1-4 Kの葛藤
「今日も太陽仮面は絶好調です!」
アナウンサーの絶叫を頃合いに、俺はスマホのワンセグ画面を消しため息をついた。
俺はある日を境に正義の味方になった。
無理やりやらされているわけではない。
俺自身が望んでそうなったのだ。
きっかけは小学生の時だ。
クラスメイトがいじめられていたのだが、俺にはそれをどうすることもできなかった。
そのクラスメイトは自殺をはかり、保護者は全員学校に招集され、帰宅した父に俺は思いきり殴られた。
「いじめってのはな、見ていて何もしなかった奴も加害者なんだよ!」
頬は熱くじんじんと痛み、怒りに燃えたぎる父の形相は鬼神のようだった。
父から暴力をうけたのはこれ一回きりだ。
殴られた箇所はあざとなり、一週間近くしつこく痛み続けた。
だが、俺がこの事件で感じたことは、痛み以上の恐怖だった。
見ているしかなかった俺は加害者だ、そう父は言った。
いつでも父は正しい。
だからこの時父が発した言葉も正しい。
つまり、俺は加害者で、人を殺めかけた罪人なのだ。
その事実を突き付けられた瞬間、俺の体は恐怖にぶるぶると震えた。
(俺は罪を犯してしまったんだ。取り返しのつかない罪を……!)
鬼のような父に見下ろされながら、震えながら、俺はその真実、その裁きを受け入れようと即座に決めたのだった。
それから、俺は考えた。
見ていることしかできなかった自分。
ではなぜ見ていることしかできなかったのか。
それは弱いからだ。
やり返されるのが怖いからだ。
だが今からどこかの道場やジムに行って鍛えたところで、すぐ先にある別のいじめに対処できるわけがない。
そう、このままでは俺はまた罪を重ねてしまうではないか。
だから俺は神様にお願いした。
俺にこれ以上罪を重ねさせないでください、と。
俺に誰かを護れるだけの力をください、と。
リビングにあった神棚の水を毎日交換した。
居並ぶ位牌の前に毎日線香をたてた。
登校時には通学路沿いの神社でお参りし、下校時には遠回りをして寺と教会にも行った。
母親のクロスのペンダントを拝借し就寝前にベッドで祈りを捧げた。
願いをかなえてくれそうな存在すべてに己を懸けた。
そうして、俺は力を手に入れた。
そして今では二つの顔を使い分けている。
昼間は設計書片手にパソコンに向かう会社員。
夜は悪を撲滅する正義の味方、太陽仮面。
*
だがこうして、気づけば俺は公園にいる。
もう一週間になる。
仮病をつかって仕事をさぼり、正義の味方もやっていない。
毎日毎日、休むことなく働いてきた。
そして俺は数えきれないくらいの人を救い、悪を倒してきた。
だがもう、俺自身が限界だった。
『疲れた』
『疲れた』
『疲れたんだ……』
『俺はいつまで戦わなくてはいけないんだ?』
『俺のことは、いったい誰が助けてくれるんだ……?』