旅立ち前日の午前。
[3日目]
起きると母さんはいつもの母さんに戻っていた。
我慢してくれているのだと思うがありがたい。朝から泣かれていては色々困ってしまう。
僕の出発は明日だ、今日は荷物の用意をしないといけない。
どうせならフードの男も荷物くらい用意してくれればいいのに
そう思いながらカバンにある程度必要になりそうなものを詰め込む。
昼ごはんはいつもより豪華だった。
…備蓄使っているよな、これ…
宴でも大分消費しているはずだから狩りに出られないのは厳しい。
恐らく人質にされる父さんたちは村からの外出は出来なくなる。
早く王を殺してしまわないと。
「どうかしら?美味しかった?」
母さんがいつも通りの質問をしてくる。
「とても美味しいけど、食材こんなに使って平気なの?」
「貴方の明日以降の分を使っただけだから平気よ」
そうか、僕の分を使っていたのか、流石は主婦だな。
食後、荷物の再点検をしようと思っていたのだがそうもいかないみたいだ。
「母さん、人がいっぱいきたよ」
「え?」
玄関を開けるとそこには村の人たちが居た。
村長から話を聞いたみんなは泣きながら感謝と謝罪を口々に言いながら僕に選別だと言って食料を持たせてくれたり、寝袋や外套を用意してくれた人もいた。
本当ならもっと話をしたいし、送別会もやってやりたいのだが親子水入らずの邪魔はできないと言って言いたいことだけ言って帰って行った。
中には僕の顔を掴んで抱きしめてきた人も居た。
僕は皆の愛情に報いたい。
心からそう思っていた。
沢山荷物を貰った。
出来るなら全部持っていきたい。
荷造りのやり直しが必要だな…
ありがたいけど、ちょっと大仕事になりそうだ。
あ、それもどうやら無理そうだ…
僕は玄関を開ける。
「いらっしゃい」
「お前…」
怒っているナック、それと泣いているリーンが立っていた。
理由が理由なので見られてもどうと言う事は無いのかもしれないが、やはり怒られる姿も泣かれる姿も人には見られたくないな…
2人を<降り立つ川>まで連れていく。
ここなら泣かれても怒られても問題はない。
2人もそれを察してか今は何も言わない。
「お前!父さんから聞いたぞ!!」
川に着くなりいきなり怒られた。
「キョロが1人で大変な思いをするなんて!しかも私たちが人質って…」
そうか、村長は人質と言うところまで話したのか…
そうなるとどこまで話が行っているのかが気になるな。
「私達も連れて行って!」
リーンが涙目で言ってきた。
「それはダメなんだ」
「どうして!?」
恐らく村長からの話は聞いているのだが納得は出来ないのだろう。
「ナック、村長からなんて聞いているの?」
「え?今のキョロは明日の朝から跳んできたキョロで、王の所に行かなければ村は総攻撃で壊滅させられる」
「そうだね、他には?」
「キョロはアーティファクトの力で捕まえられないから自分の意思で城に行く必要があって、俺たちはその為の人質にされた」
「うん、だから僕1人で行くんだ」
「でも!!」
リーンが納得できない様子で詰め寄ってくる。
「ならさ…」
ナックが言いかけた事を遮る。
「ナック、君の言いたい事は大体わかるよ。
今から備える事で何とかなるのではないか?そういう事だよね。
元々前の時間では村を放棄するか戦うかの選択だったんだ…、放棄して逃げ延びてもフードの男はアーティファクトの能力で何処までも追ってくる。
だから徹底抗戦も考えた。
それこそ、今から備えてみんなにはひとかたまりになって貰って夜中に僕が戦う。
それも難しい。
前の兵隊とは強さが全く違っていて本当にみんなが無傷で生き残るのに何百回跳べば良いのか見当もつかない」
「俺たちもいるだろ!1人で戦うなんて言うなよ!」
「君には無理だ」
僕のその声にリーンがハッとしてこちらを見た。
「ナック、なんで僕と跳んだのがリーンなのか聞いてきたよね?あの時は君の事を思って言わなかったけれど、君は跳ぶ事に耐えられなかったんだ」
「何だよそれ?体にどんな事があっても、そんなのどうって事ないだろ?俺なら頑張れるさ!」
「耐えられなかったのはナックの心なの…、だから私が跳んだの、キョロには私がお願いして、それで私が一緒に跳んだのよ」
リーンが務めて優しい口調でナックにそう言った…
「どういう…事だよ」
ナックが目に見えて動揺している。
「君の心は跳ぶ事で繰り返される殺人に耐えられなかった」
「そんな…」
「君はまた跳べなくなる。それどころか今回は兵隊の数は50人だから、途中で挫けてしまう可能性もある」
「私は、それを悪い事だとは思わない。
私は後ろで避難指示をしてナックに作戦を説明するだけだから平気なだけで、前で戦うナックが辛いのは当然のことだもの…」
リーンはあのナックを思い出しているのだろう、目をつむって苦しそうに話している。
「今回をまた退けても、また次がくる。
国中の兵隊…1200人を僕だけで退けるのは不可能だ…それもみんなを守りながらなんて絶対に無理だ…、だからこの道を選んだんだ」
「お父さん!やってみないとわかりませんよ!僕は何回でも一緒に跳びますよ!」
今まで大人しかったトキタマが割り込んでくる。
ナックが気を良くしてコチラを見る。
「それはしない。トキタマ、お前は僕に力を使わせたいだけで言っている。他にも何か事情があるのかも知れないが、僕は勝ち目の見えない戦いで跳び続けようなんて思わない」
リーンは諦めたようにコチラを見ている。
ナックはショックを受けてしまっている。
「だから、僕はフードの男の言うように城に行く事にしたんだ。
城に行って王と話をする。
トキタマをどうやって渡すのかは知らないけど、渡す事で村が助かるならそれでもいい。
万一、話しても王が国中の人間を殺す事を辞めないと言うのなら殺すしかないと思っているんだ」
2人は何も言わずに黙って僕の話を聞いてくれている。
「そこで2人にはお願いがあるんだ」
「お願い?」
「なんだよ、いきなり…俺にもできる事なのか?」
「うん。2人にしか頼めない事なんだ。
僕のいない間、父さんと母さんの事をお願いしたいんだ」
「そんな!」
「お前、帰ってこないつもりかよ!」
「そんなつもりはないよ?でも、父さん達の事を気にしないで行くのは気が気ではないんだ。
それにフードの男は「約束は守る」とは言ったけれど、何があってもおかしくない。
だから、村の事、父さん達の事をお願いしたいんだ」
またリーンが泣いている。
「しょうがないな!」
ナックが笑いながら僕の方を見ている。
「俺だってやれるって所を見せてやる。だからさっさと済ませてさっさと帰って来いよな!」
「ありがとうナック」
リーンはまだ納得をしていないのか、夜になったらもう一度会ってと言って帰っていった。
ナックは「それくらいは諦めろ」と言う顔で「最後まで話聞いてあげろよな」と言って帰っていった。




