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エルフ会議

500PV超えました! 色々と拙いところがありますが、これからも頑張って書いていくつもりですのでよろしくお願いします!

「もう少しで森妖精エルフの領域よ」


 先頭を行くシルヴィアが後ろを振り返って言った。アルフレッドと別れて随分歩いたが、彼が追いついてくる気配はない。


「今更だけど……アルフレッドは本当に大丈夫なの?」

「実はわたしもちょっと気になってて……、大丈夫なんですか? レヴィアさん」

「ええ、大丈夫ですよ。アルフレッド様は精霊と会話ができますからね」

「え? 嘘でしょ!? わたしたち森妖精だってギリギリ見ることができるくらいで、会話ができるのはわたしだけなのに……。アルフレッドって何者?」


 そんな会話をしていると、シグルムが何かを感じ取ったらしく、シュルルと息を発した。


「……ぬ。この気配は……」

「二、いや三かな……? どうする?」

「待って。たぶんこれは……」

「――そこの集団、そのまま止まれ。これより先は我らが森妖精の領域。それを知っての狼藉か」


 どこからか声だけが聞こえてきた。それも一つではない。同時に、ギリギリと音が聞こえる。それが弓を引き絞る音であることは容易に想像できた。


「――狼藉? 故郷に帰ることをあなたたちはそう呼ぶのかしら」


 臆さず、シルヴィアが言う。そして、彼女は被っていたフードを取った。森妖精の身体的特徴たる尖った耳と彼女自身の特徴である若草色の髪が露わになる。


「――っ! 大変失礼いたしました。シルヴィア様とは知らず、無礼な口をきいたことをお許しください」


 彼女が族長の娘だと気づいたのだろう。すぐさま謝罪の声が帰ってきた。次いで、頭上から影が降ってくる。ティーダの言う通り、三人の森妖精が地面に降り立ち、揃ってシルヴィアに頭を下げた。


「わかればいいわ。お父様はいるかしら? すぐに話したいことがあるの」

「はい、族長は現在、長老方と会議の最中でございます」

「そう、ありがと。もう行っていいわよね?」

「……お言葉ですが、余所者を入れるわけには――」

「――余所者?」


 シルヴィアの瞳が細められた。氷のように冷たい声音で、彼女は言葉を発する。


「わたしの後ろにいるのはナトラ。蜘蛛人アラクノイドの族長の娘で、わたしの友達。その後ろにいるのも、みんなわたしの仲間よ。それを余所者なんて呼ぶことは絶対に許さないわ。謝りなさい」

「……確かに不遜な発言でした。謝罪いたします」


 三人は素直に頭を下げた。シルヴィア以外の面々は気にしていないというように頷く。


 ――なるほど、話に聞いていた通りだ。とセーラは思う。

 ナトラとシルヴィアの話から、セーラはエルフという種族がどのようなものかある程度考えを及ばせていた。

 尖った耳を持ち、原初のエルフを信仰するその末裔たち。悠久の時を生き、森とともに生きることを是とし、気位が高く、それゆえ他種族との関わりを避ける種族。シルヴィア曰く、年寄りほど閉鎖的な価値観に凝り固まっているのだという。目の前の三人はエルフの中でも若者なのだろうか。エルフはみな例外なく老いと無縁で、若々しい見た目をしているのでセーラには区別がつかない。


 見張りのエルフ三人に別れを告げ、一行はエルフの集落に到着した。集落とはいっても、そこにはただ巨大な樹が三本ほどそびえ立つのみ。しかし、その一本一本は周囲を数十人で取り囲んでもまだ足りないというほど太く、そしてひたすら高かった。その樹の内部にエルフたちは居を構えているのだという。自然と調和というよりは、むしろ自然と一体化したその光景にティーダは大興奮で歓声をあげ、セーラは言葉も忘れてそれを見上げていた。


「みんなこっちよ。上で会議が行われているわ」


 そう言ってシルヴィアはするすると樹を登っていく。樹の内部にはしっかりと階段があるのだが、直接登る方が早いのだろう。さすがは森に住む者だけあってまったく危なげがない。


「悪いけど先に行ってるわ。みんなのことを早く伝えないとね」

「楽しそう! ティーダもいく-!」


 ティーダも持ち前の身軽さでシルヴィアについていき、後にはセーラ、レヴィア、シグルム、ナトラが残された。


「二人とも先に行っちゃいましたね……」

「セーラさん、セーラさん」


 呼ばれて振り向いたセーラが目にしたのは、地面から伸びた水柱によって押し上げられ、空中に浮くレヴィアの姿だった。驚くセーラにレヴィアは悪戯っぽく、


「ふふっ、上へ参ります、なんて。一度言ってみたかったんです」


 そう言って微笑を浮かべるのだった。


 上では、既にシルヴィアがエルフたちに何事か話しているところだった。


「あっ、みんな来たのね」

「シルヴィアから話は聞いた。わたしはオルレン。一応、森妖精の族長ということになっている。まあ、適当にかけてくれ」


 会議の中心人物らしき森妖精が空いた席を指差してそう勧めてきた。勧められるまま席につくと、オルレンは話し始めた。


「さて、それでは改めて、今回の異変について話そう。元々この森には森に害をなす者を寄せつけぬ結界が張られていた。そのため、本来なら子鬼などはこの森に立ち入ることはできないはずだったのだ。それがつい先日、この結界が何者かに破られているのが確認された。そこからゴブリンが侵入、奴らは蜘蛛人の住処を襲撃・占拠した。……厄介なことに、この群れを統率しているのは子鬼の君主ゴブリンロードらしいことが判明した。斥候によれば今も群れは拡大を続け、このままでは我らエルフばかりか森そのものが奴らに蹂躙されかねないということだ」


 そこで彼はナトラに視線をやった。


「彼女は蜘蛛人の生き残りであり、我が娘とともに森の外に助けを求めに行ってくれた。予期せぬこともあったようだが、彼女らは無事に援軍と情報を持って帰ってきてくれた」


 次いで視線があとの四人に移る。


「我らの救援に応じてくれたのが彼らだ。他にもう一人いるが、そちらは別行動だという」

「族長、一ついいでしょうか」


 別の森妖精が手を挙げた。


「その別行動しているという御仁を合わせても、集まってくれたのが五人では依然として戦力に差がありすぎると思います。中央にいるという『使徒』は来てはくれないのでしょうか?」

「彼らは東に現れた悪魔の軍勢を征伐に向かい、今は不在だそうだ。なお、これはおそらく陽動なのではないかという情報がもたらされた。加えて、中央でも何やら問題が起こり、冒険者たちはその後始末に追われているらしく、今すぐこれ以上の戦力をあてることは難しいのだという」

「では、我らはこのまま子鬼どもに押しつぶされるのを待つほかないということですか?」

「いや、そうでもない。別行動しているというもう一人の御仁、名をアルフレッド・ヴェノマイザーというそうだが、彼も『使徒』だそうだ」

「アルフレッド・ヴェノマイザー……、聞かない名ですが、それは確かなのですか?」

「ああ、確かだ。我らにとっては『沼地の悪霊』と言った方が馴染みがあるだろう」


 その言葉に、エルフたちの間でざわめきが起こった。ナトラもシルヴィアも『沼地の悪霊』をたいそう恐れていたので、その正体が『使徒』であるということに動揺したのだろう。


「あ、アルフレッドさん、やっぱり有名なんですね……」

「そりゃそうよ。『沼地の悪霊』なんて、人間の母親が子に言うことを聞かせるために使うくらい怖がられてるんだもの。あんなとこに誰か住んでるなんて誰も信じないわよ」

「で、ですよね……。わたしも最初は信じられませんでしたし……」

「うんうん。で、そのアルフレッドはまだ来ないの? いい加減来てもおかしくないと思うんだけど――」


 その時、ほんの一瞬、揺れが一同を襲った。同時に、何かが砕けるような微かな音が全員の耳に届く。


「今のは何……?」

「……勘だけど、おとーさんが何かしたんじゃないかなあ」

「奇遇ですな。拙者も同じことを考えておりました」

「どう思いますか、セーラさん?」

「あはは……、実はわたしもそんな気がします……」

「そうだとしたら、本当にアルフレッド殿には驚かされてばかりですね。本人にそのつもりはないのでしょうが……」


 事実、この時アルフレッドは別の場所であるものを破壊したのだが、それは状況を好転させようとしてやったわけではなかった。


 結果はともかくとして、アルフレッドは友人のためにそうしただけだったのだから。

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