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第4話 異世界送りのトラックで戦え

一人称を書くのが初めてで、なかなか難しいのですが

楽しめていますでしょうか?

 拝むように合わされたマルナの手の間から、青い光が漏れる。


 マルナが手に平を離すと、マジックのように右手と左手の間から何かが引き出されていった。


「はい、どーぞ」


「え? なにこれ?」


 マルナに〝それ″を手渡された俺は困惑する。

 そいつが何かは知っていたが、俺は聞かずにはいられなかった。


 交通整理に使われるLED誘導棒だ。


 道路で振られる、赤く光るアレである。


「知らないの?」


「知ってるよ!? これでどうやって戦えば良いんだ!」


 殴りかかるのであれば勝算はない。


 サブマシンガン対LED誘導棒だったら、どちらが勝つのかを賭けると、後者の方がオッズが高いはずだ。


 100円賭けても、最低でも1億円ぐらいは貰えるだろう。


「ふっふっふっ、振りゃあわかるよ。すごい力があるから期待してねっ」


 唇の片方を持ち上げ、マルナがウインクした。

 

 それからマルナは、この妙な武器の使いかたを説明した。


 と言っても、力を行使したいときは、誘導棒の持ち手にあるボタンを押して光らせる必要があるというだけだったが。


 凄い力があると言うが、まったく期待できないのは俺だけだろうか。


 俺が誘導棒を手にしながら困っていると、マルナが俺の肩をポンと叩く。


 その瞬間、肩から全身にかけて電流のようなものが走った。


「あと、一時的になんか力授けといたから。あたしのためにがんばって! ファイファイ、オー!」


「おい、なんかって何だ!? 怖すぎるぞ!」


 何もかも適当すぎる。奴の適当さには怒りを超越し、もはや恐怖すら覚えた。


「……つーか、マジでそろそろ限界。どうするの?」

 

 色の悪い額を手の甲でぬぐい、マルナは深い息をついた。たしかに今にもぶっ倒れそうではある。


「この訳のわからない空間に、逃げる場所はあるのか?」


 俺は気を取り直して尋ねる。


 異世界に通じていた穴は、いつのまにか消えていてた。おそらくベルベットたちが何かしたのだろう。


「ちょっと時間がかかるかもしれないけど、脱出用のゲートを作れるかも。でも、まずはあいつらから離れないとね。すぐに潰されちゃうから」


 脱出する方法はあるようだ。


 これまでのマルナのいい加減さから考えると、スムーズに事が運ぶとは思えないが、それに頼る他ない。

 もたもたすれば、俺たちはここからではなく、この世から「脱出」することになる。


「ここからあそこまで、等間隔にシールドを張れるか?」


 ベルベットとは反対側の遠方を指さし、俺はマルナに尋ねた。


「うーん……これみたいにデカいのは無理かな。耐久力があんまり無くて、あたしたちの身体がギリギリ収まるくらいのサイズなら……まぁ、なんとか」


 なんとか、か。


 俺たちは危ういバランスの状態でここに立っている。武器もそうだが、ひとつでも問題があれば、バランスは「死」の方へ傾くだろう。


「よし、それじゃあシールドに隠れながら後退するぞ。遺憾ではあるが、俺たちは運命共同体だ。なんとか切り抜けよう」


 マルナがこくこくと頷き、「イエッサー!」とヘタクソな敬礼をした。


「俺のベルトを掴んでろ。離すなよ」


 マルナの小さな手がズボンのベルトを掴み、遠くの方へ長方形のシールドをドミノ倒しのように並べた。

 

「でかいの解除するよ」


「準備はいいか?」


 俺はあまり良くない。


「おぉよ」


 だが、親指を立てるマルナの答えは、しんどいだろうに力強かった。


 俺たちを守っていたドーム状のシールドが解除されるのと、俺が誘導棒を振ったのは同時だ。


 突然強烈な風が吹き荒れ、目の前から何か巨大な影が飛び出す。猛スピードで向かった先は、誘導棒を振った方向――ガスマスクの男たちだ。


 巨大な〝それ″は男たちの群れに激突し、奴らをボウリングのピンのように吹き飛ばす。


「ぎゃあああああああああ!?」

 

 その後ろにいたベルベットは絶叫をあげ、横へと身体を投げて〝それ″との接触を回避する。


 そして現れたのと同じく、〝それ″が影も形もなく消えたのも突然だった。


「いえー! ざまをみちゃいな!」


 マルナがガッツポーズをして喝采をあげた。


 喜ぶマルナを引っ張って走り出した俺は、喝采をあげるどころか、むしろ誘導棒から飛び出したものに恐怖していた。



〝それ″が何かは知っていたが、俺はまたも聞かずにはいられなかった。



 誘導棒から飛びしたのはトラックだった。


 普通の車よりでかく、コンテナを牽引するアレである。


「なんだありゃ!? なんか出たぞ!? なんだありゃ!?」


 俺は走りながら悲鳴でもあげるように尋ねた。心持ち走るのが速くなった気がする。マルナが授けた「なんかの力」のおかげかもしれない。


「知らないの?」


「知ってるよ!? なんで何もない場所からトラックが飛び出してくるんだって、聞きたかったんだよ!!」


「そりゃあ、選ばれし者を異世界に送る神の力だからね」


 納得すべきなのだろうか。


 マルナを無視して後ろを振り向くと、トラックに吹き飛ばされた男たちが、何事もなかったのようにムクリと起き上がる。

 タフな奴らだ。そもそも人間ではないのかもしれない。


 奴らがサブマシンガンを構えるのを確認すると、俺はマルナとともにシールドに飛び込んだ。

 

 一瞬遅れて銃声。俺たちの背中にある長方形のシールドが、無数の銃弾が受け止める。


 ずっと隠れてはいられない。男たちはすぐにでも回り込み、銃弾を浴びせてくるだろう。


 俺はシールドから手だけを出し、誘導棒を振るった。


 突風。現れたのはコンテナトラックではなかった。


 側面に「まちをきれいに」と書かれたゴミ収集車が男たちに特攻をしかける。爆走する巨大な質量に対し、男たちは大きく飛びずさったり、地面へダイビングした。


 さらに俺は誘導棒を振る。


 今度は、車体やコンテナをギラギラと光らせたデコトラが現れた。もはや絶滅危惧種になりつつあるトラックが何人かの男たちを轢いた。


 最初はどうかと思ったが、トラックは攻撃と防御を兼ね備えた有能な武器だった。

 

 銃弾を受け止めてくるし、相手がトラックを回避に専念するため、攻撃そのものを邪魔することができる。


 俺たちは隙を見てシールドから飛び出し、白い空間を突っ走る。


 走りつつ俺は牽制として誘導棒を振るった。


 黒猫が描かれた引っ越し業者のトラックが出現する。そのまま奴らをどこかへと「引っ越し」させてくれたら嬉しかった。


 この誘導棒は、まるでトラックの「ガチャ」だ。

 何がレアなのかは皆目見当もつかないが。


「っていうか、呼び出したトラックに乗れば良いじゃないか」


 俺はじつに素晴らしいアイデアを思い付いた。


「乗れないよ?」


「なんでだよ!?」


「トラックは人間を轢くものなんだからね」


「なんでだよ!?」


「そりゃあ、選ばれし者を異世界に送る神の力だからね」



 …………納得すべきなのだろうか。

次の話でプロローグが終わります。

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