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1-2 Iと犬、梅
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にゃーと鳴いたポチの頭をごしごしと撫でる。
「そんなふうににゃーにゃー鳴くようじゃ、散歩に連れていけないぞ」
人間に対するように、諭すように語る。
だがポチには理解できないようだ。
碁石のように黒々とした真円の瞳は、透き通っているが理知的ではない。
当たり前か。
ポチは犬なのだから。
「なあ、ポチ。お前は今、幸せか?」
ポチは無垢な瞳をこちらに向け、しばらくしてまたにゃーと鳴いた。
庭の紅梅は満開だ。
この一年、ずっと満開のままだ。
散っても散っても咲き続ける紅梅。
際限なく咲き続ける紅梅。
こういうのを狂い咲きと呼ぶのだろう。
この木は間違いなく狂っている。
だが、もう慣れた。
そんな私も正常ではないのだろう。
天に伸びる枝のすべてに、ぽつぽつと、ふっくらとした蕾が再誕している。
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