十四
ミレイとシングは、今、街中にいた。
勿論、二人だけではない。リアもいる。
リアは先頭を切って歩きながら、二人に話し掛けていた。
いや、主にシングに対してだ。
「あそこの店は、シチューが絶品なのですよ!」
リアは、右斜めの食事処を指差して、目を輝かせる。
「それに左向かいにあるスイーツ専門店が、又、美味なのです~!」
リアは更に目を輝かせて、頬に手を添えた。
「さっきから、あんた、食べ物の話ばかりじゃない。他に言うことはない訳?」ミレイは冷たく言い放つ。
「この国、特に王都は食べ物等が美味しいことで有名なのです。それを差し置くことはできません!」
リアはそこまで言うと、人差し指をミレイに向ける。
続けて、彼女は話し出す。
「それにミライさんには話してません! シングさんに話してるんです!」
「なっ!? あんた、失礼よ! それに、あたしの名前はミレイよ!」
「失礼なのはミライさんです! なんで、リアに強く当たるんですか!?」
「それはあんたが······」
「もしかして、ミライさんもシングさんのことが!? 許嫁って言ってましたし······。うう、恋のライバルなのです······」
「何言ってるのよ!? あたしは、こいつのことなんか好きじゃないわ!」
ミレイの頬が微かに染まる。
「そうなのですか?」
リアのその問いに、ミレイは答える。
「そうよ! 許嫁なのも親同士が決めただけで、あたしがこいつを好きって訳じゃないわ!」
「そうなのですね。ではなんで、リアに冷たいのですか?」
「それは······」
ミレイは言葉に詰まった。
だが、すぐに声を発する。
「それは、あんたが気に入らないからよ!」
「ミライさん、ひどいです! そんな理由だったなんて······。やっぱり、ミライさんは失礼です!」
リアは、人差し指をびっとミレイに向ける。
「何言ってるのよ! あんたの方こそ、失礼じゃない!」
ミレイがそう言うと、シングが間に入ろうとする。
「あの······二人とも」
それでも、気付かずにミレイとリアは言い争う。
「失礼なのはミライさんです!」
「あんたの方よ!」
「ミライさんです!」
二人の言い争いが、闘争に発展しかねない程、激しくなった所でシングは間に割って入る。
「あのさ、二人とも! 喧嘩はそこまでにしよう」
シングはそう言うと、次にミレイの頭をこつんと優しく叩く。
「ミレイ、言い過ぎだよ」
「なっ! あんた、この女の肩を持つの?」
「そうゆう訳じゃないよ。それに、リアさんも言い過ぎだ。ほら、互いに仲良くしよう。仲間なんだし」
「シングさんが言うなら、仕方なしです。それとリアさんではなく、リアで良いのですよ」
リアは、シングの手を両手で握る。
「それなら、僕のこともシングで良いよ。さっきも言ったけど、仲間なんだし」
二人が仲良く話している中、ミレイは呟く。
「あたしは······ごめんだわ······。仲良くするなんて······」
するとミレイは突如、走り去ってしまう。
「ミレイ!?」
すぐ気付いたシングは、「リア、ごめん! ミレイを追うから!」と駆けていく。
「一人になってしまいました······」
一人取り残されたリアは、そう呟いた。
その一連の様子を眺めていた一人の男性がいる。
鋭い目付きに琥珀色の瞳。
「アイツらか······」
どこか気だるそうに男性は呟くと、雑踏の中に消えていった。
ミレイは、後ろから追い掛けてくるシングから逃げていた。
「ミレイ!」シングの声が響く。
ミレイは一瞬、ちらっと後ろを見る。
「付いてこないで!」
そう言うと、シングを更に振り切ろうと走る速度を上げた。
シングも速度を上げる。が、人の波の中をミレイは、潜り抜けていく。
シングも人込みを抜けるが、その時には見失っていた。
「ミレイ······。どうしたんだよ······」
シングは息を切らしながら、立ち尽くしていた。




