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初めての冒険

 翌日、セーラはアルフレッドらとともに街を訪れていた。買い出しついでにあの人さらいたちについても報告することになっていた。セーラも当事者として同行する予定だ。

 ギルドに入ると、茶髪の受付嬢マリーがセーラに気づいて声を上げた。


「あっ、セーラさん! 昨日は姿が見えなくて、わたし心配したんですよ!」

「マリーさんごめんなさい。実は――」

「そのことについて報告がある」

「え? あ、アルフレッドさん!? な、なんでアルフレッドさんがセーラさんと一緒に……」

「だからそれについて報告しようと言うんだ」

「す、すみません! では、上の応接室でお聞きしてもいいですか?」

「ああ」


 応接室に案内された一行は、そこで事の顛末を大雑把に説明した。マリーはふむふむと言いながら手元の紙にあれこれと書き込んでゆき、ほどなく報告は終わった。


「なるほど……災難でしたねセーラさん。それにしても、あのアルフレッドさんがパーティとは……、なんだか不思議な感じですね」


 昨日の話でも聞いていたことだが、実はアルフレッドたちは今までパーティで依頼に挑戦したことがないらしい。依頼はいつもアルフレッド、レヴィア、シグルムの中から誰か一人が受けていたのだという。そんなことになった理由の一つが、ティーダである。

 街に着いた当初はキラキラと虹色の瞳を輝かせてはしゃいでいた彼女だったが、何故かどんどん機嫌が悪くなり、今は机に突っ伏してむくれている所だった。

 聞けば、アルフレッドに対する街の人たちの態度が気にくわなかったらしい。セーラには聞こえなかったが、どうやら陰でアルフレッドの悪口を言っていたようだ。先程、ギルド一階のロビーでマリーと話していた時など、アルフレッドを指差して何事か囁いていた冒険者の男らにセーラが身震いするほどの怒気を発したところをレヴィアとシグルムに説教されていた。


 最初、セーラはティーダのことを十歳程度だと思っており、実際それくらいにしか見えなかったのだが、彼女はなんとまだ五歳であった。どうにも彼女の種族は生まれてから十年ほどで大人と変わらぬ体に成長するようで、そのせいで歳を勘違いしたのだ。

 ちなみにそれを知った時、同時に他のパーティメンバーの年齢も教えてもらい、自分と同じ十五歳程度だと思っていたアルフレッドが二十歳、最年長だと思っていたシグルムが十八歳だと知って、セーラは人を見かけで判断しないようにしようと心に決めた。レヴィアは謎である。本人にもわからないとのこと。アルフレッドもだが、レヴィアも謎が多い人物だった。

 それはともかく、ティーダが感情を制御できずに暴走することを危惧して、今まで街に連れ出すことはしなかったらしい。精神年齢五歳に自重しろというのも酷な話ではあるのだが、アルフレッド曰く彼女の実力はそこらの冒険者を凌駕するという。致し方ないことだった。


「では、この子の登録を頼めるか」

「はい。そちらの獣人の方ですね?」

「……ティーダ。いつまでそうしているつもりだ」

「……だって、みんなおとーさんをバカにするんだもん……!」

「俺は気にしていない」

「でも……!」

「この日を楽しみにしていたのだろう。そんな顔をするな」

「……うん。わかった」

「ティーダさん、でしたか。大丈夫ですよ。アルフレッドさんが素晴らしい方だということは、わかる人はちゃあんとわかってます。もちろん、わたしもですよ?」

「……うん! そうだよね! よーし、ティーダも頑張っておとーさんに追いつくぞー!」

「ふふ、その意気ですティーダ」

「ふむ、これは拙者もうかうかしておれませんな」

「……ふふっ」

「む? どうされましたセーラ殿」

「いえ……仲間っていいな、と思いまして」

「……では、今日はティーダ殿のみならずセーラ殿にとっても門出の日ということですな。良き日です」


 そう言ってシグルムは呵々と笑った。釣られてセーラもくすくすと笑った。






 記念すべき初めての冒険、それは、洞窟に潜むゴブリンの討伐だった。

 ゴブリンとは、人間の子供程度の体格と力、そして最低限道具を扱う知能を持ち合わせた亜人の一種である。

 アルフレッド曰く、単体でなら脅威ではないが集まると厄介なパターンの典型で、連携の確認にちょうどいいらしい。

 先頭をアルフレッド、その後ろにティーダ、セーラ、レヴィア、シグルムの順に続き、洞窟を進んでゆく。


「――――止まれ。前から来る」


 アルフレッドが小声で皆を制止した。


「……足音は四つか。ティーダ」

「うん。まかせて!」


 言うが早いかアルフレッドが手投矢を二本投げうった。奥の暗がりからギャッと叫び声が上がる。続けてティーダが矢の如く飛び出し、暗がりに消えたかと思えば、手に嵌めた手甲を血に染めて戻ってきた。


「よし、行くぞ」


 わかっていたことだが、ゴブリン数匹では相手にもならない。自分は『点灯』で明かりを灯すくらいしか役に立てないとセーラが嘆いていると、後ろから肩に手が置かれた。振り返ると、青の瞳がそこにあった。


「焦ることはありませんよセーラさん。ゆっくり、確実に成長していけばいいのです」

「どんな偉大な戦士も始めは幼子ですからな。急がず、己を高めてゆけば――む」

「シグルムさん、どうかしましたか?」

「闘争の気配がしますな」


 耳をすませば、確かにその言葉の通り、ゴブリンたちの叫び声と微かな剣戟音がした。


「どうやら、この先で闘っている者がいるようだ」

「他の冒険者の方、でしょうか? なんにせよ、早く助けにいかないと!」

「……そいつが俺たちの味方である保証はない。余計なことをするなと言われるかもしれん。それでも行きたいか?」


 抗毒布に包まれた顔がセーラに向いた。感情の読めぬ紫の瞳にじっと見つめられ、わずかに動揺したものの、セーラははっきりと答えた。


「助け、たい……ですッ!」

「……そうか」


 静かに頷くと、アルフレッドは手早く各人に指示を飛ばす。


「ティーダは俺と先行して連中を攪乱する。レヴィとセーラは援護を。シグルムは二人の護衛を頼む」

「わかった!」

「お任せください」

「承りました」

「は、はい!」


 戦闘が行われているのはそれまでの一本道と違い、開けた場所だった。その中心で一つの人影が巨大なゴブリンと切り結んでおり、その周囲を大勢のゴブリンが取り囲んで囃し立てたり石を投げたりしていた。

 そこに躍りかかる二つの影。アルフレッドとティーダである。

 アルフレッドは腰のホルダーからナイフを抜き取り、空中で独楽のように回転して輪の中へと着地する。周囲にいたゴブリンの首が飛んだ。

 ティーダは獣人の本能か、いつもの無邪気な表情からは考えられぬ獰猛な笑みを浮かべ、旋風のようにゴブリンたちの間を通り抜けてゆく。巻き込まれたゴブリンが血しぶきを上げながら宙を舞った。

 突然の乱入者にゴブリンはパニックに陥る。我先にと逃げ出した彼らに、『魔力矢』の魔法が乱れ飛んだ。セーラとレヴィアの――というより、ほぼレヴィアによるものであった。


「何者ですッ!?」

「冒険者だ」

「助けに来ました!」

「っ……ありがとうございます。あれはわたし一人では少々荷が重く……」


 人影は女であった。フードと長い銀髪のせいで表情がよくわからないが、声と体つきから女性と判断できる。とりあえず、こちらの助けは受け入れてもらえるらしい。


「……」


 アルフレッドは視線を巨大なゴブリンへと向ける。三メートルはあろうかという巨体にはより致命打を与えやすくするためか、釘の打ち込まれた棍棒が握られている。アルフレッドはなんとなく、鎧も着ていない普通の人間があれで殴られたらどうなるか予想がついた。挽肉である。


「来ます! 回避を!」


 唸り声を上げながら迫り来る棍棒の前へ、あろうことか飛び出す者がいた。シグルムである。

 東方の国に存在するという、大太刀と呼ばれる長大な刃物を抜き放ち、その巨体でもって棍棒を受け止める。


「ぬうんっ!」


 そればかりか、上方へと棍棒を弾いた。フードの女が驚嘆の声を上げる。


「なんと……!」

「はっはっは。狭い道中では出番がありませんでしたが、ここでなら思う存分振るえるというもの。いや、重畳、重畳」


 喜々として打ち合いに臨むシグルムを尻目に、アルフレッドが女に尋ねる。


「聞くが、あれは俺が倒してしまってもいいのか?」

「……え? あ、いや、別にわたしが止めを、などというこだわりはないので、かまいませんが……」

「そうか」


 そう言うなり、アルフレッドは前に出て、ゴブリンと打ち合いを続けるシグルムに言い放った。


「シグルム、満足したなら戻ってこい」

「……ふむ。いささか名残惜しくはありますが、もとよりこれは予定外の事なれば、仕方ありますまい」


 そして、二、三回と打ち合った後で、シグルムがアルフレッドの元まで飛び退く。代わりにアルフレッドがまるで散歩でもするような気楽さでもってゴブリンの前に進み出た。当然、彼目がけて棍棒が振るわれる。そしてそれをアルフレッドはただ黙って見つめ――。


「危ない!」

「アルフレッドさん!」


 思わず叫んだセーラは、アルフレッドが手袋を外すのを見た。


 そしてアルフレッドは身を屈め、その頭上を棍棒が通り過ぎてゆき――。

 手袋を嵌め直すと、そのままアルフレッドは何事もなかったかの如くゴブリンに背を向け、歩き出した。

 ゴブリンの追撃はない。いや、既に勝敗は決していた。

 ゴブリンの体がぐらり、と傾き、そのまま地面に倒れ伏す。それで終いだった。


「な――、いったい、何が――」

「ふむ。すれ違いざま、あの子鬼の手を切りつけたのです。見事なものですな」

「え? え?」


 困惑する女を見て、ですよね、とセーラは同情した。自分だって、初めて見たときには何が起こったのかまるでわからなかったのだ。


「あ、あなたは……、いったい、何者なのですか……?」


 女の質問に、心底不思議そうに首を傾げ、アルフレッドは答えた。


「さっきも言っただろう? ――冒険者だ」


 ――アルフレッド。フルネームをアルフレッド・ヴェノマイザー。

 多種多様の毒を武器として扱う彼だが、最も強力なのは自身の持つ『魔蝕毒』と呼ばれる人智を超えた超猛毒であり、それを食らって生きていられる生物は存在しないという。

 「イニシエーター」と呼ばれる、この世界最強の存在の一角、それが彼の正体であった。

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