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第1話 自分を神様だと勘違いしている美少女

異世界モノが好きなのですが、今まで異世界系の話は書いたことがありませんでした。

誤字や脱字はもちろん、おかしな表現がありましたらご指摘して頂けると幸いです。


どうぞよろしくお願いします。

「あぁ、そこにある穴が異世界に通じてるから、適当に選んで入って~」


 俺を〝殺した″少女は、こちらも見ずにそう言った。

 少女が示した場所には、虹色に輝くいくつもの穴が口を開けていた。


 少女の目に映っているのは、困惑した俺の顔ではなく、携帯ゲーム機の画面だ。


 多分だが、先週ぐらいに出たソフトだと思う。俺も持っている。


「あー、その……なんか、いろいろ説明とかしてくれないのか?」


 俺はゲームが好きだが、「オープンワールド」ってのはちょっと苦手だ。


 理由は、冒険についての説明が不足しているから。

 いきなり広大な世界に放り出されて、「君は自由だよ。何でもできるよ。メインクエストなんか放っておいても良いよ」と言われても困惑する。


「えぇ~、めんどくさい。勝手にしてよぉ。なんか適当に世界でも救ったら? スローライフを送るとか、ハーレムを作るとか、魔王になるとか、何でも良いから好きしてちょーだい」


 ……オープンワールドは苦手と言ったが、昨今の作品だって、必要最低限は説明してくれるはずだ。

 

 ×ボタンはジャンプ、□ボタンは攻撃とかな。



 俺は、今目の前にいる少女に対して□ボタンを連打したい。



「俺が行く世界はどんな世界で、俺にはどんな力があるんだ。それぐらい教えてくれ」


「知らない。っていうか、あんた何が得意なの?」


 こいつは何を言っているんだ? ここに鏡はないが、俺の眉はへの字になっているはずだ。


 何が得意かと聞かれたが、正直答えに困る質問だった。



 ここで自己紹介をしよう。俺は、伊介(いかい)総二郎(そうじろう)。ただの高校生だ。


 

 好きなものは、ラノベとゲーム、それとアクション映画。

 特技は……そうだな……特に思いつかない。


 1時間前――時間の感覚がわからないので、おそらく――に、校舎から家に帰っていたときに、暴走したトラックが俺に目掛けて突っ込み、身体は「おせんべい」になった。


 トラックが身体に接触する、その瞬間までは覚えている。


 ここでは控えておくが、ナンバーも覚えている。もし現代に戻れるチャンスがあるなら、売れっ子漫画家もびっくりの豪邸を建てるぐらい、金をふんだくるつもりだ。


 意識が暗転し、それから目覚めたとき、俺は今ここにいる真っ白な空間に倒れていた。


 すべてが真っ白なため、遠近感がなく、果てがないのか、それとも狭いのかわからない。太陽もライトもないのに、まぶしいと感じるのは異常だった。


 雪山に遭難するとこんな感じかもしれない。ずっと眺めていると混乱してくる。


 そんな白一色の世界に、冗談のようにポツリと置かれていたのが、人をダメにしそうなドーム型のソファだ。


 それを囲むように、テレビ、パソコン、冷蔵庫、電子レンジ、便器と……必要最低限の家具が、無造作に配置されている。

 

 その様子は、ストーンヘンジ、あるいは何かの儀式に見える。


 そしてソファに寝転んでいるのは、このやる気のない少女。


 名前は、「スーパーゴージャスゴッド最強神 マルナ・フェン・アトラス」らしい。


 ゴッドと神がかぶっているけど、いいの? 大丈夫? というのは置いといて、俺のなかで今こいつは「スーパーなんちゃら」ではなく、「俺史上、最高にふざけたやつ」だ。

 


 「俺史上、最高にふざけたやつ」の容姿は、それはそれはかわいい少女である。俺の十年そこらの人生のなかで、こんなにかわいい少女は見たことがない。


 精巧な西洋人形に生ける肉体を与え、「不気味の谷」をうまく取り除けば、彼女ができあがるだろう。


 だが、ウェーブのかかった金色の髪は、寝起きみたいにボサボサだ。加えて、貧相な身体を覆っている天使みたいなローブも、数日洗ってないみたいで臭そう……いや実際、すえた臭いがする。


 こいつが神と名乗ったとき、俺は精神異常者に出会ったのではなく、本物だと確信した。


 先にも言ったように、俺はラノベが好きだった。

 特に、いま流行していて、映像化もバンバンされているジャンル――「異世界モノ」を好んで読んでいた。


 だから俺は確信したのだ。俺こと伊介総二郎 は、「異世界に行く、選ばれし者」となったのだ、と。

伊介が異界に行くなんて、まるでそうなることが当然のようではないか。


「異世界に行く」というのは大きなチャンスであり、人生の「リセットポイント」である。


 俺は世の高校生と同じく、人生について悩んでいた。どう転んだって、明るい未来なんてない。普通の大学に行き、普通の会社に就職し、普通の家庭を築く……ということも怪しかった。


 今の時代、じつは「普通」こそ難しい生き方である。


 俺の能力を鑑みると、俺の未来は「普通」よりもっと下の下あたりだろう。

 身体が動かなくなるまでアルバイターとして働き、若い後輩に「ほんとマジ使えねぇな、あのオッサン」と陰口を叩かれ、最期は誰にも看取られることなく孤独死するのだ。


 おやおや、なんだか涙が出てきた。


 だから俺は、人生を悲観視し、何でも良いので転機が訪れるのを待っていた。


 というわけで、白い世界で「スーパーゴージャス、わけのわからないゴッド、ふざけた最強神」に出会ったときは、「やったぜ!」と、恥ずかしげもなく力強いガッツポーズをしたのだ。

 マルナは白けた顔をしたけれども。


 しかし、しばらくして「どうして、俺が選ばれたのだろう」という疑問が湧いた。


 ご存知かもしれないが、世の「異世界モノ」の主人公は、何かしら「特別なもの」を持っている。超能力しかり、知識しかり、武器しかり。


 「無能力」っていうものを押す作品もあるが、それだって「個性」である。


 だいたい、本当に「能力がない主人公」なんて存在しない。結局、別の奴から能力を吸収したりするなど、特殊能力に目覚めるのが普通なのだ。


 マジで何にもない奴が主人公だったら、誰も応援しないだろう? 俺もしない。


 小説投稿サイトだったら迷わずブラウザをバックさせるし、通販サイトだったら星1つを進呈して「お湯を入れたカップラーメンのフタを閉めておくときに重宝しますよ」とコメントする。


 自慢じゃないが、俺は「マジで何にもない奴」にカテゴライズされている凡人中の凡人だ。


 特別な趣味もなければ、他の者より頑張ったこともなく、履歴書に書けることは少ない。そう、ごくごく普通の男なのだ。


 とはいえ、自分の能力の無さを嘆く必要はない。


 なぜなら異世界に渡るにいたって、「スーパーゴージャスって何だよ、ゴッドって本当かよ、最強って何を指してるの? へんな子」が、何か俺に力を授けてくれると思っていた。なんたって神なんだから、そんなことを朝飯前のはずだ。


 それを踏まえて、もう一度先ほどのマルナの言葉を思い出してみよう。




「知らない。っていうか、あんた何が得意なの?」




 これである。ふざけてんのか?



「ふざけてんのか?」


 せっかくなので、心の中でつぶやいたことを俺はそのまま言語化してやった。


「っるさいなぁ。もぉ、なんなの? いま、あたし忙しいんだけど?」


 マルナは不愉快そうに口をへの字にし、ハエでも払うように手をしっしっと振った。


 そうだね、ゲームで忙しいよね。


 マルナは俺をないがしろにし、ラスボス前のボスと格闘しているが、ネタバレしてやりたい気持ちが湧いてきた。

 ラスボスの正体はヒロインの兄貴だ、ポンコツ野郎!


「忙しいところ悪いんだが、俺が行くのは異世界なんだろ? 魔法とか、モンスターとか出る。すげー力を授けてくれないと、うまくやっていける気がしないんだが」


 だが、俺はとても紳士なので、怒りをおくびにも出さず、静かに聞いた。


「はぁ? めんどくさいからイヤ。あたし、あんたがどこの世界に行くのかも知らないし。あっ、向こうの言葉も自分で覚えてくれる? あんたに異世界の言葉をわかるように知識を与えるのも、世界にあんたの言ってることを認識させるのも、すんごく力使うんだよねぇ」


 本当にこいつは何を言っているのだろうか。


 それじゃあ俺は、このままだと言葉のわからない世界に放り出されるというわけだ。


 アメリカとかなら何とかなるかもしれない。だが俺が行くのは、言葉だけでなく、生態や文化、常識すら異なる世界。


 今の状態で俺が異世界に行ったらどうなるだろうか。

 それは、がんの進行具合(ステージ)と同じく、重篤な症状と結果を引き起こすだろう。


 ステージ1。寝る場所を提供してくれませんか、と身振り手振りでお願いする俺。

 

 ステージ2。意味不明なことを喋るモンスターが現れたぞ、と異世界人。

 

 ステージ3。剣でグサリ。

 

 ステージ4。ギャー! 俺は死んだ。


 言葉を覚える前に、まず間違いなく死ぬだろう。


 俺が、俺に、保証してやる。必要なら、診断証明書も付けよう。


「あんたの使ってる言葉って、日本語だよね? 他に何か喋れんの? まぁ喋れようが、使えやしないと思うけど、言葉を覚えるの得意だったら多分イケるよね?」


「スペイン語なら、一言二言知ってる。さようなら(アスタラビスタ)、ベイビー、とか」


 ゲーム画面から目を離さず、マルナが「何それ?」って顔をした。残念ながら全知全能の神は、地球が滅びた後にも残すべき名作アクション映画を知らないらしい。


 ちなみに、俺は「地獄で会おうぜ」という意味で使った。


 もちろん先に地獄に行くのは奴の方だ。


「ひとつ聞いていいか? なんで俺が選ばれたんだ?」


 質問しながら、俺はとてつもない嫌な予感がした。

 ろくでもない答えが返ってくる気がする。


「え? いや、別に選んだわけじゃないけど? 今月の『異世界送り』のノルマがやばかったから、適当に選んだだけだよ」


 予感は的中。悪い予感ほどよく当たる。


 ノルマ……ノルマ……ノルマ!

 

 そう、つまり俺は「基準量に達していなかった」から殺されただけなのだ。


 警察に「あぁ、今月は逮捕者の数がノルマに達してないから、無罪だけど君を逮捕するよ」って言われて、納得する奴がいるだろうか。


 あぁ、仏の心を持つ者ならするだろう。


 俺は違う。

 理にかなったことをしなければ、仏もぶん殴る男だ。


 よろしくな。

次回は、犬耳の少女が登場します。

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