エピローグ 告白
カリカリと、塾の自習室にシャーペンの音だけが響く。
オレは志望校を第一高校に決めてから、猛勉強中だ。
しかし、最近は集中がすぐに途切れてしまう。
「はぁ」
本日何度目かのため息をつくと、後ろに誰かの気配を感じた。
「蓮」
同じ塾の元水泳部、亜美がこそっと手招きして、財布を持って自習室から出るように促す。
ああ、もうそんな時間か。
時計の短い針は7をとっくに通り越していて、自分の腹が減っていることに今更気づいた。
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「さっきからため息ばっかりついて、どうしたの?」
近くのコンビニでお互い晩飯を買っておにぎりを開けていると、亜美がさらっと訊ねてきた。
「…何でもないって」
「いや、何でもなくないね。まあ、大体の予想はついてるけど」
「は?」
予想ついてる?なんだって?
「千春と海が別れたあたりから、何かあったでしょ」
「うっ」
ドンピシャすぎて、おにぎりでむせてしまった。
「何かあったの?そういえば、その日の帰り琴葉と一緒だったよね」
「…本当に予想できてるんだな」
「まぁね。女の情報網、なめるんじゃないわよ」
そこまで知ってるんだったら、教えてもいいかなって思ってしまった。
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『ハッキリ言っとくけど、私と蓮はただの幼馴染で付き合ってないから』
それは、あの騒動の日、琴葉が紅羽に発した言葉。
紛れもない事実なんだけど、それから何度も思い出しては胸が苦しくなる日々が続いていた。
オレ、どこかおかしいのかな…
でも、周りはみんな受験生。限られた合格人数で同じ高校を目指すライバルたちも多い中で、こんな変なことを相談できる友達もいなかった。
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「それは、恋ね。恋」
「…はあ?」
恋…ってことは、オレは琴葉を恋愛的に好きだと思ってるってことか⁈
亜美の言葉に、頭が混乱して沸騰しそうだ。
「顔、赤くなってるし。反応からするに、確定でしょ」
「えっ…でも…オレは…」
頭がうまく回らない。脳が考えることを放棄してしまったようだ。
「想像してみて。琴葉が男の人と手をつないで歩いていたら?一緒に買い物をしていたり、おそろいのキーホルダーとかつけてたら?」
「…すげぇ嫌」
考えただけで怒りが沸々とこみあげてきた。
オレは小さい時からずっと琴葉を知ってるんだぞ⁈
知り合って1,2年のやつよりも、ずっと琴葉と一緒にいる時間は長いんだ!!
「でしょ?!そんなに嫉妬するってことは、完全に恋しちゃってるね。…で?どうするの?告るの?」
「こく、る?」
沸騰していた頭が一気に冷めて、冷静になっていく。
もし断られたら…俺たちの関係はどうなってしまうんだろう。
嫌な予感がちらっとよぎる。
「琴葉の口からあんなこと言われたし…」
「それは紅羽ちゃんに言ったことでしょ?拡散されたくないからそう言っただけかもしれないし」
それもそうだ。
表面上は優しそうな先輩をやっているが、普段の行動が計算高そうなやつのことだ。パッと考えて紅羽が諦めてくれそうな言葉を言っただけかもしれない。
ということは、まだ好きじゃないと決定したわけではない。
「告ってみようかな」
「それがいいと思う。今のもやもやした気持ちもきっと晴れると思うよ」
「そっか。…サンキューな、亜美。ちょっとスッキリした」
「結果聞かせてね。応援してるから」
心が少し軽くなった今なら集中できる気がする。
そんな浮ついたオレは、亜美のボソッと言った言葉は全く耳に入らなかった。
「琴葉が言ったのは、本心から出た言葉だと思うけどね」
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
後書きや作者の感想などは、活動報告の方に記載させていただきますので、そちらもぜひ!!
次は、いよいよ最終章です!もう少し琴葉たちにお付き合いいただけると嬉しいです。