異変。
15回目
戦闘後、ナックがもうやめようと懇願してきた。
僕はそれを拒否した。
結果はまずまずだが、矢の当たりどころが悪くて大怪我をしてしまった人がいる。
もしかすると朝まで保たずに死んでしまうかも知れない。
それはダメだ。
僕はまた跳ばなければならない。
ナックが酷く混乱している。
今のままでは使い物にならない。
後数時間、朝まで待ってから跳ぶ事にしよう。
朝になった。
大怪我をした人は亡くなってしまった。
やはり跳ぶしかない。
「ナック、跳ぶよ」
「嫌だ、行きたくない!」
ナックが叫んだ。
「どうしてだい?」
「村は守られただろ?ならもういいじゃないか!」
半狂乱とはこう言う事を言うのであろう。こんなナックは初めて見た。
きっと連戦で疲れてしまったのだろう。
「ナック…君はあの人の家族にだけ悲しい思いをさせて自分達が助かればそれでいいのかい?」
僕は可能な限り優しく問いただした。
「俺はもう嫌なんだ!行けばまた人を殺す事になる!俺は何回も何回も殺した!
それも同じ人間をだ!普通じゃない!!
目を閉じるとあの顔が浮かんでくるんだ…
もう見たくない…」
ナックの本音が聞けた。
なんだそんな事か、それならば安心した。
「なら、君が僕のルートを辿ればいい、そうすればこれから殺すのは別の顔だよ。
ナック、君の出来ない事は僕がやる。僕1人ではどうしても手が足りなくて村が守れないんだ。だから僕が西側の敵を倒して避難誘導をする。
北の兵隊だけは1人だと厳しいからそこだけは我慢してくれないかな?」
これならまだナックは戦える。
今度こそ僕は村を救うんだ。
「やめてくれ!!そういう事じゃないんだよ!!」
ナックは叫んだあと嗚咽を漏らしながら泣いている。
リーンが駆け寄ってきてナックを慰めながら僕を見ている。
その目が酷く僕をイラつかせる。
「ちっ、それじゃあ駄目なんだよ!」
「落ち着いてキョロ!」
リーンが僕の前に飛び出してきた。
「どうしちゃったのキョロ?疲れているんじゃない?顔が険しいよ?」
顔?そうかも知れない。
僕はあの川で目覚めてからもう何回も跳んだんだ。
休まずにずっと跳び続けている。
でも休んでなんかいられない、僕は弱いから休む暇があったら跳ぶ。
跳んだ時には疲れはない。
あるのは記憶とこの剣とトキタマだけだ。
「僕は疲れてなんていないよ。
ただみんなで無事に今日を迎えたいんだ。
リーン、君や少し前のナックは知らないけど、僕が何もしなければみんな傷つく、みんな死ぬ。
だから僕は跳ぶんだ、跳んでみんなを守りたいんだ」
泣いていたナックが少し落ち着いたのか口を挟んできた。
「キョロ、お前は殺す事に抵抗ないのかよ?相手も人間なんだぜ?俺なんて手に感触が残っているんだよ…」
「なんだ、そんな事か…」
呆れた僕は心のままに呟いてしまった。
「キョロ!?」
リーンが驚いて僕を見ている。
「お前…」
ナックはそれ以上何も言えていない。
「いいかい、2人とも。
僕はね、一度目には村の誰も救えなかったんだ。
ナックとリーンが重なり合っている死体も見たんだ。
もうアレは見たくないんだよ。
その為なら兵隊くらい何人でも殺すよ。
それにね、ナック…今の戦いだけでもう僕は14回も跳んでいるんだ、いつも逃げちゃうフードの男を除けば相手は15人、全滅させることが出来ない時はあるし、ナック…君に手伝って貰っている事も含めれば一回につき7〜8人は殺しているんだ、それが14回だからもう僕は100人近い兵隊を殺しているんだよ。
でも大丈夫だよ、僕たちが殺したのは何回殺しても今の15人だけだよ。
それに村を守る為だから大丈夫。
今だって感謝されているだろ?誰も僕たちを怒らない。
ううん、怒れないんだよ」
「キョロやめて!」
リーンが抱きついてきた。
僕の胸でリーンが泣いている。
「お前、変わったな。さっきまでのお前じゃないんだな」
ナックが悲しい顔をして僕にそう言った。
そうなのか?
僕は変わってしまったのか?
ああ、そういえば随分と前にも2人に「キョロがさっきまでと別人に見えているんだ」と言われたな…
そうか、変わってしまったのか。
ここまで駆け足で来たから実感がまるでない。
でも、僕は立ち止まれない。
何としても全員で生き延びるんだ。
まだ抱きついて泣いているリーンと下を向いて俯いているナックはもういい。
話を戻そう。
ナックはダメだ、もう使い物にならない。
一緒に跳べるのは3回が限界か…途中で怪我をしなければもう少し行けたのかも知れないが人を殺す事に耐えられないらしい。
良くそれで村の番をすると言ったものだ…
「トキタマ!」
「はいですー」
僕はトキタマを呼んだ。
トキタマは戦闘中には僕から離れすぎない安全そうな場所にいて僕の事を見ているのを少し前に知った。
だから用事がある時は呼ぶ必要がある。
トキタマも慣れたもので呼べばすぐにくる。
「お父さん、今回で15回です。おめでとうございます!」
そう言えば毎回5回刻みで跳ぶ事に変化が出てくる。
「今回は何が変わる?」
「んー今回はすごい事ですが今のお父さんにはあまり関係ない事です。これも言ってもわからないと思うのでもう少ししたら説明しますね!」
今すぐに使えるものではないのなら必要ないな。
後は昨晩から聞こうと思っていた事があるので今のうちに聞く事にする。
「毎回飛んだ先の時間が前後して定まらない、これは何とかならないのか?」
「それは仕方ないです」
「なぜだ?」
「それはまだお父さんが跳ぶことに関しては僕よりも幼いヒヨコちゃんだからです。もっともっと沢山跳んで上手にならないとダメです。お父さんは飛んだ先…着地のイメージがまだ出来ないのです」
なるほど、ヒヨコか…
さて、これ以上話しても意味はない。
僕はただやる事をやるだけだ…
「行かない!俺は行きたくない!キョロ!やめてくれ!!」
僕を見て跳ぶ事がわかったナックは取り乱して叫んでいる。
「やめてキョロ!」
リーンが僕に辞めるように言っている。
「大丈夫だよ、このナックとはもう行かない。僕はまた1人でやるよ」
「本当か…?」
ナックが心底ホッとした顔をしている。
「ああ、本当だよ。ナック、君は連れて行かない」
確かに僕は変わってしまったのかも知れない。
以前の僕ならナックに拒絶をされたらその事に悲しんでいたと思う。
だが今はそれどころではない。
このナックはもういい、少なくとも1人のナックでチャンスは3回ある。
次のナックがダメならその次のナックだ、後一歩という所まで来ているんだ。
「私を連れて行って」
いつの間にか僕から離れていたリーンが泣いた後の赤い目で僕を真っ直ぐに見てそう言っている。
「ありがとうリーン。でもリーンでは駄目なんだ。君には戦闘力がない。君を連れて行っても戦いで僕の不足分を補って貰うことは出来ない」
だからナックに戦って貰うしかないんだ。
折角神様から「大地の槍斧」を授かったんだ、戦闘力だけなら僕よりも強いんだ。
「私が避難誘導とナックに指示を与える」
リーンは引き下がらない。
「リーン、僕の気持ちをわかってくれ、君が傷つくのをもう見たくないんだ、もうあの悲しい思いはしたくないんだ」
「そうならないようにキョロは戦うのでしょう?
私でも戦える。直接は戦えないけれど、今キョロの知っている情報と作戦を教えて。
それで私が避難誘導と戦闘指示を出せばキョロは満足に動けるしナックも戦える!」
こうなったリーンは引き下がらない。
仕方ない、確かに0から始めることは無駄かもしれない。
それに駄目だった時は記憶を連れて行かなければ良いだけだ。
「わかったよリーン」
僕は今までの経緯と傾向、それと敵の配置と作戦を伝えた。
「向こうのナックが手間取る可能性もあるから避難ではなく広場の中央にテーブルや椅子でかまくらを作ってその中にみんなで入るんだ。ただ、今までとは動きが変わるから敵の動きも変わる事が予想できる。何が起きるかわからないから気をつけて」
「わかったわ、大丈夫。きっとやれるわ」
僕はリーンの言葉に少し救われる気がした。
「早く終わらせてまた前みたいに3人で楽しい日々を過ごしましょう!」
リーンが優しい笑顔を僕に向けてくれる。
「そうだね」
「それじゃあナック、今までありがとう。僕は行くよ、トキタマ!!」
「はいはーい!」
「【アーティファクト】!!」
次こそは終わらせてやる。




