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第5話 異世界トラックガチャ

 俺たちは走り続けた。

 ときどきトラックを呼び出し、銃撃が再開されるとシールドに隠れ、それを繰り返した。


 銃弾がかすめる度、マルナは「あびゃー!?」とか、「ほへぇー!?」など、奇声をあげる。


 うるさいが気持ちはわかる。俺も許されるなら、そう叫びたかった。

 

 シールドに隠れ、俺は誘導棒を振った。

 今度は、俺を轢いたのに似たトラックが現れる。……少々複雑な気持ちではある。

 

「よし、行くぞ! 急げ!」


 俺が合図すると、マルナは「はぅあー!」と叫んだ。俺は「了解」の意味だと捉えた。


 白い空間が永遠に続く。果てはあるのだろうか。どれぐらい走ったかもわからない。


 あいもかわらずガスマスクの男たちが追ってくる。数は少し減ったが、殺る気というやつは減っていないらしい。散発的にサブマシンガンを撃ち、こちらを足止めしようとしている。


 足を止めれば死ぬ。怖いが、思考が乱れるほどではなかった。


 これもマルナがくれた「力」のおかげか。


「ぎぇえええええええ!! お助けぇぇぇぇ!!」


 ……違うと思いたい。


 銃撃が激しくなったので、俺はシールドに隠れた。


「し、死んじゃう! あたし死んじゃう! まだゲームクリアしてないのに! ラスボスの正体がわらないまま死んじゃう! あんたみたいな凡人と一緒に死ぬなんてイヤだよぉ!」


 目や鼻、口からいろいろなものを垂れ流し、荒い息を吐く神様。

 この姿を信者――本当にいるなら――が見たら、どんな信心深い奴でも信仰心を失うだろう。


「あぁ、それな、ヒロインの兄貴だから」

 

「ぎぇえええええええ!! なんで言うのよぉぉぉぉぉぉ!!」


 マルナの悲鳴は、サブマシンガンの弾がかすめたときよりも深刻そうだった。


 ポカポカ叩いてくるマルナを無視し、俺はもう何度目かというトラックの召喚を行う。


「あっ、めずらし。タンクローリーじゃん。ウルトラレアだよ」


 俺を殴る手を止め、マルナが言った。


「……本当にガチャなのかよ」


 だが、タンクローリーの効果は「ウルトラレア」とは程遠かった。


 マルナに殴られながらだったせいで振り方が悪かったのか、タンクローリーはその場で横転したのだ。


 タンクを男たち側に向けて横倒しになったタンクローリーに銃撃が集中する。タンクに無数の穴が空き、茶褐色の液体が漏れ出た。ガソリンの匂いだ。


 俺は奴らの魂胆がわかった。


「あぁ、神様!」


 血の気が下がり、俺は悲鳴をあげる。

 アホどもはタンクローリーを爆破させ、シールドごと俺たちを吹き飛ばすつもりだ。


「おっ、呼んだ?」


「お前じゃない!」


 馬鹿なことを聞いてきたマルナを抱きかかえ、次のシールド――ではなく、さらに向こうに配置されたものへと飛び込んだ。


 俺たちがシールドに倒れ込んだ瞬間、目を焼く白い光が乱舞して何も見えなくなった。


 凄まじい爆発音が耳をつんざき、爆風が俺の髪を巻き上げる。


 局所的な突風が収まると、俺はうつ伏せから仰向けに体勢を変え、自分の身体を改めた。

 服の一部が熱で焦げ、煙で煤けているが、身体自体に問題はない。


 ついでにマルナも見てやる。


 ケガはなかったが、ローブが爆風でめくれて、白いをお尻を丸出しにしていた。俺は紳士なのでローブを直してやる。


 俺たちを守ってくれたシールドを確認すると、ほぼ半壊していた。オレンジの膜がガラス細工のように砕け、破片がパラパラと地面に落ちる。


 ひとつ飛ばしたシールドの方は全壊していた。

 あれを盾にしていれば、俺たちもまたバラバラになっていただろう。


 タンクローリーの爆発を至近距離で食らってケガがないのは、神の慈悲か何かだろうか? その神は、隣でゲホゲホやっている奴じゃないと思うが……。


 もうもうと立ち昇る白煙に向かって、俺はでたらめに誘導棒を振るう。


 猛進するトラックの群れが白いヴェールを切り裂いた。

 

 何人かに当たったような気がするが、戦闘不能にしたかどうかはわからない。


「……あ、頭の中で、除夜の鐘が十六連射されてるよぉ」


 酔っぱらったように頭をフラフラとさせ、マルナは低く呻く。


 俺の頭の中では、「絶対に起きれます」という触れ込みの目覚まし時計が2、30個並んで喚き散らしていた。


 頭痛と耳鳴りの回復を待っている暇はない。俺はさらに誘導棒を振るい、その場を離れる。


 タンクローリーの爆発もあって、男たちとはだいぶ距離が取れたが、隠れられるシールドは品切れだ。

 ここで狙われるとまずい。とはいえ、逃げるのも限界だった。俺もマルナも。


「このタイミングしかないな。いけるか?」


 振り返り、マルナに合図する。


「オッケー! ゲートを作っている間は他の力が使えないから援護してねっ」


 マルナを何もない場所へ手の平を突き出した。青い光の玉が現れ、次第に大きくなっていく。


「頼むぜ、神様」


 俺はマルナじゃない別の神に祈り、タンクローリーの方へ身体を向けた。

 

 残骸となったタンクローリーはいまだ炎上している。揺らめく炎の奥から数人の影が現れた。

 ガスマスクの姿を髑髏のようだと表現したが、奴らはまさに死神だ。


 俺は先んじてトラックを呼び出し、先制攻撃をしかけた。2台のトラックを奴らへ突撃させ、1台を横転させる。どのタイミングで消失するかはわからないが、即席の盾にはなるだろう。


 お返しとばかりに銃撃が始まる。横転させた廃品回収のトラックに無数の火花が咲く。サイドミラーが吹き飛び、フロントガラスが粉々になる。

 

 一発の弾丸が俺の顔の横をかすめた。トラックはもうもたない。タイヤのひとつが破裂し、銃声に負けない炸裂音を発した。


「ゲートはまだか!?」


 誘導棒を振りながら俺は叫ぶ。救急車が男のひとりと正面衝突した。きっとウルトラレアだ。


「超がんばってるよ! あんたもがんばって!」


 言葉どおり、マルナは必死に頑張っていた。


 ふざけた奴ではあるが、だからと言ってサブマシンガンで蜂の巣にされるというのは酷な話だ。



「頼むぜ、スーパーゴージャスゴッド最強神」


 だから、ついでにマルナにも祈ってやる。



「おぉよ!」


 平凡な信者の願いを聞いたマルナがニコッと笑った。


 俺も微笑み、腕を振るう。呼び出された霊柩車がドリフトしながら男たちの群れに突貫し、2人をまとめてなぎ倒した。きっとレジェンドレアだ。


 発砲し続ける男たちの後ろから、新たな人影が現れた。


「逃がさんぞ、マルナァアアアアア!!」


 両手にサブマシンガンを持ち、ぶちキレたベルベットだった。


 奴の服はボロボロでピンクの下着が見えているが、この状況だから何も嬉しくない。


「貴様らは――」


 頭のおかしなワンちゃんの口上を聞くつもりはなかったし、いい加減うんざりだ。こいつさえいなければ、マルナとの交渉次第で何とかなったかもしれないのに。


 俺は誘導棒で躾のなっていない犬をお仕置きする。

 ベルベットに突進したのは、「保健所」と書かれたトラックだった。レア度は知らないが、おまえにお似合いだ。


「できたぁ! 完成だよ!」


 ベルベットとトラックによるランデブーの「結果」を見る時間はなかった。


「でかしたぞ!」


 マルナが作り出したのは、異世界に繋がるという虹色に光るゲートではなく、黒い瘴気のようなもの吐き出し続ける気味の悪いものだった。


 ゲートがひと回り大きくなり、俺たちの身体が吸い込まれていく。


「だ、大丈夫なのか?」


「たぶんね」


 お願いだから怖いことを言うな。


「どこに繋がってるんだ?」


 ゲートに入る寸前、俺は聞いた。前にいたマルナは身体の半分がゲートに飲み込まれている。


「しらない。ごはんがおいしいところだとイイね」


 全身がほぼ暗闇に浸かったマルナがとんでもないことを言った。


「ふざけやがってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 俺はゲートに飲み込まれながら叫んだ。

 

 視界が暗闇一色になる寸前、俺が最後に見たのは、耳をペタンと倒し、「くぅーん、くぅーん」と鳴きながら震えているベルベットだった。


 マルナの言葉を借りよう。

 


 ざまをみちゃいな!

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