第二章 人の噂も七十五日?
部活を引退したはいいが、なかなか受験勉強に切り替えられない。
そういうときは、図書室に行くことにしている。そうすると、私みたいに部活があった時間を持て余している水泳部がなぜか必ず一人はいるからだ。
「失礼しまーす」
今日は部員の人数が多い。部長であり、私の近所に住んでる幼馴染の蓮、スタイルが良くてどこか大人びた雰囲気の亜美、元気で面白く、部のムードメーカー的な存在の秋実、そして千春と海だ。
みんなそれぞれ教科書とか塾のテキストとかを開いているが、勉強を始める気配は全くない。みんな目線が千春と海に向いている。
「あ、琴葉も来たー!」
秋実がブンブンと手を振って自分の席のとなりをバンバンたたいた。
「秋実、しーーっ」
さっそく亜美に注意されてる。これもよく見る光景、もはや日常茶飯事となっている。
「いや、でもまさか二人が付き合っちゃうとはねー、思いもしなかったわ」
「お互いその、気になり始めたのも最近だし、メンタル的に危うい中総体前に言うわけにもいかなかったから。まあ、俺はひたすらに隠してたけど」
「私も。まぁ、結局はバレちゃったけどね」
「いや、今朝から待ち合わせして一緒に登校したり、肩が触れ合うくらい近づいて歩いてたら、そりゃ気づく人は気づくだろ」
「ちょ、蓮!見てたの⁈」
千春が顔を真っ赤にして慌てふためいている。
…いや、そんなことしてたのかよ。
登校中にそんなことしてたら、私たちカップルですよーって見せびらかしているようなものではないか。その辺に鈍感な私でも気づいたと思う。
「…まぁ、長く続くといいね」
「正直、今日だけでだいぶ騒がれたから、ちょっと疲れた」
私が心配すると、一日中冷やかしや質問攻撃を受けていた海が机にぐたっと伏せた。
「まぁ、人の噂も七十五日っていうし?少し過ぎれば元に戻るんじゃないの?」
「七十五日もこれが続くのかよ」
「今朝みたいにしなければな」
うへぇ、と海がうんざりした表情を隠さず、唸り声をあげた。