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パーティを組もう

本日何度目かの呆気にとられるセーラをよそに、エプロン姿の美女とアルフレッドは話を進める。


「ああ、ただいま。二人は帰ってるか?」

「いえ。ですが、もうすぐ帰ってくると思いますよ?」

「そうか。セーラ、少し待てるか?」

「……」

「どうした?」

「……はっ。す、すみません! えっと、大丈夫です」

「ふふっ。では、それまでお話ししましょうか。どうぞこちらへ」

「は、はい。お邪魔します」


 美女に招かれ、席につくセーラ。顔に巻いていた抗毒布を解き、ほっと一息つく。

 アルフレッドも、着ていたローブを脱ぎ、抗毒布を外す。その姿を見たセーラは――、


「……あの、ひとつ質問してもいいですか?」

「なんだ」

「その……アルフレッドさんって、女の人だったんですか?」


 腰まで伸びた艶やかな黒髪、紫水晶アメジストの如き紫の瞳、そして男とも女とも言えぬ中性的な顔立ちを見ればそう思うのも無理はない。


「……いや、よく間違われるが俺は男だ」


 わずかな間の後、アルフレッドはそう答えた。


「うふふ……アルフレッド様はお綺麗ですから。はい、お茶をどうぞ」


 セーラと、綺麗と言われて複雑そうな顔をしていたアルフレッドの前にお茶が置かれる。ハーブティーらしく、鼻に抜ける爽やかな香りをかいだセーラは、それまでの疲れが少しだけ癒やされるのを感じた。


「では、まずは自己紹介から。わたしはレヴィア・ナスターシャと申します。レヴィとお呼びください」

「セーラです。一応冒険者をさせていただいています」

「まあ。そうなのですか」

「はい。まだ、一ヶ月前に冒険者になったばかりの新人ですけれど……」

「アルフレッド様とはどこで知り合ったのですか?」

「森で薬草探しをしていたら、声をかけられて……それで、見慣れない方だったので、わたしと同じ新人の冒険者の方だと思ったんです、けど……」


 セーラはおずおずとアルフレッドの様子を伺った。

 どうやったかのはわからないが、人さらいたちを瞬く間に全滅させたことから考えて、目の前の少年の実力が新人の冒険者などとは比べ物にならないことは、新米である彼女でも容易に想像できる。

 ここに至って、セーラはアルフレッドが駆け出しの冒険者でないことを半ば確信していた。


「俺は五年前に冒険者になった」


 そう言ってアルフレッドは懐から認識票を取り出し、テーブルに置いた。

 小さな、金製のプレートである。


「――――!」


 思わずセーラは、己の木製の認識票をぎゅっと握りしめた。

 ギルドから実力を認められる度に、冒険者の認識票は豪華になっていく。アルフレッドの持つ金の認識票は、並の人間では一生かけてもたどり着けないと言われる、一流の冒険者の証だった。


「し、失礼しました! そんな高位の冒険者だと知らず、パーティに誘うだなんて……!」

「気にするな。実を言うと、ちょうどいいと思っていた」

「へ?」


 自分とアルフレッドの実力には天と地ほどの差がある。アルフレッドの受ける依頼のレベルを考えたら、自分では役に立たないどころか足を引っ張るのではないだろうか。ちょうどいいとはいったい――。


「俺のパーティは俺とレヴィ、それと今出かけている二人の四人なんだが、魔法を扱うのがレヴィだけでな。魔法使いのセーラが入ってくれると助かる」

「で、でも、わたし新人ですし、足手まといに……」

「セーラさん。実力がないというのであれば、身につければよいのです。魔法なら私が教えますので、心配いりませんよ」

「無理にとは言わないから、考えてから決めてくれればいい」


 セーラは思う。これ以上のチャンスはもう二度とないだろう、と。

もちろん不安はあるが、それ以上にこのまま終わることはできないない、という思いが大きかった。

冒険者になるという彼女の夢を、村のみんなが後押ししてくれた。子供も大人も、それぞれが小遣いやら貯金やらから少しずつ出しあって、魔導書と街までの費用を準備してくれたのだ。大好きなみんなに、恩返しがしたかった。

その想いが、彼女に決意させた。


「いえ、もう決めました。わたしをパーティに入れてください」

「……そうか」

「ふふ、よろしくお願いしますセーラさん」

「い、いえ、こちらこそよろしくお願いします!」


 その時、勢いよく玄関の戸が開け放たれ、何者かが飛び込んできた。


「たっだいまー!」


 獣人の女の子だった。虹色の瞳と毛に覆われた猫科の耳を持つその女の子は、満面の笑みでアルフレッドに抱きついた。


「おとーさん! 今日はね、おっきな猪がいたの!」

「……そうか」


 言いながら、アルフレッドは女の子の頭を撫でてやる。対する女の子も幸せそうにアルフレッドに甘えている。


「おや、お客人とは珍しいですな」


 状況についていけないセーラに、声がかかった。見れば、一人の蜥蜴人リザードマンが玄関から入ってくるところであった。


「えっと……この方たちは?」

「この二人が残りのパーティメンバーだ」

「ティーダだよ!」

「シグルムと申します。どうぞよろしく」

「セーラです。本日より、パーティに加えていただくことになりました」

「じゃあ、明日から冒険!?」

「いや、レヴィをセーラにつけて、色々と学んでもらってからにしようと思っている。だから、今すぐティーダが想像するようなレベルの依頼を受けるわけにはいかん。セーラはそれでいいか?」

「も、もちろんです」

「話はまとまりましたかな? では、そろそろ夕餉と参りましょうか」


 先に台所へと消えていたシグルムが器を持って自分の席に着く。続いてレヴィが皆の前に器を並べると、夕食が始まった。悪霊の沼地に生物はいないはずだが、卓上には様々な種類の料理が並んでいた。


「どうですかセーラさん? お口には合いましたか?」

「はい! とっても美味しいです!」

「ふふっ、それはよかった。でも実は、料理の腕前はわたしよりもアルフレッド様の方が上なんですよ?」

「ええっ!? そうなんですか!?」


 思わずアルフレッドの方を見ると、紫の瞳と目が合った。慌てて目を逸らす。


「さて、パーティの一員となるセーラさんには、わたしたちの始まりからお話ししなくてはいけませんね」


 謎は多いな、などと考えていたセーラの思考を読み取ったのか、レヴィアがにこやかにそう切り出した。


「ですが、この話は少々長くなるので、お風呂の時にでもいたしましょうか。なにせ――」



 ――この世界の根本に関わることですから。そう言って、レヴィアは悪戯っぽく目を細めるのだった。

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