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神聖具と厄災の力を持つ怪物  作者: 志一 ゆもも
ディザスターとその力と神聖具
23/102

二十二





 温和そうな声の主は、二十代半ばに見える女性で、両の側頭部に一本ずつ角が生えていた。


 ヴェルストは舌打ちをする。

 「やっぱり、お前か······。何しに来やがった」

 温和そうな女性は、言葉を返さず、突如駆け寄っていく。

 次に、両手を広げて抱き締めようとする。それをヴェルストは横にかわす。

 「なーんて、フェイントよ」

 だが、温和そうな女性は、途中で軌道を変えてヴェルストを抱き締めた。

 「会いたかったわ、ヴェルちゃん」


 温和そうな女性の豊かな胸が、ヴェルストの顔に当たる。

 「離しやがれ!」

 「ヴェルちゃん、冷たいのね······。せっかく、久しぶりに会えたのに······」


 「ヴェルちゃん······」

 ミレイはその言葉を呟くと、つい笑ってしまう。

 「ヴェルスト······ヴェルスト・ハーディ······あっ、そうなのです!」

 リアは唐突に声を上げた。

 その様子を見て、シングは訊ねる。

 「リア、どうしたの?」

 「シングさん! あのヴェルストさんという人は、かつて輝炎の一座にいた有名魔法曲芸士なのですよ!」

 リアは、ヴェルストを指差しつつ、そう答えた。


 「何だって!?」シングは驚きを隠せない。

 「あいつが?」

 ミレイは、驚きより疑いの方が強い感じだ。

 「どおりで、あの兄ちゃん見たことあるって思ったぜ」

 ダークスは驚くことなく、納得していた。


 やっと、女性の抱擁から解放されたヴェルストは、「昔の話だ······。三年以上前のな······」とだけ言った。

 「それに······もしやあなたは、輝炎の一座のマリエーネ座長ではないですか?」

 リアは、温和そうな女性に問う。

 「そうよ、お姉さんが輝炎の一座の座長よ」

 マリエーネは、にこやかにそう答えた。

 するとヴェルストは、即座に呟く。

 「お姉さんって歳じゃねえだろうが······。実際、二千······」

 「ヴェルちゃん······そうゆう事を言う子には、こうよ」

 再び、マリエーネはヴェルストを抱き締める。


 「なっ!」

 ヴェルストの顔に、包容力抜群な胸が当たる。

 「離しやがれ!」

 「離しやがれ(・・・・・)? じゃないでしょ? ごめんなさいは?」

 マリエーネは、にこやかな表情で言った。

 ヴェルストは黙る。謝りたくないのだろう。

 「ごめんなさいは? 言っとくけど、謝らないと離してあげないから」

 マリエーネは、更に抱き締める力を強くする。

 「いてっ! 離せ、馬鹿力女が!」

 ヴェルストは逃れようとするが、マリエーネの力が強いため無理なようだ。

 その理由は、彼女が亜人だからだろう。


 「ごめんなさいは?」

 マリエーネは、なおもその言葉を繰り返す。

 ヴェルストは、とうとう耐えれなくなったのか、「······悪かった······オレが悪かったから、さっさと離せ!」と言葉にして謝った。

 「そんな謝りかたじゃ離してあげれないわ」

 マリエーネの言葉に、ヴェルストは睨みを利かせる。「てめぇ······」

 「なんて冗談よ。約束どおり離してあげるわ」

 マリエーネは抱擁を解いた。


 ヴェルストは一息、吐く。

 「それにしても、ヴェルちゃんが元気そうで安心したわ······。三年前、一座で揉め事を起こして去ってから、気になっていたから······」

 マリエーネは、安心した表情を見せた。

 ヴェルストは舌打ちする。

 「別に、その後どうなってるかは、お前も知ってるだろうが······」

 「そうね······。そうそう、モルちゃんは元気にしてる?」

 「ああ、あの女か······。相変わらずってところだ」

 「そう、それなら安心ね」


 「あのですね、ちょっと良いですか? ヴェルストさん·····」

 リアが、恐る恐る話し掛けた。

 「あっ? なんか用か? それより、さん付けはいらねえ。気持ちわりぃ」

 「分かったのです。ヴェルスト、是非あなたに仲間に加わってほしいのです!」

 「仲間だぁ?」

 ヴェルストは怪訝な顔をする。

 「そうなのです! 仲間です!」

 「リア、彼が仲間になってくれれば、助かるけど······。先に事情を話さないとさ」シングは、リアを諭す。

 「あたしは、反対よ。さっき、揉め事を起こして一座を辞めたって言ってたじゃない。又、問題を起こすに決まっているわ」

 ミレイは腕を組みながら、反対意見をぶつけた。


 「それは違うわ······」

 マリエーネは、ミレイの言葉を否定する。

 「あなた、名前は?」

 「ミレイよ」

 「そう······ミレイちゃん、ヴェルちゃんは理由もなく問題を起こす子ではないの。三年前、同じ団員に暴力を振るった理由は、お姉さんも知らないわ」

 マリエーネは、そこで一呼吸置くと、再び続きを話していく。

 「でもね、どんなヒトでも何かをするのに訳があるはずよ。ヴェルちゃんは、三年前のあの日に、余程の事をされたのだと思うの」


 「それでも、又、問題を起こす可能性があるじゃない。その可能性があるなら、仲間になんて出来ないわ」

 ミレイは、頑として反対する。

 「てめぇみたいな牛女と仲間になるなんて、こっちも願い下げだ」

 ヴェルストは、ミレイに向かって手で払うような仕草をする。

 「何ですって!? あんた······!」

 今にも掴み掛かりそうなミレイをシングが止める。

 「まあまあ、ミレイ落ち着いて」

 「これが落ち着いていられる訳ないじゃない!」

 ミレイの尻尾が激しく揺れ動く。


 マリエーネが、こほんと静かな咳を立てた。

 「話の続きを良いかしら?」

 するとミレイは、渋々「分かったわよ······」とだけ言う。

 「要は、ヴェルちゃんを温かく見守ってあげてほしいの······。それにね、ヴェルちゃんは自分の事だけでは、相手に手を出したりしないわ」

 「そう······でもやっぱり、仲間になるなんてごめんよ。あたしが怪物に止めを刺すのを横取りするし······」

 「それは、困ったわね。ヴェルちゃんも仲間になるならチームワークは考えないと駄目よ?」

 マリエーネは、ヴェルストの(ひたい)を人差し指でつつく。


 「あのなぁ、オレは仲間になるなんて言ってねえぞ」

 ヴェルストはそう言うが、周りは聞いていない。

 「ミライさん、お願いするのです! ヴェルストが入れば、助かります!」

 リアは、ミレイの手を両手で握りつつ、そう言った。

 「僕からも頼むよ。ヴェルストの強さは見たよね? 彼が入れば、旅が楽になると思うしさ」

 シングがそう頼むと、ミレイは「分かったわ······」と頷く。


 「良かったわ。ヴェルちゃんをよろしくね」

 マリエーネは、にこやかな表情を見せた。

 「良くねえぇ! オレは仲間になるなんて言ってねえぞ!」

 ヴェルストの声が、ようやく皆に届く。

 「それは困ったな。ヴェルストが仲間になってくれれば、心強いのに······」

 シングは、思案顔でそう言った。

 「持ち上げたって何もねえからな」

 ヴェルストはそこで、何を思い付いたのか、親指と人差し指だけで輪を作る。

 「仲間になるってぇんなら、これが必要だな」

 シングは、分からないといった表情をしていた。


 ミレイは察したようで、怪訝な顔をする。「あんた······」

 「そこの男が分からねえようだから教えてやる。必要なのは、金に決まってんだろ」

 「こんな最低の男、仲間にする必要ないわ」

 ミレイは、ヴェルストの金発言にあきれる。

 「良いよ」

 シングが発した言葉に、一同は驚いた。

 「でも、あんた······あたし達は、金目当てで旅をする訳じゃないのよ」

 「それはそうだけど······ヴェルストが言うように、働きに見合ったお金はほしいんじゃないかな」

 「分かったわよ······あんたが良いなら、それで構わないわ······」

 ミレイは渋々、承諾する。


 「という事で、ヴェルスト。王宮には、僕から褒賞のためのお金を頼んでおくよ。後払いになるけど、良いかな?」

 「王宮がらみだったのか······。ああ、それで構わねえ」

 シングの問いに、ヴェルストは了承した。

 「それじゃ、これから仲間だね。よろしく」

 シングは手を差し出す。

 「ああ······」

 ヴェルストも手を差し出し、その手を握った。

 ミレイも握手しようと、手を差し出す。無言だが······。


 ヴェルストは握手に応じるが、余計な一言を口にする。

 「よろしくな、牛女(・・)

 「よろしく、あほ毛男(・・・・)

 ミレイは、怒りで顔を赤くしながら、即座にそう返した。



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