五十
通路を歩く二つの足音が響いている。
聖女ソフィーとアイリスは、シェインのいる寝室に向かっていた。
少しして、一つの扉の前で二人は足を止める。聖女ソフィーは、静かに扉を開け、中に入っていく。
アイリスも入っていき、最後に扉を閉めた。
二人は、シェインが眠っている寝具に近付く。
目の前で止まると、聖女ソフィーは憂いのある表情をして、自身の弟を見る。
「シェイン······」
そんな聖女を見て、アイリスはいたたまれない気持ちになった。
「聖女様······」
それから場が静寂に包まれる。
少し時が経過した。
すると、聖女ソフィーが口を開く。
「ねぇ、覚えてる? あなたが侍女として私と一緒にいた頃のことを······」
「はい、覚えています······」
「私が十の時で、アイリスが十二でしたね。あなたは、私にとって姉のような存在でした」
そこで聖女ソフィーは微笑む。
「あなたがいた頃は楽しかったですよ。そこに、途中からシェインも加わり本当に幸せでした」
「聖女様······」
アイリスは、何故か複雑そうな表情を見せた。
「アイリス······『聖女様······』なんて堅苦しいですよ。今は他の人達はいないのですから······昔のように······」
「昔の様にはいきません······」
「アイリス、どうしたのですか······?」
「貴方は、聖女様で······私は一介の司教なのです······昔と同じ様にはいきません」
「アイリス······貴方だけは違うと思ったのですが······」
聖女ソフィーは寂しそうな顔を見せた。
しかし次の瞬間、上目遣いに懇願する。
「本当に駄目ですか······?」
「その表情はずるいです······」
アイリスは、溜め息を吐く。
「仕方無いです······」
それからアイリスは、言いづらそうに、だが口を開く。
「ソ······ソフィー······。これで······宜しいですか?」
「ええ。なんか嬉しいですね」
聖女ソフィーは、満面の笑みを浮かべた。
対して、アイリスも微かだが笑みを浮かべる。
程無くして、聖女は表情を改める。
「······シェインの笑顔を又、前のように見れるんでしょうか?」
聖女ソフィーのその表情は、不安と闘っているように見えた。
アイリスは言葉を返す。
「はい、シェイン様は······いえ、シェインはきっと、ソフィーに又笑顔をみせてくれます······」
聖女ソフィーは、言葉ではなく柔らかな笑顔で反応した。
まるで······アイリスに感謝している様に。
それから時が過ぎ、朝日が二度、宮殿を照らした。その日の昼食をとっている頃合いに、事は起きる。
いきなり、シングの背後から何かが現れていく。何も無い空間にだ。
やがて、完全に現れて姿が明らかになる。
それは一匹の白い鳥だった。
一同は席を立ち、警戒態勢を取る。




