表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神聖具と厄災の力を持つ怪物  作者: 志野ゆもも
ディザスターとその力と神聖具
5/102





 ミノタウロスは言葉を理解できた訳ではないが、突然の大声に動きを止めて、シングの方に向き直っていく。


 「ミレイ、ごめん。やっぱり、これを使うよ······」

 シングは、背負っていた長い何かを地面に置き、白布をほどいていく。

 「······使うからには勝ちなさいよ」

 ミレイは不満そうだが、その中で仕方ないと諦めている。

 何故なら、彼とは幼い頃からの付き合いが長いため、こうなってしまったら止められないと分かっていたのだ。


 「ああ、勝つさ。守れる時に······守れなかった後悔はしたくないからね」

 シングは、ミレイにそう返答すると白布をほどき終った。

 中からあらわになった何かは、二メートル程の槍で、シングはそれを手に取ると立ち上がる。


 「さて······」シングは、ミノタウロス目掛けて全速力で走り出す。

 向かってくるのを見て、ミノタウロスは大斧を横に構えていく。

 シングは距離を詰めていき、大斧の攻撃範囲に入る。

 すると、すかさず大斧の横薙ぎがくるが、上体を屈めてかわした。

 続けてシングは、槍でミノタウロスの左脚を突く。


 「刺よ、はぜろ!」

 シングが叫ぶと、ミノタウロスの脚を、内部から無数の光子状の刺が生えて貫いた。ミノタウロスは、たまらず悲痛な声を上げて片膝を突く。

 シングは、すぐに槍を引き抜くと、眉間に狙いを定める。


 次の瞬間、槍の穂先から光子状の刺が生えて、高速で真っ直ぐに伸びていく。

 眉間に迫った時、光子状の刺はミノタウロスの手に掴まれる。

 それだけでなく、もう片方の手で、大斧が斜めに振り下ろされていく。

 「くっ!」

 シングは咄嗟に、光子状の刺を消してかわそうとする。


 だが、一瞬反応が遅い。そのためシングは、後方へ跳びつつ、槍の柄で防ぐ構えを取った。

 大斧と槍の柄がぶつかり合う金属音が響くと、シングは後方へ飛ばされていく。その中で、転がりながら受け身を取っていき、最後は足を地面に着けて止まった。




 「あんた、詰めが甘いわよ!」

 戦いを眺めていたミレイは(かつ)を飛ばす。

 不意に、一人のがたいの良い男が、ミレイに話し掛けてくる。

 「なあ、嬢ちゃん。あの坊主の武器は何なんだ?」

 「さぁね。知らないわ」

 「おいおい、教えてくれたって良いだろ? それに、あの武器でやった傷が再生してねえよな?」

 「······秘密よ」

 ミレイは、真剣で(かたくな)な面持ちをしていた。


 その様子を見て察した、がたいの良い男はある考えに行き着く。

 「······まさか、あれは······神聖具の······槍だってのか? でも、あれは······あれを持ってた······王国は滅んだはずじゃ······」




 シングは緊迫の表情で、槍を構えたまま動かないでいる。

 いや、動けないでいた。

 そうしていると、ミノタウロスの方からシングに突撃していく。

 あっという間に距離は詰まり、大斧の横薙ぎが迫る。


 シングは、前進しながら又もや屈んで、横薙ぎをかわした。

 さらに()れ違い様、槍を振るい穂先の刃で脚に傷をつける。

 背後を取ったシングは、槍の穂先をミノタウロスの後頭部に向けて、「貫け!」と叫んだ。


 槍の穂先から、光子状の刺が生えて伸びていく。

 だが、ミノタウロスの尻尾が鞭のように振るわれて、横方向にシングを叩く。

 すると、尻尾の一撃で倒れ込んだシングに、ミノタウロスが向き直っていく。


 その動作を終えると、続けて、大斧を頭上に構えていく。

 「させないわよ!」突如、ミレイの声が響いた。彼女は背後から、ミノタウロスの左脚を剣で斬りつける。

 だが、シングの槍とは違って、ミレイの剣で傷を与えた箇所は、瞬時に再生してしまう。


 「ミレイ、逃げるんだ!」シングはそう叫ぶが、遅かった。

 ミレイに向かって、ミノタウロスの左腕が凄い勢いで振るわれ、迫っていく。

 咄嗟に盾を構えて防ごうとする。が恐らく、衝撃は殺しきれず、後方へ飛ばされるだろう。

 「きゃっ!」


 予想通りミレイは、後方へ飛ばされていく。いや、一つ予想外がある。

 それは、かなりの距離を飛ばされている所だろう。

 「ミレイ!」

 シングの声に隠された思いに応えるように、声が響く。

 「任せな!」がたいの良い男は、ミレイに向かって駆け出していた。


 ミレイが地面に打ち付けられる(すんで)の所で、がたいの良い男は跳び、両手を伸ばして受け止める。

 「嬢ちゃん、無事か?」

 「おかげさまで大丈夫よ」

 ミレイは体を起こし、ミニスカートの後ろをはたく。


 「なあ、嬢ちゃん。俺もあの坊主に加勢するぜ。戦わず眺めてるだけじゃ、この筋肉が泣くからな」がたいの良い男は、やる気に満ちた笑顔を見せる。

 「そう、勝手にすれば」

 「ということで坊主! 俺も加勢するぜ! 指揮は誰が取る!?」

 一方シングは、ミノタウロスと再び戦っていた。攻撃をかわしながら、がたいの良い男の問いに答える。


 「そちらで決めて下さい!」

 「了解だ! それまで持ちこたえろよ!」がたいの良い男はそう言うと、思案顔をする。

 「······俺はあの坊主が適任だと思うんだがな」がたいの良い男の独り言に、一人の王国軍の者が近付いてきて、言葉を発する。

 「その必要はない。ここからは私が指揮を取りましょう」


 ミレイとがたいの良い男は、王国軍の者に向き直る。

 「あんた、軍の関係者ね」

 ミレイの言葉に、「その通りです。私は、もしものための副指揮官。指揮なら私に任せてください」と副指揮官は返答した。

 「じゃあ、これで決まりだな」

 がたいの良い男は、口角を吊り上げた。


 「俺らも戦わせてくれ! あの坊主だけに戦わせるなんて出来ないからな」

 「オレもだ!」「おれも!」

 突然、周りにいた冒険者達から口々にそう声が上がっていく。

 その様子を茫然(ぼうぜん)と眺めているミレイ。

 「良かったな、嬢ちゃん」

 がたいの良い男は、ミレイの肩を叩く。


 「それではこれより、あの少年の加勢に入ります!」

 副指揮官の声が(みな)に響いた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ