四十九
リアは、通路の壁にもたれかかっているシングへ静かに近付いていく。
その足音にシングは気付き、一瞥する。
「リア······」
「シングさん······あの」
「ミレイはどうだった?」
シングの突然の問い掛けに、リアは慌てふためく。
「ミッ、ミッ、ミレイさんですか!? ミレイさんなら思ったより大丈夫そうでした!」
「そう······それなら安心かな······」
シングの思案顔を見て、何かを感じ取ったリアは質問する。
「······シングさん、あの······本当に会わなくて良いのですか?」
「······」シングはその問いに答えない。いや、答えられないのだろうか······。
「ミレイさんは、こんな時だから会いたいと思っているかもですよ······? きっと······」
その言葉に、シングは下唇を噛む。
「······僕だって、会いたいさ。だけど、合わせる顔がないんだ······」
「なら、どうして······?」
「僕は今回の戦いで足を引っ張ってしまった······」
「そんな······ことないのですよ」
リアはフォローするが、シングの表情はより暗くなった。
「そんなことあるんだ! 僕は足を引っ張る所か、ミレイが大変な時に彼女を守る事さえ出来なかった! あの時だって!」
「あの時······?」
「僕が暮らしていたランカスター国の王都が滅んだ日の事だ······。僕はカードック殿に頼まれ、神聖具を保護したは良いが、国から逃げる事しか出来なかった······」
「でも、ミレイさんを助けたって聞いてるのです······」
「でも、それだけだ······。僕は王都を、父上を、先導の騎士である叔父上、ライアット殿、カードック殿を見捨てたんだよ······僕の力じゃ守る事が出来ないんだ······だから······」
シングの弱気な言葉と表情に、リアは真剣な顔になる。
「だから、合わせる顔がないのですか? そんなのシングさんの独りよがりなのです! リアには、分かりません!」
そのリアの発言で、突如場が静まった。
程無くして、シングは背を向ける。
そのまま無言で、静かに歩いていき去っていった。
シングの姿が見えなくなった所で、リアは平静を取り戻す。
「やっ、やってしまったのです~! あんな事言うつもりはなかったのに! リアの馬鹿なのですぅ~」
リアは今更ながら、自身の発言を悔いたのだった。




