六
「坊主、やったな!」
がたいの良い男が、近付いてきてシングの背中を叩く。
ミレイも近くまで来ると、「あんたにしては、良くやったわ」と声を掛ける。
「ミレイや皆のおかげだよ」
シングは二人に向き直り、そう返す。
その時、背後のミノタウロスの屍から、赤黒い靄が出てきた。かと思うと、瞬時にシングへ向かっていく。
「危ない!」
咄嗟にミレイは、赤黒い靄に気付いて、叫ぶと同時にシングを突き飛ばした。
「うわっ!」
シングは地面に尻餅を突く。
「何を······!」そう言い掛けるとシングは、ミレイの体内に赤黒い靄が入っていくのを見た。
「良かったわ······無事······ね」
ミレイは、ゆっくりと後ろへ倒れていった。がたいの良い男がミレイを支える。
「おい、嬢ちゃん! 大丈夫か!?」
「ミレイ!」
声が聴こえる。耳を澄まさないと、聴こえない程の声だ。
声を頼りに、暗闇を進んでいく。
すると、ふと、巨大な何かがうっすら見える。
次第に闇に目が慣れて、その何かが明らかになった。
巨大な牛頭の怪物だった。
牛頭の怪物は、重く響く声で言う。
「お前は······いずれ、我になるだろう」
「どうゆうことよ!?」
「その時、お前は我、我はお前になる」
「ちょっと、無視しないでよ!」
「この意味が······解る時が来る」
牛頭の怪物は、最後にそう告げると、赤黒い靄に変わっていった。
次の瞬間、ミレイの足にまとわりつく。赤黒い靄は次第に、腰、胴体、首を覆っていく。
「いっ、いや!」
やがて、顔まで覆うという所で、声が響いた。
「ミ······レ······イ······」
「······ミレイ!」
ミレイは、目を開ける。
目の前には、彼女の顔を覗いているシングがいた。かなり心配そうに見ている。
「大丈夫? 大分、うなされていたようだから······。それに······」
シングは、何かを言いづらそうにしていた。
「ただ、いやな夢を見てただけよ。それに······? 何よ?」
ミレイに問われたシングだが、それでも言いづらそうに、口をつぐんでいる
暫く、無言が続き、ミレイは訝しがる。「何よ? 言いなさいよ」
再度、ミレイに問われたシングは意を決する。
「······今から、言うことに驚かないでほしい。ミレイの頭にある、それなんだけど······さ」
シングは、ミレイの頭部を指差す。
「頭······? 何があるっていうのよ?」ミレイは、そこで気付く。
髪だけではなく、何かの感覚があることを。
ミレイは、自分の頭部をぺたぺたと触っていった。ふと、両手に当たる感触がある。
「な、何なの!? これ!?」
「ミレイ、どうやら······角が生えてるみたいなんだ」
シングがそう告げると、ミレイは茫然とする。
「う······嘘······でしょ?」
みるみる、表情は色を失い、やがて愕然とする。
「そんな······こんなのって······」
次の瞬間、ミレイから叫び声が上がった。