ジチさんとフィルさん。
「キヨロスくんだってこんな美人なフィルと2人で居たいのに、お爺ちゃんが睨みをきかせていたら困るわよね?」
「ジチさん、どうしたんですか?酔っぱらっています?」
「お姉さんは酔ってなんかいないわよ。ただね、無事にキヨロスくんが帰ってきてくれて、こうして一緒に居てくれる人まで連れてきたから嬉しいのよぉ」
ジチさんなりに僕の帰還を喜んでくれているみたいだ。
「でもジチさん、僕だけじゃなくてフィルさんやガミガミ爺さんまでからかうのは駄目ですよ」
「はーい。で、キヨロスくんはハンバーグ食べたい?」
「食べたいです。フィルさんが作ってくれるご飯も楽しみだけど、ジチさんのご飯も食べたいです」
「お、素直でよろしい。フィルもドフ爺さんも食べるでしょ?今焼いてくるね!」
…まさに怒涛だった。
「小僧、すげぇ姉ちゃんだったな。どこで見つけたんだあんなの?」
昨日、二の村の少し先で出会った話をした。
後、昨日のお弁当はジチさんの手作りだと言うと
「あの飯は旨かったな。そうかあの姉ちゃんがあんな料理を…」
ガミガミ爺さんがしみじみと言う。
「あ、…ごめんキヨロスくん」
フィルさんが謝ってくる。
「フィルさんどうしたの?ジチさんが嫌だった?」
「ううん、そうじゃないの。私ジチさん程料理が上手じゃないから、料理を作ってあげたいんだけど、そこまで美味しくないかも…」
女心と言う奴なのか?
フィルさんとジチさんの年が近いからか、ちょっと相手の事が気になってしまうみたいだ。
「そんな事を気にしてくれていたの?
僕はフィルさんの料理も食べてみたいから楽しみにしているよ」
「本当?無理してない?」
「うん。無理してないよ。楽しみにしているよ」
僕が二度そう言うとフィルさんが笑顔になってくれた。
やっぱ美人は笑顔も美人なんだなと思った。
しばらくして美味しそうな匂いがしてきた。
「キヨロスくんが狩ったイノシシとクマで作ったハンバーグでーす!」
ジチさんがテンション高くハンバーグを3つ持ってきてくれた。
「さあさあ、食べてみてよ。お姉さん張り切って作ったんだからさ」
ジチさんは最初にガミガミ爺さんに勧める。
「おう、あちちちち……
お!こりゃあ美味い!」
ガミガミ爺さんは熱い熱いと言いながらハンバーグを頬張る。
ふふんと言う顔をしながらジチさんは嬉しそうに僕のところにきた。
「さ、お待たせキヨロスくん。さあどうぞ!」
僕はガミガミ爺さんの喜ぶ姿から期待に胸を踊らせながらハンバーグを口に運ぶ。
やはりジチさんの料理は細かいところまで手が込んでいて美味しい。
空腹がプラスされているからか思わず涙ぐむ。
「ジチさん、美味しいよ」
「ありがとう。君が喜んで食べてくれたからお姉さんも嬉しいよ」
昨日の夜も思ったが、ジチさんは喜んで食べると本当に嬉しそうな顔をする。
「さ、最後はフィルだ!お口に合うといいんだけど…」
「いただきます」
そう言うとフィルさんはハンバーグを一口食べた。
「美味しい!」
そう言うとフィルさんはもう一口、口に運んで味わって食べている。
「お姉さん、頑張りました!」
ジチさんは嬉しそうにしている。
「良かったねフィルさん。1回目は食欲なくてステーキも最後まで食べられてなかったのに今はハンバーグを美味しいって食べられているね」
僕がそう声をかけるとフィルさんは涙を浮かべながら「そうだね」と言っていた。
それを見ていたガミガミ爺さんもまた泣いた。
この後、経緯を聞いたジチさんも泣いて喜んでくれた。
残ったハンバーグを食べたフィルさんは「やっぱり敵わないな」と呟いた。
それを聞いていたジチさんが目を丸くしてフィルさんに詰め寄る。
「ちょっと、何を言ってんの?悩み事?お姉さんに言いなよ」
「え?あの…別に…大したことではないの」
「大したことないなら言えるよね?ほら、お姉さんに話してみなよ」
「料理…」
フィルさんは耳まで真っ赤にしながら自身料理の腕がジチさんには遠く及ばない事を気にしていると打ち明けた。
「はぁ?何言ってんのフィル?」
ジチさんは「まさかそこ?」と驚いている。
「私、さっきキヨロスくんに料理を作ってあげるって言ったのだけど、ジチさんの料理を知ってしまうととても出せないと思って…」
ジチさんは「呼び捨てー」とフィルさんをジーっと見ている。
「私、普通になら作れるけどジチ…みたいには作れないから、キヨロスくんに申し訳なくて…」
「あのねー…」
ジチさんがやれやれと言いながら続けた。
「フィルみたいな綺麗な子が料理まで完璧に作れたら私はフィルに何1つ勝てる所がなくなるでしょ?それに普通には作れるんでしょ?」
「うん…普通には作れるけど…」
「それならそれで良いじゃない?
別にドフ爺さんが毎日泡吹いて気絶するような料理じゃないんだし…
私は覚える機会があっただけ。
私からしたら、美貌があって手足も長くてスタイルもいい、声も綺麗。
特別なアーティファクトを授かって村まで守るっていうフィルの方が余程反則よ」
「別に…そんな事…」
「あるの。度の過ぎた謙遜は嫌味なの。そういう事をドフ爺さんは教えてくれなかったの?」
そうなのだ、ジチさんも決して美人ではないとか綺麗ではないとかではない。
間違いなく美人の枠組みの中にいる人なのだが、なんと言うか…ジチさんは村一番の美女でフィルさんが国一番の美女と言う感じなのだ。
「それにさフィル?いい、その部分はキヨロスくんが決めることよ。作る人の気持ちも大切だけど食べる人の気持ちだった同じくらい大切なの」
ジチさんが僕を見る。
そんな僕とガミガミ爺さんは何も出来ずに2人の会話を黙って見ている。
「キヨロスくんはお姉さんの料理だけじゃなくてフィルの料理も食べたいわよね?」
「それはもう!」
僕はフィルさんには悪いかもしれないが作ってくれると言うご飯が楽しみだ。
「ほら、まだ問題ある?」
今度はフィルさんを見る。
「え?…ないです」
「ほらね?解決!料理が上手になりたかったらお姉さんが教えてあげるからさ」
「本当ですか!」
フィルさんがパアッと笑顔になった。
「うっうっう…すまねえ。すまねえなぁフィル!」
横を見るとガミガミ爺さんが泣いている。
最近、怒るか泣くかしかしていない気がしてきた。
「早くに両親を亡くして、俺が男手一つで育てたから料理の所まで手が回らなかった…。それでもお前は裁縫も料理も掃除も一通りやれたから満足してしまっていたが…、そうだよなぁ?すまねえ事をしてしまったな」
「ちょっとお爺ちゃん、恥ずかしい」
「掃除も裁縫も普通にできるのなら十分よ。
イヤミだわイヤミ。
もうお姉さんは料理を教えるのやめようかしら?」
「え?そんな…」
フィルさんの顔が曇る。
「おい姉ちゃん、それは無いぜ」
ガミガミ爺さんが困った顔でジチさんを見る。
「嘘よ。後で一緒に料理をしましょ?
キヨロスくんはお腹空かせて待っていてね」
ジチさんはそう言うと笑っていた。




