亡霊騎士の正体。
「とりあえずさ、お水飲みなよ」
そう言ってジチさんがお水を飲ませてくれた。
「キヨロスくんは頑張っているって、マリーちゃんの事は悲しいけど、そんなに君が落ち込むこともないってお姉さんは思うよ?」
「ジチさん、ありがとう」
僕はこの後もう一度跳ぶ事になる。
落ち込んではいられない。
「ペック、やるんだ」
ガミガミ爺さんが制御球をペック爺さんに渡す。
「全アーティファクトの機能を停止」
ペック爺さんは制御球に声をかける。
途端に亡霊騎士の威圧感のようなものが消えた気がした。
「これで完全に機能停止したよ」
「よし、じゃあ脱がせよう。小童は鎖を巻き取れ、フィルと俺は鎧。ペックは薬箱、姉ちゃんは飲み物と食べ物の準備を頼む。小僧、お前はここで見ていろ」
ガミガミ爺さんの指示で皆が一斉に行動する。
カムカが鎖を外している間に、ガミガミ爺さんとフィルさんが足の鎧を脱がせる。
中から足が出てくる。
「おや、人形兵士って言っても人間みたいな足に作ってあるんだねぇ」
水を持ってきたジチさんが立ち止まってそう言う。
フィルさんたちは、そのまま手の鎧を外す。
中から出てきたのは人間の手だ。
カムカが息を飲む。
フィルさんの顔は真っ青になり手が震えている。
「フィルさん、僕が変わる。フィルさんは椅子に座っていて」
「キョロ…くん、これって…」
「大丈夫だから、ね」
そう言って僕はフィルさんと変わって残りの鎧を脱がせる。
胴体の鎧からは柔らかな丸みを帯びた女性の身体が出てくる。
「おい…これって…」
カムカも言葉を失う。
「この兜は装着するのは簡単だが、一度着けた後は外し方を知っている者じゃないと外せない」
そう言うとガミガミ爺さんは耳がある部分の下あたりを何やらいじっている。
カチっという音がした。
「………小僧、頼めるか?」
ガミガミ爺さんの顔面も蒼白になっている。
「わかったよ」
そう言って僕が変わって兜を脱がせる。
中から出てきた顔は僕が外れて欲しいと思った予想通りだった。
「え…これって、マリーちゃん?」
「そうだよ、この子が本物のマリーだよ」
ペック爺さんが泣きながらそう言った。
「どういう事だよ、さっきまで一緒に居たあの子は何なんだよ!!」
カムカが声を荒げる。
「あのマリーが人形兵士だったんだ」
僕がそう告げるとペック爺さんは「君は本当にすごい子だね。どこでわかったんだい?」と聞いてきた。
所々に違和感はあった。
初めて会った時のとても13歳には見えない容姿と言動。
村長から餌と呼ばれていた事。
亡霊騎士から執拗に狙われていた事。
村を出て亡霊騎士に出くわしてからの流暢な話し方。
そして僕が自分を見失って一対一で亡霊騎士と戦った時のことを知っていた事。
それらから、もしかしたら亡霊騎士の正体がマリーなのではないかと思い始めた事を説明した。
極め付けはあのマリーが命を投げ出した事を挙げた。
「君は本当にすごい子だね」
ペック爺さんが驚いている。
「今度こそ話してくれますよね?」
「うん、話すよ。でもその前に」
そう言うとペック爺さんはマリーを抱きかかえて奥の部屋に連れて行く。
「済まないが付き添いを頼めないかな?」
そう言うとガミガミ爺さんが「俺が行く」と奥の部屋に行った。
1人戻ってきたペック爺さんが話し始める。
「マリーが拐われた話はしたよね。
あの時は亡霊騎士が暴走して命からがら逃げてきたと言ったけれど、真実は違うんだ」
ペック爺さんの話はこうだ。
そもそも、人形兵士を作るときに思い入れを持って大切にできるようにとマリーそっくりの人形を作った。
それでマリーと人形のマリーは同じ顔をしている。
所作や常識云々を一から教え込むのは大変だし、大人が子供の身体に常識を教えるとうまくいかないケースもあるかもしれないという事で、あの青いブローチ…擬似アーティファクト「記憶の証」を作って人形のマリーに持たせる事で人間のマリーが近くにいる時には人間のマリーと同じ思考や行動を簡単に教える事が出来るようになる。
途中で人形のマリーが流暢な話し方になったのは一年半ぶりに人間のマリーが近くに来た事でブローチに今のマリーが持っている情報が届いたからだと言っていた。
そして、そもそもなんで人形兵士が装着するはずの鎧を人間のマリーが装着したのかと言えば簡単な話だった。
それは今の亡霊騎士を打ち倒して孫を無傷で取り返す為に更に強い亡霊騎士を作らせようとした村長の悪巧みだった。
だが人形兵士作りは難航した。
どうやってもあの力を上回る力は実装出来ずにいた。
村長や6人の賛同者がバラしている可能性はあったが村人からマリーが成長しない事をおかしいと悟られないように最初の数ヶ月以降は極力の交流を絶った。
その為にフィルさんも連れて来なくなったと言う。
あの赤い液体も村人からおかしいと思われないようにペック爺さんが仕込んだらしい。
亡霊騎士が人形のマリーを狙った理由は人間のマリーが「記憶の証」を介して唯一存在を認識できる人形のマリーに助けを求めているからか、本来人形のマリー用に調整した鎧と人形のマリーが呼び合っているのかもしれないと言っていた。
ただ、こればかりは推察でしかない。
初めは外にマリーを出すと亡霊騎士が村の辺りに寄り付いていたことから「人形マリー=餌」と村長が言うようになったと言っていた。
カムカが怖い顔をしている。
大体の事はわかったし想像通りだった。
わからないのは村長の所に行くのになんで人形のマリーも同行をさせたかと言う事だ。
僕は改めてその質問をした。
「「記憶の証」に一年以上ぶりのマリーの知識を受け取らせたかったんだよ。何年も変わらないあの子を見ていると辛かったんだ。
君たちは初見で死ぬ事なくマリーをやり過ごせた。
そしてあわよくばマリーを止めてもらえるのではないかという期待もあったし、もしかしたらマリオンも助けて貰えればと思っていたんだ」
「マリオン?」
「人形のマリーの名前だよ。
2人ともマリーだと分からなくなるから、マリーがマリオンって名前を付けてくれたんだ」




