三十三
夜はあっという間に過ぎ、空が薄暗い水色になった時。
ディザスターとの戦いに備えて、既に皆、起床していた。
慌ただしく、食事の準備を行っている者達。
入念に武器を手入れしている神道兵達もいた。
ヴィンランド王国の魔法使団や兵士達も同様だ。
ミレイ達と王国指揮官は、司教アイリスと最後の確認を行っていた。
程無くして、食事の準備が出来て朝食を取る。
食べ終わりそうな所で、獣の轟くような咆哮が聞こえてきた。
「これは······!」
シングは、まさかといった表情をする。
「ディザスターが目覚めたみたいね」
ミレイは、シングの言葉を補足する。
「ええ、行きましょう」
アイリスはそう言うと、立ち上がって天幕を出ていった。
すぐさま、彼女の声が響く。
「これより、ディザスターとの戦いに赴きます!」
更にいつの間にか、天幕から出てきていた王国の指揮官も声を上げる。
「我々も、司教率いる兵に続くぞ!」
その場の者達は、「おー!」と声を響かせた。
ディザスターのいるであろう地点を目指し、出立する。
歩いて少し経った時、ミレイは自身に異変を感じていた。
(何よ、これ······。何かぼやけてるし······それにこの声······)
······お前が我になるのも······そう遠くはない······いずれ······いずれは······。
ミレイの頭に響く声は、そう言っていた。
彼女はこの声を知っている。以前、夢で見た牛頭の怪物のディザスター、ミノタウロスのものだからだ。
ミレイが頭を片手で押さえていると、リアはその様子に気付く。
「ミライさん、どうしたのですか?」
「何でもないわ······」
ミレイは平静を取り繕うが、辛い表情を隠しきれていない。
「それは嘘なのです。その苦しそうな顔······調子が悪いのですね?」
リアの真剣な表情と言葉に、ミレイは観念して言う。
「そうよ······だけどこれは、あいつには、シングには言わないで······。心配かけたくないのよ······」
「······分かったのです。でも、リアは頼ってくれて良いのですよ。シングさん支援同盟の仲間なのですから」
リアは、ミレイの手を握りつつ、そう言った。
更に歩き暫くして。
リアは、ミレイに問う。
「ミライさん、調子はどうなのですか?」
ミレイは先程の声が響かなくなり、落ち着きを取り戻していた。
「大丈夫よ。調子が戻ってきたわ」
「安心したのですよ。良かったのです」
ミレイとリアがそう会話をしていると、突如、樹木がむしりとられるような音が響いてくる。
アイリスと神道兵、神官達は顔色を変えた。
「この音は一体何よ······?」
ミレイは不審に思う。
「これはディザスターによるものです。見れば分かるでしょう」
アイリスはそう答え、更に進んでいく。
すると眼前に、不自然に開けた場所があった。
ミレイ達は、驚愕する。
そこ一帯は、草木がむしりとられていたからだ。
それに巨大な何かがいる。
頭部は獅子、胴体は狼、尻尾は蛇。複合の怪物だ。
「あれは······!」
シングは声を上げる。
「ええ、ディザスター、キマイラです······」アイリスはそう言うが、シングは信じられない。
「でも伝承では······キマイラはあんなに大きいはずは······」
シングのその言葉に、アイリスは答える。
「それは厄災の力によるものです。キマイラは、喰らったあらゆるものを吸収して強くなってゆくのです」
「つまり、あれもそうゆう訳ね」ミレイは、キマイラの胴体を見つつ、意味ありげに言った。
シングもキマイラを、再度良く見る。
「あれは······」
キマイラの胴体には、人の顔のようなものが複数あった。
それに背からは、樹木や槍、剣などが生えている。
恐らく、キマイラが喰らって吸収したものなのだろう。
「ひどいのです······」
リアは手で口元を覆った。
ヴェルストは舌打ちをする。
「随分、悪趣味な力じゃねぇか」
アイリスは、ミレイ達が理解した所で、声を上げる。
「では皆さん、これから戦いになりますが良いでしょうか?」
ミレイ達と王国の者達、アイリス率いる兵達は頷いた。
アイリスは、「では、神道兵は囲むように陣形を。神官は各後方で、いつもの聖法術を」と指示を出した。
王国指揮官もそれに続いて声を上げる。
「我々も同様に囲いの陣形を。魔法使団は後方で詠唱を」
その指示で、各々陣形を整えていく。
次に、神官達は聖法術を、魔法使い達は攻撃魔法を唱え終わると、いつでも発動できるように待機する。
リアも、発動の為に呪文を連ねていく。「限りを超越せし力······彼の者らに与えよ。オール・ブースト」
彼女の補助魔法が発動すると、ミレイ、シング、アイリスの体が、一瞬輝きを放つ。
「これで安心なのですよ」
リアは自慢げな顔をしている。
ヴェルストも、二本のダガーナイフを手にすると、魔法を発動する。
「ブースト······ウィンド・エンチャント」
その時ヴェルストの体が、一瞬輝きを放つ。
更に、二本の武器に風が纏われていく。
シングは背負っている、白布に包まれた槍を下ろす。
その白布をほどいていき、顕になった鋭光の槍を手にした。
ミレイも両刃の大斧を持つと構える。
「では、シングさん宜しいでしょうか?」
アイリスは何故か、「皆さん」ではなくシングにそう言った。
「はい、準備は大丈夫です」
シングは、持っている鋭光の槍を構え、言葉を返した。
その手は汗で滲み、震える程に力強く握られていたが。
「そうですか······では始めましょうか」
アイリスは、首から掛けている神罰の十字架を握り、少し上に掲げる。
すると神罰の十字架は輝きを放った。
すぐさま、アイリスは声を上げる。
「神罰の光よ」
次の瞬間、上空からキマイラへ細い光が降り注いでいく。
キマイラは身体を貫かれ、叫び声を上げた。
アイリスは、今の内に次の指示を出す。
「神道兵はこの光が止み次第、前進を。それと守りに徹するように!」
王国指揮官も「我々も同様に!」と声を上げた。
程なくして、上空からの細い光が止むと、神道兵と王国兵達は前進する。
次に、ある程度の距離を取って、武器を構えると止まった。
「では、シングさん達、前衛は任せます」
アイリスの言葉に、ミレイ達は答える。
「言われなくても、そうするわ!」
ミレイは、いち速くキマイラへ向かっていく。
「はい!」
シングも、その後に続いて走る。
ヴェルストは、めんどくせぇと言わんばかりに舌打ちをしつつ、最後に駆け出した。




