マリー。
「あれはまだとても完成形なんかじゃなかったんだよ」
ペック爺さんがそう口を開いた。
「完成形じゃない?じゃあなんであんなに動き回っているんだい?」
ジチさんも思わず口を挟む。
「村長だ…。この村の村長が俺とペックのやっている事に興味を持ち出して、出来上がった人形兵士を国に高く売りつけようとしたんだ。」
「最初は僕たちも拒否をしたよ。まだ、未完成で各部の調整も済んでいなかったからね」
「でも村長は早く国に売りつけたかったんだ。奴らはとんでもない手段に出た」
「マリーをね、誘拐したんだよ」
何となく想像は付いていた。
ペック爺さんの弱点と言えばそこだろう。
別に人形兵士を奪われてもまた一から作り直せばいい。
それは村長もわかっている。
「俺たちは急ピッチで鎧を仕上げた。そして…あの兜を作った」
「ああ、あの兜はフィルの兜とは雰囲気が違うね。なんなんだい?」
「「悪夢の兜」だ…。あの兜には当初の想定以外にも能力を付与した。当初は視野が狭くても攻撃に反応できるように、感覚強化と認知強化だけだったが、そこに外部からの命令を声の他に手のひらサイズの制御球で行えるようにした。次は暴走状態…さっきは戦闘状態と呼んだが、本来は外部から意図的に暴走をさせられるようにした。そして四の村に対して、襲ったり近寄ったり出来ないようにした。最後に陽の光を浴びるとその力でアーティファクトの力を回復できるようにした」
暴走状態…僕の想像通りならガミガミ爺さんとペック爺さんはとんでもないことをしようとしたのだろう。
「ガミガミ爺さん、それって…」
僕はその先の答えを言わせたくなくて口を挟んでしまった。
「小僧…」
「フィルさん、これ以上は聞かなくてもいいんじゃないかと思うよ…」
僕はフィルさんに注意を促した。
「大丈夫よ…キョロくん。私だってお爺ちゃんの孫だもの、お爺ちゃんが何を考えているかは想像がつくわ」
そう言っていたフィルさんの手は震えていた。
僕はフィルさんの手を握って「本当に大丈夫?」と聞く。
「ありがとうキョロくん」
フィルさんは僕の方を向いて微笑んだ。
「お爺ちゃん、続きを話して」
そしてガミガミ爺さんの方を向いてそう言った。
「ここで村長に人形兵士を渡しても、もっと作れと言ってくるだろう。
そしてその度に要求は過激になるし、断るたびにマリーを人質にされる。
もしかしたら二度と帰ってこないかもしれない。
だから俺たちは意図的に暴走をさせることにした」
やはりそうだった…
ガミガミ爺さん達は村長を亡き者にしようとしたのだ。
「この村の村長はね、村には住まないで、山に自分の家を建てて住んでいるんだ」
「だから山の上でなら、人形兵士を暴走させても問題ないと俺たちは思った」
「そして期日に僕たちは人形兵士を渡しに行った。そこまでは良かったのだが、相手は村長だし、村にスパイを紛れ込ませていたんだろうね。村長の家に着いた時に制御球を奪われてしまって、逆に僕たちが殺されそうになったんだ」
「後は、もうこの通りよ。俺たちは命からがらマリーと逃げてきた」
「幸い、亡霊騎士は村を襲わないし、村人も村長の報復を恐れて何もしないし、僕が倒れたら亡霊騎士を止める手立てがなくなるから何事もなかったかのようにこの1年半は過ごしているよ」
「1年半?」
「ああ、作っている時間があったからな」
「ああ、そういう事ね。それで爺さん達は対抗策とか考えていたのかい?」
「一応、今も2人で次の人形兵士を作ろうとはしていたが、どうしてもあの人形兵士程の能力が出そうになくて、作っても良くて相打ち、悪くてボロ負けだからな…中々先に進んでいない」
「フィルさん、ガミガミ爺さんは優しいね」
僕がそう言うと、フィルさんは「え?」と驚いて僕を見る。
「フィルさんまで連れてきていたら村長に誘拐される可能性もあったんだと思うよ。だからガミガミ爺さんは危険な道のりを毎月1人で来ていたんだよ」
そう言うとフィルさんは「そうかな?そうなのかもね」と言って少し表情を柔らかくした。
「へぇ~。仲良しだ~」
ジチさんが僕たちを見てそう言ってきた。
「え?ジチ…なんで?急に?」
「え~、手なんか繋いで見つめ合っちゃってさ~」
「あ、これは違うの!!」
そう言うとフィルさんは真っ赤になって僕の手を放す。
「別に~、もっと繋いでいればいいんじゃない?」
ジチさんはこれでもかとフィルさんをからかう。
僕はガミガミ爺さんの方を向き、「亡霊騎士はどうすればいいかな?」と聞いた。
「小僧、おめえ…」
「え?本当に奴を止めてくれるのかい?」
「それの為に僕はここに来たから」
そう言うとペック爺さんは目頭を押さえて「ありがとう…」と言った。
その表情からペック爺さんの、責任感の強さを感じる。
「奴を止めるには二種類の方法があって、1つは物理的に行動不能まで殴って黙らせる方法と、もう一つは村長の所から制御球を取り返して奴に向かって機能停止の命令を出す方法になるよ」
僕達は現状勝ち目があるとはとても思えないので村長から制御球を取り返す方を選択した。
ガミガミ爺さんとペック爺さんは大急ぎで僕とフィルさんの鎧に身体強化の擬似アーティファクトを埋め込んでくれている。
カムカは外で身体強化の腕輪を試したがったが、また内通者に見られても良くないからと言って断られた。
「できたよ」
そう言うとペック爺さんが僕に鎧を渡してくれた。
「いい鎧だね。
ドフの気遣いが細部にまで行き渡っている。
君は余程ドフに気に入られているようだ」
「うるせえ、サッサと用意をしてこい。ほらフィル、こっちも出来たぜ。着てみろ」
「うん、重さも何も気にならないわ」
ガミガミ爺さんは「当たり前だろ、誰だと思っていやがる」と言って笑う。
「さて、行くのはフィルとカムカと小僧で俺と姉ちゃんは留守番な」
「わかってるよ。キヨロスくん、お姉さんの分もやってきてね。後フィルの事もよろしくね」
僕は「はい」と答えて出かけようとしたのだが、ガミガミ爺さんからまだ最後の用意が出来てないと呼び止められてしまった。
最後の用意とは何だろう?
そうしていると奥からペック爺さんとマリーが出てきた。
「マリー、気をつけてな」
「うん。いってきます!」
「え?」
「マリーちゃんも連れて行くの?」
「うん、村長の所にはマリーを連れて行く事になっているんだ。
それが亡霊騎士を止める方法の一つでね」
「さっきの2つの方法とは違う…」
「いいから、行けば全てわかるし解決するから」
「だいじょーぶ。お兄ちゃんたちがけがをしたらわたしが治してあげるから」
「でも…」
フィルさんが心配そうに言う。
「日が落ちる前に村長の所に行ってくれ」
しかしガミガミ爺さんは問題なんか無いように話を続ける。
とりあえず時間が惜しいので今は言われた通りにする事にした。




