プロローグ
プロローグだけは短めです。
リアル性よりもご都合主義を優先しておりますのでご注意を
スーパーのアルバイトを終え、ひっそりと帰宅した阿佐ヶ谷光凛の自宅にダンボール箱が届いていた。
「うっわ、お袋の嫌がらせか? だとしても俺の苦手な食いもんはやめてくれよ……」
送り主の心当たりと箱の重さから中身を危惧しつつ包装を乱暴に破り捨てて中身を覗く。
「これは……野菜より変なもん寄越すな」
すると予想外、ヘルメット型の機械とゲームソフトのパッケージ、そして一通の手紙が封入されていた。
まずどんな差出人か知るため、ご丁寧に手紙に書き綴られた文章を読み上げる。
「なになに『ハピバやでコーリン! ワイや夏冬や。今年のおめぇさんの誕プレにはこのキルラオンラインとその他一式を用意したやで! 実はワイのいとこが……』ってあいつまだ俺の誕生日覚えてたのか、今時手紙なんて昭和かい」
ネットの住人によくいる口調で書いてある文の送り主は、今でもたまに連絡を取り合っている光凛の友人であった。
まだ文章は長々続いていたが、めんどくさがりな性分である光凛はさっさと自宅に入り、重たい中身を全て取り出した。
「あいつよくこんな何十万もするもの送れるな。宝くじでも当たんなきゃ真似できないって」
友人からの粋が良すぎるプレゼントへ逆に苦言を呈する。
これらの機械は、ここ数年で主流のジャンルとなったフルダイブ型VRMMOの専用機であり、内蔵されているゲームタイトルは全国で話題沸騰中の『キルラオンライン』通称KLOであるとCMで知っていたため、大体の状況は呑み込めていた。
国民的RPGであるアゴクエを彷彿とさせるファンタジーの世界観や、数値以外にプレイヤーの技量や運動神経も問われるシビアな難易度、ゲーム世界での住人の一人になっているかのような巧みな演出力により、βテスト版をプレイした者は皆かなりの熱狂を表現していた。
「あんまり興味無かったけど、いざ手元にあるだけでなんかやりたくなってくるな。この後どうせ暇だし折角のプレゼントをつけもの石にするのも忍びないし、ちゃっちゃと準備してからやってみるか」
そう言い、独り暮らしのお供であるコンビニ弁当をたいらげた後、ペットのジャンガリアンハムスターの餌を慣れた手際で補充させる。
「おーし、ぼこすこ食べて良い肉になれよ〜」
お目覚めしたペットの身体を指で挟むや揉むや好き勝手した後、説明書片手にキルラオンラインのパッケージと機械を弄り始めた。
このハムスターとケージ等の備品も、ちょうど去年に友人から送られたプレゼントである。
飼い始めこそ渋々で返送を考えていたが、世話の段取りはすぐに呑み込められ、餌は廃棄予定のキャベツで充分。今では孤独感を紛らわす唯一無二のパートナーとなっていた。
年に一度の記念日に、何万円もしようが祝福してくれる羽振りの良い友人だと分かるだろう。
「この説明書はもう手放せないな。うっかり忘れたら起動もままならなくなりそうだ」
そして、基本操作の載ってある部分を隅々まで目に焼き付け、ヘルメット型の機械を被る。
「コードはめちゃくちゃ絡まるわ部屋は汚くなるわで最悪だったが、これで俺もVRデビューだ。でもゲームなんだし、勝ち負けは二の次にして自己満足のいく範囲でプレイしとこう。ゲームスタート!」
起動するためのワードを出し、光凛の意識はヘルメットによっていずこかへと飛び去った。
なお友人からの手紙には、初心者の光凛へ手とり足取り教授するためにフレンドコードが記載されていたものの、途中で確認を切り上げた光凛がこの存在に気づくのには長い日数を要した。
夢も目的も無ければ貧乏性で気分屋
プレイの動機が弱すぎ系主人公