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神聖具と厄災の力を持つ怪物  作者: 志一 ゆもも
神聖グラシア国編
34/102

三十三





 夜はあっという間に過ぎ、空が薄暗い水色になった時。

 ディザスターとの戦いに備えて、既に皆、起床していた。


 慌ただしく、食事の準備を行っている者達。

 入念に武器を手入れしている神道兵達もいた。

 ヴィンランド王国の魔法使団や兵士達も同様だ。


 ミレイ達と王国指揮官は、司教アイリスと最後の確認を行っていた。

 程無くして、食事の準備が出来て朝食を取る。

 食べ終わりそうな所で、獣の轟くような咆哮が聞こえてきた。


 「これは······!」

 シングは、まさかといった表情をする。

 「ディザスターが目覚めたみたいね」

 ミレイは、シングの言葉を補足する。

 「ええ、行きましょう」

 アイリスはそう言うと、立ち上がって天幕を出ていった。

 すぐさま、彼女の声が響く。

 「これより、ディザスターとの戦いに赴きます!」

 更にいつの間にか、天幕から出てきていた王国の指揮官も声を上げる。

 「我々も、司教率いる兵に続くぞ!」


 その場の者達は、「おー!」と声を響かせた。


 ディザスターのいるであろう地点を目指し、出立する。

 歩いて少し経った時、ミレイは自身に異変を感じていた。

 (何よ、これ······。何かぼやけてるし······それにこの声······)

 ······お前が我になるのも······そう遠くはない······いずれ······いずれは······。

 ミレイの頭に響く声は、そう言っていた。

 彼女はこの声を知っている。以前、夢で見た牛頭の怪物のディザスター、ミノタウロスのものだからだ。


 ミレイが頭を片手で押さえていると、リアはその様子に気付く。

 「ミライさん、どうしたのですか?」

 「何でもないわ······」

 ミレイは平静を取り繕うが、辛い表情を隠しきれていない。

 「それは嘘なのです。その苦しそうな顔······調子が悪いのですね?」


 リアの真剣な表情と言葉に、ミレイは観念して言う。

 「そうよ······だけどこれは、あいつには、シングには言わないで······。心配かけたくないのよ······」

 「······分かったのです。でも、リアは頼ってくれて良いのですよ。シングさん支援同盟の仲間なのですから」

 リアは、ミレイの手を握りつつ、そう言った。


 更に歩き暫くして。

 リアは、ミレイに問う。

 「ミライさん、調子はどうなのですか?」

 ミレイは先程の声が響かなくなり、落ち着きを取り戻していた。

 「大丈夫よ。調子が戻ってきたわ」

 「安心したのですよ。良かったのです」


 ミレイとリアがそう会話をしていると、突如、樹木がむしりとられるような音が響いてくる。

 アイリスと神道兵、神官達は顔色を変えた。

 「この音は一体何よ······?」

 ミレイは不審に思う。

 「これはディザスターによるものです。見れば分かるでしょう」

 アイリスはそう答え、更に進んでいく。

 すると眼前に、不自然に開けた場所があった。


 ミレイ達は、驚愕する。

 そこ一帯は、草木がむしりとられていたからだ。

 それに巨大な何かがいる。

 頭部は獅子、胴体は狼、尻尾は蛇。複合の怪物だ。


 「あれは······!」

 シングは声を上げる。

 「ええ、ディザスター、キマイラです······」アイリスはそう言うが、シングは信じられない。

 「でも伝承では······キマイラはあんなに大きいはずは······」

 シングのその言葉に、アイリスは答える。

 「それは厄災の力によるものです。キマイラは、喰らったあらゆるものを吸収して強くなってゆくのです」


 「つまり、あれ(・・)もそうゆう訳ね」ミレイは、キマイラの胴体を見つつ、意味ありげに言った。

 シングもキマイラを、再度良く見る。

 「あれは······」

 キマイラの胴体には、人の顔のようなものが複数あった。

 それに背からは、樹木や槍、剣などが生えている。

 恐らく、キマイラが喰らって吸収したものなのだろう。


 「ひどいのです······」

 リアは手で口元を覆った。

 ヴェルストは舌打ちをする。

 「随分、悪趣味な力じゃねぇか」

 アイリスは、ミレイ達が理解した所で、声を上げる。

 「では皆さん、これから戦いになりますが良いでしょうか?」

 ミレイ達と王国の者達、アイリス率いる兵達は頷いた。


 アイリスは、「では、神道兵は囲むように陣形を。神官は各後方で、いつもの聖法術を」と指示を出した。

 王国指揮官もそれに続いて声を上げる。

 「我々も同様に囲いの陣形を。魔法使団は後方で詠唱を」

 その指示で、各々(おのおの)陣形を整えていく。

 次に、神官達は聖法術を、魔法使い達は攻撃魔法を唱え終わると、いつでも発動できるように待機する。


 リアも、発動の為に呪文を連ねていく。「限りを超越せし力······彼の者らに与えよ。オール・ブースト」

 彼女の補助魔法が発動すると、ミレイ、シング、アイリスの体が、一瞬輝きを放つ。

 「これで安心なのですよ」

 リアは自慢げな顔をしている。

 ヴェルストも、二本のダガーナイフを手にすると、魔法を発動する。

 「ブースト······ウィンド・エンチャント」

 その時ヴェルストの体が、一瞬輝きを放つ。

 更に、二本の武器に風が纏われていく。


 シングは背負っている、白布に包まれた槍を下ろす。

 その白布をほどいていき、顕になった鋭光の槍を手にした。

 ミレイも両刃の大斧を持つと構える。

 「では、シングさん宜しいでしょうか?」

 アイリスは何故か、「皆さん」ではなくシングにそう言った。

 「はい、準備は大丈夫です」

 シングは、持っている鋭光の槍を構え、言葉を返した。

 その手は汗で滲み、震える程に力強く握られていたが。


 「そうですか······では始めましょうか」

 アイリスは、首から掛けている神罰の十字架を握り、少し上に掲げる。


 すると神罰の十字架は輝きを放った。

 すぐさま、アイリスは声を上げる。

 「神罰の光よ」

 次の瞬間、上空からキマイラへ細い光が降り注いでいく。

 キマイラは身体を貫かれ、叫び声を上げた。

 アイリスは、今の内に次の指示を出す。

 「神道兵はこの光が止み次第、前進を。それと守りに徹するように!」

 王国指揮官も「我々も同様に!」と声を上げた。


 程なくして、上空からの細い光が止むと、神道兵と王国兵達は前進する。

 次に、ある程度の距離を取って、武器を構えると止まった。

 「では、シングさん達、前衛は任せます」

 アイリスの言葉に、ミレイ達は答える。


 「言われなくても、そうするわ!」

 ミレイは、いち速くキマイラへ向かっていく。

 「はい!」

 シングも、その後に続いて走る。

 ヴェルストは、めんどくせぇと言わんばかりに舌打ちをしつつ、最後に駆け出した。


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