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飯飯飯

あの丘の上から見えた灯りを目印にして俺達はこの街についた。

だが、俺達は一番重要な問題にぶち当たった。

それは、俺達がここの通貨を持っていないことだ。


冒険者支援協会(ギルド)に登録すれば、依頼でお金を稼げるらしいが、登録が完了するのに最短でも二日はかかるらしく、待っていられないので今日も野宿である。


「悪いな。俺の考えが甘かったようだ。これは認めざるを得ないようだ。ここは俺の知る世界じゃない」

「兄さん・・・」


妹が心配そうに俺を見る。

不安だが、俺が不安になるとこいつは更に不安になる。

当面は元に戻る方法を考えて、元の世界に帰る方法はその後に考えよう。


「美味い飯を食わせてやると言ったのに悪いな。どうやら、美味い飯にありつくにはまだまだかかりそうだ」


俺がどうするか考えてる時だった。


「兄さん兄さん」


妹が指を指した先には極盛極辛飯を時間以内に食べたら料金は無料の上金貨十枚が賞金と出る張り紙だ。


「いけるのか?」

「こういうのでしか今は役に立てそうにないから」


妹はこれでも辛いものに強い上にかなりの大食らいだ。

実際に大食いチャレンジができる店では猛威を奮い出禁もしくは中止になった店は数知らずである。

出禁は言い過ぎだが、妹が来ると店長がやって来て、料金を請求して来るようになった程である。

そして、いつしか地元の飲食店の間では、『暴食の悪魔』と恐れられている。

なので、この店はこの異世界において『暴食の悪魔』の最初の犠牲者である。


その時、調理を担当していた店の店主はその時の様子をこう語る。


「えっ?奴が食い終わった時間?

いや、もう・・・

三分か四分かそこいらだったはず・・・

アレは数々の大食らい達を葬った私の自信作だったんだけどね」


店主は溜め息を交えつつ語る。


「奴は私が瞬きをした瞬間に丼を瞬く間に減らしていた。そう、一瞬の出来事だった。それだけでも驚きだが奴の更に恐るべきことが起きた」


昏那が後半戦に差し掛かろうとしていた時だった。


「兄さん、白米って食べ放題だったよね」

「お前の食ってる姿を見てると惚れそうになるな」

「好きになっていいんだよ」

「馬鹿言ってないで、いいから食え!!」


黎はご飯を山盛りによそい、昏那に渡す。


大食いの一部始終を語る店主の表情が徐々に青ざめていく。


「奴は更に白米を追加した。それは今までチャレンジして来た大食らい達もやらなかった。いや、普通はそんな不利になることはしない。だが、奴はペースを変えずに食ってるんだ!!

奴の口の中は亜空間に繋がっているとしか思えない!!

だが、更に驚くべきことに奴は辛いものを食べてるというのに汗はかいているが、表情一つ変えていないんだ。他の大食らい達は苦悶の表情を浮かべていたというのに涼しい表情をしているんだ!!」


昏那は極盛極辛飯を食いすすめる。


「水にまったく手を付けてないな。辛くないのか?」


昏那は、親指を立てて問題無い事をアピールする。


そのあまりの男らしさに思わず、カッコいいと黎は思ってしまった。


「頭がどうにかなりそうだった。大食らいだとか、辛党だとかそんなチャチなもんじゃない。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぞ。

奴は大食いで楽に稼ごうとした私に罰として神が遣わせた者なのかもしれない」


店主はがっくりと項垂れる。



流石は我が家の食に対するリーサルウェポンの妹様である。

こいつ以上の大食らいを俺は知らない。

だが、こいつが大食いしてる時の目付きが完全に飢えた獣なんだよな。

普段は小さい色気のない子供だが、あの食べてる姿は惚れ惚れしてしまうくらいだ。

今は俺の姿なんだけどな。


「美味かったか?」

「いまいちかな。辛いだけで旨味も深みもない。ただ金儲けと話題性という意味で作ったという感じ。辛いだけだからすぐ飽きるという意味できついね。それじゃあ、今度こそ美味しいもの食べさせてよ」


この妹様はまだ食う気である。

やはり俺の妹様は色気より食い気である。

だがそれがいい。


俺達はレストランに入る。


「さあ、お前の金だ。好きなのを頼みな。俺はそのお零れをいただくだけだからな」

「兄さんには助けてもらってるし、これくらい気にしなくていいよ」

「そうか、お前がそこまで言うならお言葉に甘えようか」


妹はポタージュとクロックムッシュのようなものを頼んでいた。

俺は果実酒と鶏肉のソテーとバケットである。


「兄さん、久々のお酒だね」

「お前が飲めるようになれば一緒に飲みたいものだ」


妹と晩酌かそれも悪くないな。


「一口だけ・・・ね」

「まったく、今回だけだぞ」


いつもはやらないが、ある意味これはご褒美だ。


「うーん、渋くない?葡萄ジュースの方が美味しい」

「ハハハ、昏那にはまだ早かったということだな」


やはりまだ、酒は妹には早いようだった。

だが、このワイン味が薄くて美味しくないのは事実である。

はっきり言って赤ワインにしては色が薄い、ロゼと言えば聞こえがいいが、ロゼでも味はしっかりしている。

まぁ、俺はワインよりもブランデーだからとやかくは言わんが、にわか程度の俺でも美味しくないのが分かる。

ワインは葡萄の品種、取れた時期、熟成樽と様々な要因により味が違う。

俺程度のにわかでは、理解できない程に奥が深く歴史があり格式高い酒なのである。


「ところで兄さん、冒険者支援協会(ギルド)に登録したけど私も登録して良かったの?」

「戻った時に取り直すのが面倒なのと元の世界に帰るのには金だって最低限は必要になる」


当面の目標は元に戻ることで元の世界に帰る方法は後回しだ。

どちらにせよお金がなければまともな食事や宿を取ることが出来ないからだ。

俺は別に野宿でも構わないが、妹を野宿させる訳にはいかないのだ。


「お前には不自由な思いはさせたくないからな」

「兄さん・・・」


食事を済ませ俺達は宿に到着する。

宿には風呂などなく桶と蛇口しかない。

そして、水しか出ないのだ。


「つまり、手拭いで身体を拭けということだ」

「それはつまり、私の身体を兄さんが拭くと!?」

「結果的にそうなるな。まぁ、安い宿だから仕方ないことだ。稼ぎまくってもっといい宿に泊まれるようにしないとな」

「兄さん、稼ぐのはいいけど、仕事を受けるのには少なからず戦闘技術が必要って言われてなかった?」

「とりあえず、武器が必要だと思っていま作ってる」


俺は安く仕入れた木材を切り削り武器を組み立てている。


「兄さん、そんな即席な武器で大丈夫?

この前見たいに一瞬で壊れたりしない?」


妹の心配は当然だったが、俺は削った木にT字のジョイントを施した金属製の筒を潜らせる。

サイズが少し大きいから入れるのに苦労したが、これで木材が抜けることはない。

それをもう一本作る。

所謂、トンファーとかいう武器だ。


「あの斧よりはマシだ。金が入れば特注して貰えばいい話だ」

「そんな装備で大丈夫?」

「その台詞はフラグにしかならないからやめてくれ」


誰が、大丈夫だ。問題ない。と答えるか。


「本来それはお前の金だ。俺の勝手で使っていいものではない。だからこそ、俺はお前に返さないとならない」

「気にしなくていいのに、私はただ兄さんに助けられた貸しを返しただけ、そう思ってくれればいいのに」

「かっこ悪く逃げただけだぞ」


アレはカッコいいとは言わない。

俺はこいつを守ることが重要なことであり、あの猛獣を倒すことはそれほど重要ではない。

こいつを守れるなら、かっこ悪かろうが構わない。


翌日、武器の扱いに慣れるため外に出る。


「兄さん、剣の方が良かったのでは?」

「俺もそう思った。だが、この身体では剣は扱いにくい。それに体格差を生かすなら、剣よりこっちの方がいいだろ」


クルクルとトンファーを回しながら俺は、動きを確認していく。


「そろそろ実践したいが手頃な相手がいないな」

「あの獣がいた場所に引き返せば」

「馬鹿言うな。アレはまだ早い、今度こそ殺される。それに既に弱っていたから他の獣に喰われてるかもな。野生の世界は残酷で厳しいんだ。弱った奴からやられる。だから、もう会うことはないだろう」

「ふーん、それならあの辺なんかどうなの?」


妹が指を差した先にはグァードと呼ばれる鳥爪種がいる。

丸々太っており、主に食用らしく淡白で美味しい。

卵を産むための家畜としても飼われていたりする。

あまり好戦的ではない部類の鳥獣で、飛べないが足が速く逃げられたら人間の足で追いつくのはほぼ不可能と言われている。

基本的に危害さえ加えなければ大人しい鳥獣である。


「一撃で沈めないと逃げられる可能性大だぞ。だが、悪くない相手だ」

「今日のご飯は焼き鳥だーーー」


妹は楽しそうだ。

やっぱり、こいつはこうじゃないとな。

悩むのは俺だけで十分なんだ。

こいつがこんな事で悩むなんてらしくないからな。

悩むなら、俺の事じゃなく自分の事で悩んで欲しい所だ。


「お前は食ってばかりだな」

「食欲旺盛な妹は嫌い?」

「いや、男でも女でも食わない奴よりは好きだ」

「元に戻ったら、兄さんのことを食べたい」

「俺の作った料理のことか?俺の料理ならまだ、待ってくれ。せっかく街に着いたんだしっかり準備してちゃんとしたものを作りたい」

「・・・兄さん」


妹が何か残念そうだ。

きっと、俺の料理を楽しみにしてくれていたからだな。

それは悪いことをした。

ここまで、楽しみにしてくれてるなら腕によりをかけて作らないとな。


俺は早速、グァードにトンファーを試すことにした。

俺はトンファーの短い方をグァードに向け一突きし、更に空いてる方のトンファーで更に突く、グァードは大きく鳴くと逃げようとした瞬間、長い方に持ち変え、グァードの頭部を殴りつける。

その一撃でグァードは千鳥足になりつつも逃げようとしている。

俺は短い方での突きと長い方での殴りつけを連続的にグァードに叩き込む。

しばらく、それを続けているとグァードは絶命し、動かなくなる。


「逃げるとはいえ、無抵抗の相手を殴り倒すのは流石に心が痛むな」

「兄さん、タコ殴りにした後に言うことじゃないよ」


まさにその通りだが、こいつで試さないと次の段階には進めない。

次は反撃してくる相手をしないとならないからである。


「とりあえず、食料になるだろ。食って供養すれば問題ない。でも、この大きさなら肝臓もきっと大きそうだ。レバームースでも作るか」

「兄さん、私のお嫁さんになって♡」

「その姿でいうと洒落にならんからやめろ。誰が嫁になるか!!」


何度も言うが妹と俺は意識と記憶が入れ替わっており、妹は本来の俺の姿をしてるので冗談でも、洒落にならないことがあるのだ。

俺は最近気になってることがある。

俺は鍛えてるので、最近は筋肉痛が酷い。

要するにこれから筋力がついていくところなのだ。

これがこの身体に起きてる変化だというなら、食ってばかりの俺の身体はどうなってしまうのか。

下手すると筋肉が落ちるですまない可能性だってありえる。

逆にサッサと俺の身体に戻らないとグァードのように丸々太ってしまう可能性だってありうる。


グァードの解体を街の肉屋に依頼し、待ってる間に冒険者支援協会(ギルド)にやって来る。


「昨日、登録した者だけど」


受付が俺の姿を確認すると名前を聞いて来たので、クレナ・ニカイドウと答える。


「ああ、レイ・ニカイドウさんと一緒に登録した方ですね。大変申し訳ありません。そちらのレイさんの登録は承認され会員証が発行されてるのですが、クレナさんの方はまだ申請中です」


順番的には俺の方が早く登録したのに関わらず登録を後にした妹の方が早いのは、性別によって登録の申請に時間がかかるということなのだろうか。


「発行されてるなら、先にそれをいただいても大丈夫?」


俺は周囲に怪しまれないように、男性的な口調を控えた話し方をする。

この姿で男言葉を使った瞬間、周りに与えるイメージはあまりにもインパクトが強い。

その為、そういうことが苦手そうな妹には俺以外に話しかけても答えるなと言っている。

無愛想でイメージが悪いが、あらぬ誤解を受けるよりはマシである。


「分かりました。それでは、レイさんにこの冒険者支援協会(ギルド)でできることを改めて教えます」


冒険者支援協会(ギルド)とは、大きく分けて三つのことが出来る。

一つが仕事の斡旋としてその街の依頼を請け負うことが出来る。

収集系や生産系、討伐系、調査系がある。

高いランクほど報酬は高いがリスクも当然高い。

基本的に受けられる依頼は自分より低いランクか一つ上のランクしか受けられない。

しかし、一つ上のランクを受ける場合はそのランクに該当する者が最低一名の同行が求められる。

ちなみにランクはeランクからスタートである。

もう一つが、素材や換金アイテムの売却である。

一応、店によっては買い取ってくれる店もあるが、扱う品に偏りがあり、売れない品も存在する。

もしくは、買い取る金額にばらつきがあるのだ。

冒険者支援協会(ギルド)の買い取りは、そのようなことはなく、その場で鑑定して納得がいけば買い取りという形になっている。

そして、最後の一つが武器などの装備品の特注である。

これはEランク以上しかできない特権で、素材と金貨を渡せばオーダーメイドで装備品を作ってくれるというものだ。

依頼には報酬とは違い、依頼の内容、難易度に応じてギルドポイントというものがある。

そのポイントを一定数稼ぐと次のランクへアップする仕組みだ。

ランクはe〜aの下位とE〜Aの上位が存在し、上位に上がる際は昇級試験がある。

要するに冒険者というのは、完全な実力主義な世界なのだ。

もっとも元の世界に帰ることが目的であるため、最高ランクを目指すわけではない。

だが、ついでに目指すのも悪くないかもしれない。

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