一
「······レ······イ」「ミ······レイ······」
「······ミレイ!」
少年らしき声をはっきり聞き取った時、樹木に寄りかかっていた赤髪の少女は、瞑っていた目蓋をすっと開ける。
「何?」
明るい赤髪の少女ミレイは、目の前の爽やかな印象の少年をじろりと見た。
少年の髪は、短めで金色。前髪は右に八:二の割合で分けている。瞳は緑色だ。
服装は、白のえり付きシャツに緑のベスト。黒のズボンを穿いている。
鎧も身に付けており、着用しているのは胸当て、前腕まで覆った手甲。
腰当ては左右非対称の形状、足には膝丈までの鎧を。
茶色の帯のベルトは斜めに付けられており、左腰には鞘に納まった剣を下げていた。
「何はないだろ。休憩は終りみたいだし出発さ」
短めな髪の少年は、そう答えてミレイの準備を眺めながら待つ。
ミレイは、両側で少し髪を結っており、後ろ髪は下ろしている。ミレイはその髪を軽く整えていく。それと真っ直ぐ下ろしている前髪も。
顔立ちと体型は、十四歳位に見える。
服装はインナーに、伸縮性のあるぴたっとした黒色の服を着ている。首元まで覆っておりノースリーブだ。
丈は腹の上部までで、へそを出している。
その服の上には、銀色の胸当てを着用。
下半身には、白色のミニスカートに落ち着いた濃い赤のベルト。ミニスカートの下には、伸縮性があり、ぴたっとしている黒色の衣服を穿いている。
丈は、太股までを覆った位だ。
両手足にはグローブとショートブーツを身に付けており、共に色はキャラメル。
ミレイは髪を整え終ると、立ち上がってミニスカートの後ろを両手ではたく。次に地面に置いていた、剣が納まっている鞘を左腰に、盾を左前腕に身に付けた。
「さあ、行くわよ」
ミレイは颯爽と鎧や武器を身に付けた集団へ向けて歩いていく。だが突然、足を止める。
短めな髪の少年が付いてきてないからだ。
「あんた、さっさと付いてきなさいよ!」ミレイは言葉を掛けるが、少年の反応が薄い。
「······どうしたのよ、あんた?」
さらに言葉を重ねたミレイに対して、少年はふと笑いをこぼす。
「いや、ミレイは強くなったなと思ってさ」
「あんた、バカにしてるの?」ミレイは微かに、頬を染めて顔をそっぽに向ける。
少年はミレイに近付くと、その頭頂部に手を置き撫でる。
「違うって、褒めてるんだよ」
「ふーん、そっ。あんたに褒められても嬉しくないけどね。それより撫でるのやめてよ。あたしの方が年上なのよ!」
「といっても一つ年上の十七じゃないか。僕にとって、変わりはないよ」
「あんた、調子に乗ってるんじゃないわよ。少し、いや、かなり背が高いからって」
「そんなに身長は高くないよ、平均的さ。ミレイが低すぎるだけだよ。確か、一四······」
「今すぐ黙って! その口、縫い付けるわよ!」ミレイは咄嗟に、少年の口を手で塞ぐ。
少年は何かを言うが、口を塞がれているため、良く分からない。
暫くして、ミレイは手を離した。
すると少年は、息を整えてから話題を変える。
「そういえばさ。ミレイはいつからか、僕のこと名前で呼ばなくなったよな。今もあんた呼ばわりだしさ。······どうして?」
「そ······それは······決まっているじゃない······。あんた······の······」
「の? 何?」少年の問い掛けに、頬を朱色に染めていくミレイ。頬の色味が最高潮に達した時、続きの言葉を叫ぶ。
「······あんたなんて、その呼び方で十分だからよ! 分かった!?」
「答えになってないよ」少年はすぐさま、言葉を返す。
「理由なんて答える必要ないわ!」
ミレイの言葉に、少年は少しだけ考える。
それから暫くして、口を開いた。
「······そうだ。名前を呼んでくれたら、答えなくて良いよ」
ミレイは一瞬、はっ? といった表情を見せる。(名前を······呼ぶの······?)
少年の提案にミレイは戸惑う。
(そんなの無理よ! 無理、無理、無理······!)
「ミレイ、どうしたのさ? 名前、呼んでよ。それとも······理由答える?」
(それも無理······! こうなったら、名前を呼ぶしかないみたいね······)
半ば強制的に、ミレイは覚悟を決めた。
「······名前を······呼べば良いのよね? 言うわよ? ······シング······。······ほら、これで良いのよね?」
名前を呼ばれた、短めな髪の少年シングは、納得したように爽やかな笑みを浮かべる。
「うん。じゃあ行こうか」
シングはそう言うと、地面に置いていた白布に包まれている長い何かを背負った。
ミレイは既に、鎧や武器を身に付けた集団に向かって歩いている。
「あんた、遅いと置いていくわよ!」
「結局、あんた呼ばわりに戻るのか。まあ、良いか······」シングは、ミレイと共に集団に向かっていく。