頭部、彼の攻撃力ならばそこに命中させるだけで即死級もの威力である。
今や大人しくしているだけのコウリンは、デスペナルティを負ってスタータウンへ強制送還されるしか道はなく、男は勝利を確信した、そのはずであった。
しかし、事は想定外の方向へと働いていた。
「うーん、いるとしたら多分そっち! ヤマカン投擲アタック!」
コウリンは狙撃相手の仕返しを諦めておらず、既に行動を起こしていたのだ。
「な、何ィ!? オレに向かってなんか飛んできただと!? ギャアッ!!」
痛覚の無い衝撃と共に、自分の脳天へ深々と突き刺さる細長い物体。
そして、万全を期し満タンにしてあるはずのHPが、今起こっているたった一回の出来事で0にまで減らされてしまっている。
「お、やったやった! 適当に茂みの鳴ってる方向に剣を投げたけど、どうやら当たった音がしたみたいだ、ラッキー!」
運勢に恵まれた結果を出し、コウリンは喜びに満ち溢れガッツポーズを決める。
「やられた……だが……何故一撃でHPが全部削られたんだ……」
対して男は、全く状況が読めないまま倒れる最中、即座に開いたメッセージから得た死因の情報は、コウリンから投擲のスキルにより妖精の片手剣を投げられ力尽きた、と簡潔に書かれてあった。
「ざけんな……んなレアアイテム惜しみなく投げられるとか反則だろ。普通勿体無いとか思うだろうがッ……」
予想外であっけない死因、ミイラ取りがミイラになった結果により、男は自分の行おうとした所業を棚に上げ、ミスを悔いながらスタータウンへと送還された。
報復しようにもデスペナルティによる経験値減少と一時的に半減するステータスのためにしばらく安全地帯から動けず、そのうち叶わぬ夢となるだろう。
「まあこんな安そうな剣でも役に立てたんなら本望だろ。投擲スキルさえ使いこなせればゾンビも怖くないが、これで投げられるアイテムが無くなったのは痛いな……」
狙撃主と仲良く消滅する妖精の片手剣に、心の中で別れを惜しみながら淡々と語るコウリン。
本人にとってはただモンスターを倒しただけとしか思ってなかったが、起こっていた状況がどれだけ大事であったかは、真実を告げるシステムメッセージが表示してくれた。
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レベルが5→8に上がりました
称号≪下剋上≫を獲得しました
条件:自分よりレベルが上のプレイヤーをKILL
効果:格上の相手に対しクリティカル率+50%
称号≪装備は投げ捨てるもの≫を入手しました
条件:レアリティ☆☆☆以上の装備品を投擲して倒す
効果:装備無しの部位があればAGI+10
アイテム【波動の指輪】を奪いました
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プレイヤーの中でもほぼコウリンに限るが優秀な称号を二つも獲得、更にアイテムも手に入れ、失った武器もあったが実りのある一戦だったと言えよう。
そしてこの美味い報酬は、前触れない奇襲にも臆せずPKKを行えたプレイヤーにのみ与えられる証である。
「やっべえええ! まさかゾンビじゃなくてプレイヤー倒しちゃったのか!? お、俺は悪くねぇからな……」
ところが、相変わらず目の付け所がズレているコウリンにとって、プレイヤーを知らず知らずの内に倒していたショックの方が大きい。
こちらを襲う敵はモンスターだけではなく、時には道行くプレイヤーでもあるのだと、ひしひし沸き上がる罪悪感をもって学習したようだ。
「うっかりやりすぎたけど、今の悲劇は正当防衛ってことにして忘れよう。最初に襲ったのは向こうの方なんだし、こういうのは前向きに考えるのが大切だってなんかの古典で見たしな。次は戦利品確認だな」
レアアイテムなんてなかった
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