原初の森のヴェノマイザー(2)
途中で投稿してしまった……すみませぬ。
色々とやらかしの多い本作ですが、今後も不定期に更新していく予定ですのでよろしくお願いします。
セーラたちが蜘蛛人の集落跡に到着したとき、既にそこは蜘蛛人たちとゴブリンたちとの乱戦となっていた。
「これは……」
「ふむ、ナトラ殿。子鬼どもと相対している方々ですが、あれは蜘蛛人では?」
シグルムが尋ねるが、ナトラは呆けたまま立ち尽くしている。
「うそ……。みんな、生きて……!」
「ナトラ殿!」
背後からナトラに襲いかかったゴブリンをシグルムが縦に両断する。
「そこにいるのは……もしやナトラか!?」
乱戦から抜け出し、一人の蜘蛛人がこちらへ駆けてくる。
「お父様!」
「やはりお前か! 無事でよかった! お前があの方を呼んできてくれたのだな!」
「あの方?」
「ああ、あの方のおかげで我らは救われた」
蜘蛛人が指差した先には、群がるゴブリンをたった一人で薙ぎ払うアルフレッドがいた。
「アルフレッド殿!」
「やはり先行しておりましたか。流石ですな」
「よーっし! わたしたちも行くよー!」
ファミリアの三人とシルヴィアも加わり、さらに混迷を極める大混戦の中、アルフレッドは確実にゴブリンロードとの距離を詰めていた。
――なぜだ。こんなはずではなかった。数は圧倒的にこちらが上だった。あの怪物はなんだ? 忌まわしい結界を壊し、自分たちを森へと導いた「あの女」はこんなのがいるなんて言ってなかった。なぜだ!
恐怖、怒り、屈辱、逃げるゴブリンロードの胸中に様々な感情が渦巻き――、唐突に飛来した矢が足を貫いた。
「この森でわたしの矢から逃げることはできないわ。愚かな小鬼の君主よ」
ライラ・テイルウィンド。彼女こそ森の守り神であり、世界一の弓の名手である。二人の使徒に狙われてしまえば、逃げられる道理などどこにもなかった。
「――追いついたぞ。お前に恨みはないが、ここで死んでもらう」
怨嗟の声をあげながら、最後の抵抗とばかりに剣を振りかざすゴブリンロードの胸に、アルフレッドがナイフを突き立てる。刃に塗布された即効性の致死毒は正しく効果を発揮し、ゴブリンの君主はしばしの痙攣ののち、静かに息絶えた。
「……『強欲』の魔神か。確かに覚えたぞ」
そう呟いたアルフレッドは、身を翻し、残るゴブリンの掃討に乗り出すのだった。
君主を失い、さらに頼みの綱であった数の差までもアルフレッド一行と蜘蛛人たち、そして途中から参戦したエルフたちによって失ったゴブリンたちが全滅するのに、さほど時間はかからなかった。
戦いを終え、エルフの里に戻ってきたアルフレッドたち。集落を失った蜘蛛人たちも再興までの間エルフの里で暮らすことになり、森にひとまずは安寧がもたらされることとなった。
「まったく、アルフレッド殿らには感謝のしようもない。今回の件で長老たちの頭も少しは柔らかくなることだろう。エルフ一同、重ねてお礼申し上げる」
「我らもだ。アルフレッド殿がいなければ、我らはいまだに水の底で眠っているところだった。蜘蛛人からも厚くお礼申し上げる」
「気にするな。依頼を受けただけだ」
そんなやりとりを眺めるセーラの元にナトラとシルヴィアが現れ、両隣に腰掛けた。
「どうされましたか、セーラ殿」
「ナトラさん……」
「わかってるわよ。また活躍できなかったとか考えてるんでしょ」
「……はい」
「セーラ殿、それはわたしたちも同じです。今回の件で、いかに自分が無力かを思い知らされました」
「……わたしはアルフレッドさんたちのパーティの一員なのに、今のところ何のお役にも立てていません。それが悔しくて……」
「あら、若い子が三人もそろって、何か悩み事かしら」
声の方を振り返ると、ライラが盃片手にやってくるところだった。
「ししし、始祖さま!?」
「も、申し訳ありません!」
「そんなに縮こまらなくても大丈夫よ。原初のエルフといってもみんなとそう変わらないから」
「はじめまして、冒険者をさせていただいてます、セーラです」
「うふふ。よろしくね、セーラ。それであなた、何か悩んでいたみたいだったけれど、よかったら聞かせてもらえないかしら」
「はい。実は――」
そしてセーラは、己の悩みを打ち明けた。パーティの中で自分だけが明らかに実力不足であること。強くなりたいが、方法がわからないこと、等々。
「なるほどね。確かに、アルフレッドは強いわ。彼はちょっと特別な出自をしているから。でも、アルフレッドが認めたのなら、あなただって何かあるはずよ。もっと自信を持ちましょう?」
「はい……」
その時、ライラの背後から小さな妖精が現れ、セーラの周りをぐるぐると周り始めた。
『だいじょーぶだよ! アルくんはやさしいから、気にしてないよ!』
「ありがとうございます。慰めてくれるんですね……」
「セーラ殿? 誰と話しているのですか?」
「あら、シルフが見えるのね。精霊に好かれる素質があるのかしら」
セーラを見てしばし思案するそぶりを見せたあと、ライラはにっこり笑って一つの提案をした。
「そうね……わたしからアルフレッドに話してみるから、わたしと一緒に特訓しない? 適正はありそうだから、風魔法を教えてあげるわ」
「! い、いいんですか?」
「ええ。セーラがよければだけど」
「すごいじゃないセーラ! 始祖さまから魔法を教えてもらえるなんて、うらやましいわ!」
「そんなに大したことじゃないわ。よければ、あなたも一緒にやる?」
「本当ですか!? 伝説の始祖さまに魔法を教えてもらうなんて、夢みたい……!」
「あ、あのう……。お邪魔でなければ、わたしも一緒に……」
「もちろんよ。みんなでやりましょう。じゃあ、アルフレッドに話してくるからちょっと待っててね」
そう言うとライラは、いつの間にか連れていたカラスに餌をやっているアルフレッドの元に軽い身のこなしで近づいていき、少ししてから戻ってきた。
「許可が出たわ。冒険者ギルドには伝書鳩で報告をするから、三日ほどここで過ごすつもりだって。よかったわね」
「はい! よろしくお願いします!」
その時、木々の間から一匹の獣が降り立った。鷲の翼とライオンの下半身をもつそれは、アルフレッドの元へ悠然と歩み寄る。よく見れば、首から封書をぶら下げていた。
「あれ、グリフォンよね? ここらじゃあんまり見ないはずだけど」
「中央都市の冒険者ギルドでは、緊急時の伝令用にグリフォンを飼っていると噂で聞いたことがありますが、まさか……」
グリフォンから封書を受け取ったアルフレッドは、中身を検めると、静かに告げた。
「中央都市から呼び出しを受けた。使徒の一人が危ないらしい。俺は中央都市へ向かう」