五十七
「······もう私は、先導の騎士ではありませんよ。それに······王より授かったエクセターの名も捨てました」
ライアットと呼ばれた男は、透き通る海色の瞳をシングに向け、そう返した。
「どうしてですか!? あなたが裏切るなんて!」
「答えは簡単です。人は、いつも同じではいられないのです。変わっていくものなんですよ······」
「そんなの······答えになってない······!」
シングのその言葉で、沈黙するライアット。
暫くして。
雷轟の魔女の声が、使い魔から響く。
「もう、いいかい? さっさとアンタには去って貰わないと。言っとくけど、神聖具を奪うのは諦める事だね」
雷轟の魔女は、声に威圧感を込め、そう促した。
「では去るとしましょう。シング王子、命拾いしましたね」
ライアットは、颯爽と歩いていき、白馬に股がると踵を返す。
そのまま去って行くのだった。
それから、救済の杯を奪い返したミレイ達は、レナードの魔法で宮廷に戻り療養していた。
時は経過していき、太陽が五回目に西へ沈んだその夜。
ミレイの一室をノックする音が響いた。
「ミレイ、入ってもいいかな?」
ミレイはそのシングの声を聞いて、返答するか悩む。
「······」
宮廷に戻って来てから、彼と、より話さなくなっていたからだ。
(王国があった頃、シングを指導していたライアット······その人が敵に寝返ってたなんて、シングからしたらショックに決まってるじゃない)
「寝てるみたいだし、もう行くよ。お休み······」
シングの去っていく足音が聴こえる。
その瞬間ミレイは、勇気を振り絞って駆けていくと、扉を開け呼び止める。
「待ちなさいよ! ······何か用なの?」
「うん······体は大丈夫かと思ってさ······」
「大丈夫に決まってるじゃない。それより、部屋入る?」
「いや、それだけ聞きたかっただけだから」
その言葉を聞いて、ミレイは残念そうな表情をした。
それから暫し、二人は黙ってしまう。
どことなく、ミレイとシングの間には、ぎこちなさがあった。
互いに想う所があるからだろう。
程無く、シングは口を開く。
「······ミレイはさ、あの人が裏切っていたのをどう思う?」
「どうって······許せないに決まってるじゃない! 次戦いになったら、一発入れてやるわよ!」
ミレイの強気な発言に、シングは複雑な顔を見せた。
「······ミレイは、強いね。······ぼ······よ······り」
「何か言った?」
「いや······それじゃ、部屋に戻るよ。お休み······」
「······あっ」
ミレイは彼を呼び止めようとしたが。そうした所で、何を言えばいいのか分からず、続きの言葉が出なかった。
月日は流れていく。神聖グラシア国から、神道兵と神官が多数到着。
今現れている残り一体のディザスターを討伐する準備が出来始めていた。
そんな矢先に突如、ミレイ達は、大広間に集められる。
「良く集まったな」
ヴィンランド国国王は、椅子に座り肩肘をついていた。
「何なのよ······こんな時間に」
ミレイは不平を洩らす。
「まだ······薄明るいのですよ~」
リアは、眠いようで目元を擦っていた。
「緊張感の無い奴等だな。まあ良い。魔法使団長グリウォン!」
国王の呼び掛けで、レナードは口を開く。
「はっ、陛下······。重要な報せが国境近くの魔法使いから届きました」
「一体、何があったんですか······?」
シングは先を促した。
「ディザスター、アジ・ダハーカが国境を越えて、ヴィンランド国内に入ってきたのです······」
レナードは声は落ち着きながらも、緊張感のある表情で、そう告げた。




