3回頼み込めば考えてくれる人。
「そろそろいいかい?」
準備の終わったおじさんが声をかけてきた。
待ってくれていたらしい。
「待たせたな」
ガミガミ爺さんが前に立つ。
「じゃあ行きましょうか」
僕が声をかける。
「小僧は留守番だ」
ガミガミ爺さんが僕に留守番と言う。
「え?そうなのか?」
おじさんも驚いている。
「小僧は働き過ぎだ。今日は村でゆっくりしてろ」
「でも、僕も手伝って夜には四の村を目指そうかと…」
「詰め込み過ぎだ馬鹿野郎。まだ城に行く期日まで8日もあるんだろ?普通に歩けば3日だ。5日も猶予があるんだ。1日くらいここで休め。もし8日後に足りなくなったら今日に戻って今すぐ出かけりゃあいいだろ?俺だって恩返しくらいしたいんだから、素直に好意に甘えておけ!」
「…はい」
なんだか逆らえない圧を感じる。
「よし、じゃあ俺たちは山に行く。
お前は空でも眺めてぼーっとしているか、病みあがりのフィルが無茶しないか見張っていてくれればいいんだ」
「それだと落ち着かないですけど…」
「それならさ」
おじさんが名案とばかりに僕に詰め寄る。
「このビッグベアの解体を頼めないか?昨日の手際の良さなら後を任せられるし、退屈が嫌なら丁度いいだろ?」
「それなら」と僕は引き受けた。
ガミガミ爺さんは「そう言うんじゃねえんだよ」と不満そうだった。
「それじゃあなフィル。行ってくる」
「お爺ちゃん行ってらっしゃい」
「お前は病みあがりなんだから無理すんじゃねえぞ?」
「わかってる。でもムラサキさんも今日の夜に最後の薬を飲めば大体治るって言ってくれているのよ?」
「それでもだよ」
そう言いながらガミガミ爺さんは男の人たちと山に登って行った。
僕は一応、小屋の裏にある洞窟について説明をして村の人たちに判断を任せることにした。
さて、手持ち無沙汰にならないようにビッグベアの解体を済ませてしまおう。
僕を見ていたフィルさんがしばらくすると口を開いた。
「キヨロスくんは手際がいいのね。おじさんが認めて任す気持ちがよくわかるわ」
そう言って驚いていた。
「惚れましたかな?」
ジチさんがフィルさんの後ろで変な事を言っている。
フィルさんはまた耳まで真っ赤になった。
フィルさんを、からかって遊んでいるな…
「ジチさん、そう言うのはやめてあげてください。
それでどうしたんですか?」
「お姉さん、さっきキヨロスくん達にハンバーグをあげてしまったのでお昼ご飯のお肉が足りなくなってね。
ちょっとそこのお兄さん、お姉さんにお肉を分けてくださいなー。
ちゃんと美味しいところにしてよね」
ジチさんはお店屋さんで聞くような会話をしながらケラケラと楽しそうだ。
「いやー、それにしてもからかっている訳ではないけど、キヨロスくんはめっけもんよね?」とフィルさんに向かって言い出した。
「そこら辺の魔物より強くて狩りもできるし、こうやって解体も手際よくやれる。
うん、男はこうでなくちゃね」
「ジチはキヨロスくんの事…気になるの?」
フィルさんまで感化されて辺な事を聞いている。
「あははは、お姉さんは10も下の男の子と何かなろうって気はないよ。
まあ、キヨロスくんがお姉さんにベタ惚れでどうしてもって3回くらい頼み込まれたら考えちゃうかもね。
ただ、キヨロスくんとならキヨロスくんが狩りをしてくれて、私がそれを料理するお店が出せるからねえ…
そう言うのって良いわよね。
お姉さん夢見ちゃうわ」
僕はジチさんが冗談でもそこまで考えている事を知って恐ろしくなった。
確かに、料理のお店の話は悪くないかも知れないが、あの10人の面倒までみるのは大変な事だ…
おっと、僕もジチさんに感化されてしまいそうだ。
僕はさっさとジチさんにお肉を渡して作業に戻る。
「良かったら、私も手伝おうか?」
フィルさんがそう言ってくれたが、綺麗な服が汚れるのは嫌だろう。
「ありがとう。でもせっかくの綺麗な服が汚れちゃうと嫌だから大丈夫。
それにフィルさんは病みあがりなんだからゆっくりしてて」
「もう、キヨロスくんまでお爺ちゃんみたいな事を言ってー」
そういうとフィルさんは綺麗な顔を膨らませてムッとしている。
本当、綺麗な人はどんな表情をしても綺麗なんだな。
確かに昨日からのガミガミ爺さんは凄くフィルさんの事を心配している。
なぜか下山の時には槍とかムラサキさんを持ってあげなかったけれど…
僕は作業の手を止めてフィルさんの方を向いて顔を見る。
「それ、僕のせいかも知れないんだ…。
ごめんねフィルさん」
「え?なんでキヨロスくんが謝るの?」
フィルさんが驚いて聞き返してくる。
「僕が前の時間から跳ぶ時に、ガミガミ爺さんを連れてきたから…。
前の時間では僕が倒した毒竜が最期に出した毒霧をフィルさんが浄化するために吸い込んで死んでしまってガミガミ爺さんは凄く悲しんで居たんだ…。
それを僕は連れてきてしまったから…今はフィルさんを失いたくない気持ちで心配なんだと思うんだ。
だからガミガミ爺さんが今までより心配性になっていたら僕のせいだから…
ごめんなさい」
僕はきちんとフィルさんに謝った。
命を助けられた事は良い事かも知れないけれど、やはり普通ではない事をしていたらどこかで今までと何かが変わるのかも知れない。
フィルさんは僕を見て「そんなに背追い込まないで」と優しく微笑みながら言ってくれた。




