フィルの死。
64回目の時間。
戻った俺はまた薙ぎ払いを誘う。
薙ぎ払われた毒竜のしっぽに斬りかかる。
「今度こそ切り落とす!!」
グシャ!!
惜しい!後数センチで尻尾が切れるところまできた
二撃目で尻尾の切断は叶った。
これがもう少し細い先端部分なら一発だっただろう。
腰のロープを切り捨てて地面に降りる。
目の色が変わった毒竜がこちらを睨んでいる。
毒竜が前足で爪による攻撃をしてきた。
俺はその指を狙う。
手には当たったが指には当たらなかった。
その勢いで身体が吹き飛ばされてしまい、木々の中に落とされた。
当たりどころが良くない。
「トキタマァ!!次だ!!」
「了解です!」
65回目の時間。
ついに尻尾を切り落とした。
まだ懲りないのか尻尾で攻撃をしてくる。
リーチが全く違うのでもう余程ヘマをしないかぎりは当たらないだろう。
「ようし、今からは剣の特訓だ。
なます切りにしてやる」
俺は斬る事のみに集中して毒竜の身体めがけて剣を振る。
全身の至る所を切り刻む。
刃の通る所、弾かれる所を見極める。
「ようし、大体わかった」
今なら尻尾もアーティファクト無しで切れそうな気がする。
あえて尻尾の射程に入る。
毒竜は懲りずに尻尾の一撃を放ってくる。
俺はタイミングを合わせて剣を振り下ろす。
グシュ…と言う音を立てて剣が毒竜に刺さる。
7割まで斬れた。
アーティファクトを使えば一撃での切断も可能だろう。
「ようし、有終の美だ。」
「はいー」
「トキタマ、わかって居るじゃないか」
「わーい、お父さんに褒められましたー」
66回目の時間。
最早苦戦はしなかった。
尻尾を一撃で切断し、その後は手足を重点的に切っていき、動きを鈍らせる。
動きが止まったところで正面から胸元めがけて突きを放つ。
剣は根元まで毒竜に刺さった。
毒竜が断末魔の悲鳴を上げている。
俺はそのままアーティファクトを発動させて剣を斬りながら引き抜く。
ギィヤヤァァァァァァォォォォ…
これで終わりだ、
そう思った時、毒竜の背中が思い切り膨らんで、そして弾けた。
最後の仕返しと言わん勢いで大量の毒霧が放出された。
「ぐあっ!?」
毒霧の直撃を食らった。
まさか最後にあんな攻撃をするとは思わなかった。
「火の指輪」の耐性のおかげでかろうじて動けてはいる。
毒霧は山からの風で流されていってしまった。
俺は今やるべき事をやる。
毒竜の顔に近付き、三本の角をトンカチで叩き折る。
毒竜が死んだからか、もともと叩く事が正解なのか想像より早く角は折れた。
折った際に出てきたカケラを飲み込む。
ムラサキの言うことが確かならばこれで解毒されるだろう。
だが、今はダメだ…少し休もう。
「トキタマ、外敵が来たら起こしてくれ」
「はーい、おやすみなさい」
「………」
「さ、次に起きた時はいつものお父さんに戻っていますからね」
10分後
僕はトキタマの呼ぶ声で目が覚めた。
目の前には毒竜の死骸。
手には毒竜の角。
何があったのかわからない。
恐らく状況からして僕が毒竜を倒して角を折ったのだろう。
そして力尽きた。
「トキタマ」
僕はトキタマに状況を聞くことにした。
「お父さんは跳んですぐに無我夢中で我を忘れて戦っていました。何回か跳びましたが村のお姉さんの事は僕が止めて置きました。お父さんは何回か跳んで毒竜の尻尾を斬れるようになりました。
毒竜は最後に毒霧を出して死んでいきました。
お父さんはその毒を浴びてしまいましたがカケラで何とかなりました!」
そう言う事だったのか、全く覚えていない。
リーンは無事だろうか?
申し訳ないし、確かめられないのはもどかしい。
「ありがとうトキタマ。助かったよ」
「いいえ、お父さんに褒めてもらえて僕も嬉しいです」
とりあえず毒竜は始末した。
山小屋に帰ろう。
山小屋までの道のりは山道にした。
この木々も少しずつ時間をかけて元に戻っていくだろう。
日没までに何とかなって良かった。
フィルさんもきっと良くなる。
これで1つ目のノルマは達成された。
後は四の村に行ってからになる。
僕は山小屋に着いた。
「ただいま戻りました!」
音がしない。
山小屋は静まり返っている。
フィルさんはまだ寝ているのかな。
起きてこの角を見てくれたらきっと喜んでくれる。
あの声と顔で喜ばれたら大体の男の人たちは恋に落ちてしまうかもしれない。
僕はフィルさんを起こさないようにそっと山小屋の中を歩く。
ガミガミ爺さんに角を見せて安心させてあげたかったのだ。
フィルさんの寝床の横でガミガミ爺さんが座り込んでいた。
寝ているのかな?
「ただいま戻りました」
ガミガミ爺さんは僕の方を向く。
「おめえ、戻ったのか?」
「はい。これが毒竜の角です。3本あったから、どれが正解かわからないけど全部持ってきました!」
僕はガミガミ爺さんに角を見せる。
「今更そんなもん持って帰って来ても遅いんだ…。もう…フィルは……」
そう言うと、ガミガミ爺さんは肩を震わせて泣いてしまった。
「キヨロス。よく戻りました」
フィルさんの横に置かれたムラサキさんが語りかけてきた。
ムラサキさんは僕の手を見て話し始めた。
「それは毒竜の角ですね。やりましたね。ところで、あなたが毒竜を倒した時のことを教えてくれますか?」
何があったと言うのだろう?
何故ムラサキさんはそんな事を気にするのだろう?
「すみません、我を忘れて無我夢中だったらしく僕も最後は覚えていないんです。でもトキタマからは状況を聞いたので説明できます」
「!!?」
ガミガミ爺さんがハッとした顔をしてムラサキさんを見る。
ムラサキさんもガミガミ爺さんを見て頷いている風に見えた。
「キヨロス…恐らく毒竜は最後の力で毒霧を放ったのでしょう」
「はい、僕もそれを聞いています」
「その毒霧はあなたに向けたものではなく、今後山に住み着くかも知れない同族のために山を毒で汚染しようとしたのでしょう。
その毒霧は山頂からの風で流された…」
まさか…
僕は背中が冷たくなった。
「流された毒霧は三の村を襲う。
それをフィルは最後の力で浄化しました。
ドフの制止を聞かずに…
そして彼女はすべての力を使い果たして死にました」
すぐそこで横たわるフィルさんは寝ているのではなく死んでしまったと言われたが実感がわかない。
外傷もなく苦悶の表情でもなく、安らいだ顔をしている。
現実味がない。
「そんな……そんな…」
「小僧、お前が悪いんじゃねえ…悪いんじゃ…」
ガミガミ爺さんが肩を震わせてまた泣いた。
どれだけ苦労を重ねたかわからない。
試行錯誤の末の勝利がこんな形で無駄になるとは思わなかった…
思わなかった…
頭が痛い。
頭が痛い。
こんな結末は嫌だ…
嫌だ…
こんな結末…
こんな結末は…カエテシマエバイイ…
そうだ、その為の僕とトキタマだ。
こんな結末は嫌だ。
僕は結末を変えるために考えた。




