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サンドボックス ガーデン  作者: さんまぐ
第1章 南の「時のタマゴ」
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約束の夜。

夜、出発前の最後のごはん。

母さんは僕の好物ばかりを出してくれた。

父さんと母さんはモメにモメたらしく、普段通りのごはんで僕を送り出すべきと言うお父さんと、好物ですぐに帰ってきたくなるように送り出すべきと言うお母さんの話し合いはお母さんの粘り勝ちと言うか「作るのは私です」と言う一言で決着がついたらしい。

メニューは卵とハムの炒め物、パン、サラダ、そしてイノシシのシチューだった。

イノシシのシチューは宴の時のものは他所の家庭の味だったので、美味しかったが今一つだった。やはり母さんの味は僕好みだ。


「日の出の時刻に出発だろ?早く寝て明日に備えなさい」

父さんが僕にそう言う。


「ごめん、父さん。僕今からリーンと会う事になっているんだ」

「あら、家に呼ぶ?」

母さんがお茶でも用意するわよ?と言ってくれた。


「リーンはまだ僕の出発を納得していないみたいだから。

かなり言い残したことがあるんだと思うんだよね。

場合によっては大泣きするかもしれないから、その姿を父さんと母さんに見せるのはリーンも嫌だと思うんだ。

だから外で会うよ。もしリーンが落ち着いてくれたら家に連れてくるかも」


母さんは1人で何か勝手に納得し始めて「うんうん、そうね。それもいいわね」と言っている。

「そうだな、幼い時からずっと一緒だったお前が1人で旅に出るんだ。不安にもなるだろうし言いたい事もあるだろう。男としてキチンと受け止めてあげなさい。」

父さんは少し殴られてこいと言っている。


やりにくいな…

思わず笑ってしまった。

父さんと母さんも一緒になって笑っている。


段々と母さんが泣き始めたので僕は外に出てリーンを迎えに行く。


家から東に向かうとリーンの家がある。

僕は明日からの事を少し考えていた。

多分、日数的には三の村の南の山と四の村での出来事をこなすだろうから城まで7日~10日と言うことになるだろう。

それで決着を着けて帰ってくるまでを入れると大体15日か…

その間、僕は何回跳んでどれだけの時間を過ごすのだろう。

実際は15日だが、僕の中では100日くらいになってしまうのかもしれない。


そう思っているとリーンの家の前に着いた。

夜にと言う約束以外、時間の指定は無かった。

昔から夜に会うのは食後となっていたのでいつもの癖で来てしまった。


早かったのかもしれない。

僕はリーンの家の扉をノックする。


「キヨロス君かい?」

中からリーンのお父さんの声が聞こえてきた。


「はい」


「もう少し待っていて」

と奥からリーンのお母さんの声が聞こえる。


「待っていてほしいって言っている。すまないね。」

「いえ、僕が早く着すぎただけですから。」


「いや、リーンからはそろそろ来ると聞いていたから君は悪くないよ」


扉越しでそんな事を話していると中からリーンの「お母さーん」と慌てた声が聞こえてくる。


「キヨロス君を外で待たせるのはどうかと思うんだが、入れてあげてもいいかな?」

リーンのお父さんが、奥のお母さんとリーンに聞いたのだろう。


「「絶対にダメ」」

ハモられてしまった。


「すまないね。妻たちは今頑張っているからもう少し待っていてくれるかい?」

「はい」

頑張る?何の話だろう?

僕は家の前で待つことにした。


不思議なことに村の人たちは誰も通りかからなかった。


それから少しして扉が開いた。


「行ってらっしゃい」

「楽しんでおいで」


リーンのお父さんとお母さんの声がして

「行ってきます」と言ってリーンが出てきた。


最初はリーンの家の光で良く見えなかったが、リーンは随分と着飾った格好で出てきた。

「キョロ、お待たせ」

「大丈夫。待ってないよ」


「それでお風呂に入ったのか…」

つい口から言葉が出てしまった。


「え?お風呂の事知っているの?」


しまった、僕だけしか知らない話だ。

ここでバレるとリーンの思い出作りが台無しになる。

「いや、リーンが綺麗な服を着ていていい匂いがしたし、午後は一度帰っていたからお風呂に入ったのかと思ったんだ。」


「そっか、キョロは相変わらず勘が良いね」

何とか誤魔化せた。


「何処に行く?」

僕が聞くとリーンは「村を一緒に歩きましょう」と僕を誘った。


僕とリーンの会話は基本が昔話、思い出話だった。

今この場に居ないナックの話も出てきて、ちょっとナックを誘ってあげても良かった気がしたが、今はリーンに納得してもらう為の場だからこれでいいんだと言う事にした。


リーンの家に着いた辺りから雲が減ってくれたので今晩は月が随分と明るい。

先日の戦闘は曇りだったので、夜中にはまた雲が出てしまうのだろう。

今は時折雲に隠れるが十分に地面を明るく照らしてくれている。


先ほど、リーンの姿が月に照らされた時、僕はリーンを綺麗だと思ってしまった。


僕が言葉も出ない姿を見てリーンが「どうかな?」と聞いてきた。


僕は「凄く綺麗だね」と正直に答えた。

初めて見る服は村の裁縫上手の人たちに作ってもらっていたらしい。

成人の儀の後でリーンの両親からプレゼントされたそうだ。


「ありがとう。初めて着るから手間取っちゃって、キョロの事を待たせすぎちゃったね」と言いながら照れている。


つい見惚れてしまった僕に「恥ずかしいからあまりジロジロ見ないで」とリーンが顔を赤くして言う。

そのリーンの顔を見て一つの事に僕は気が付いた。


「お化粧しているの?」

「え?母さんが折角だからしなさいって言って夕方からずっと教えて貰ってて、この時間になっちゃったの」


「夕方から?」

あまりの手の込みように驚いてしまった。


「初めてだし、わからないことだらけでお母さんにつきっきりでやって貰っていたんだけど、随分と時間かかっちゃった」

「じゃあ、夕ご飯とかは?」


「私はパンだけ、お父さんとお母さんは今から食べているんじゃないかな?」

「お腹すくよ、僕が家から何か持ってこようか?それとも家に来る?今日は母さんがご馳走を沢山作ってくれたからまだ手を付けていないのがあるよ?」


「ううん、いいの。大丈夫だから。それに折角の洋服を汚しちゃうといけないから、この服では食べられないよ」

リーンが必死になって僕を止めるので僕はそれを受け入れることにした。


徐々に足は北の村はずれに向かっている。

<降り立つ川>に着いた。


「ここから色々あったね」

「まだほんの数日前の事だね」


僕はその事よりも、どうしてもこの場に来ると思ってしまう事がある。

最初にリーンを助けられなかった事だ。

僕はまたリーンに謝った。


「もう、いいのに。どうしても気になるの?」

「うん、僕のせいでリーンには怖い思いをさせてしまったから」


少しの沈黙の後でリーンが口を開く。

「ここに来なければ良かった。キョロに嫌な事とか明日の事とか考えさせないようにしていたのに…」

リーンが不貞腐れる。

そんな事を考えてくれていたのか…


僕は自分が責められることだけを考えてしまっていた。


でも、リーンに心残りがあってはいけない。

「リーン、僕は君に責められるかと思っていたよ。もし吐き出したい気持ちがあるなら今言ってくれないかな?僕は受け止めるから」


「…っ」

リーンが泣きそうな顔をしている。


僕はリーンが口を開くまで待った。

「酷いよ、キョロ」


まさかの酷いと言われたことに僕は驚いてしまう。


「行かないでとか一緒に連れて行ってと言ったら叶う?無理でしょ?行かなければ村は総攻撃で全滅するし、一緒に行けば約束を反故にしたことでやはり総攻撃に遭う。私がワガママを行ってキョロを困らせたくなかったから言わないようにしているの!」

一度あふれ出た気持ちはなかなか止められない。

リーンは泣きながら僕に思いをぶつけてくる。


「もう、折角お化粧したから泣きたくなかったの。綺麗なままで言いたいこともあったのに…。最悪だよ。もう。」

僕の話でリーンの予定が崩れてしまったらしい。


「リーン…」

「うん、跳んで。もう一回、綺麗なままで私が言いたかったことを言わせて」

リーンは僕の言いたいことを察してくれた。


本当は女の子を泣かせたのに跳んでやり直すと言うのはルール違反なのかも知れない。

だが、僕は跳べるのだから跳んでもいいと思う。

不死にさせられてしまったのだから許されるだろう。

一通りの言い訳を並べ立ててからリーンの方を向いた。


「跳ぶときは、ちゃんと私も連れて行って」

リーンは何でもお見通しだな。



「トキタマ!」

離れた所にいたトキタマが僕の前に来た。

アーティファクトのくせに気遣いが出来るあたりが憎らしい。

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