6.変態ピエロ
なんとなく、引き寄せるまま彼女の後ろについてきてしまった。「こっちよ」と、まるで迷路のような商店街の裏道をくるくると回るように駆け抜けていく。
狭い路地裏。薄暗くて、地べたは汚かった。表の商店街は綺麗だけど、裏はこんなものなんだろう。ゴミやタバコの吸い殻を何度か踏んでしまった。
彼女はスピードを落とし、くるりとこちらを振り向く。
「ここまでこれば誰にも見られないわ」
個人飲食店の真裏に出たようだ。色んな食材の匂いが混ざって何とも言えない異臭を放っている。いや、そんな事より…
「俺、自分に何が起きてんのか…」
新太は胸のピンクのリボンをつまんで持ち上げる。ふわふわの素材。男性物の服には使われない素材だった。
「よくわからないけど、あなたが変態なのはわかったわ」
「違う!!!!」
説得力に欠ける。
「ピンクがそこまで好きな女の子もそうそういないわよ」
「だから!違う!!!」
説得力に大いに欠ける。
「あなた、髪も瞳もピンクよ。それに、その顔の入れ墨は何?」
「顔?顔も何かあんのか?」
新太はキョロキョロと辺りを見回して、割れたガラスの破片を見つけた。手に取り顔を確認する。
舞踏会でつけるような仮面。あの仮面のような入れ墨が施されていた。
「でも、よかったわね。その顔のおかげで、あなたが誰だか多分みんなわからないわよ」
「全然よくねぇ。だいたい何なんだよ!あんたも見ただろ?あの気色悪いバケモン!」
「気色悪い男子高校生しか見てないわ」
新太は頭を抱える。
「やっぱり…アレは俺にしか見えてなかったのか…?」
「顔色の悪い怪しい男なら、わたし見たけれど。帽子を被っていたわ。」
新太は目頭を押さえて考える。
キャップを被った男。あいつの頭上に、あのバケモンがいた。ゲームや漫画でよくあるのは、憑依されているという展開だろう。だとしたら、あいつが今回の火事の原因。放火か何かだったんだろう。
新太が必死で考えていると
「考える変態…」とボソリと突き刺してきた。胸とプライドが引き裂かれる。
「変態じゃねえ!俺は違う!なんでこれを着てんのかはわかんねぇ!…くそ!こんなの今脱いで…」
「脱いでさらに変態を極めても構わないけれど、もう一回ピアスをぎゅっと潰してみたら?」
左手で、さっきまで燃えるように熱かったピアスに触れる。もうひんやりとしていた。ぎゅっとつまむと、さっき自分が着ていた服にスルスルと戻っていく。
今日は科学を超越したものを見すぎて、もうあまり驚かない。夢だと思いたい。
「そういえばあなたの自転車、さっきいた辺りの付近に立てかけてあるから。わたしはこれで。」
何もなかったかのように帰る日本人形。新太は全力で止める。
「…お前!帰る気かよ!」
「帰っちゃっだめなの?大胆ね」
「…違う!だから…なんで色々知ってんだよ!あれか?このピアス開発した娘です〜とか、あのバケモンの血を引いてるのよ私とかそういうパターンか?!おい!」
「…………あなた、想像力豊かね」
日本人形は制服のポケットに手を突っ込んでなにやら手帳みたいなものを取り出した。ただのうちの高校の生徒手帳だった。
「まず、人の名前から覚えたら?」
ずいっと目の前に出される生徒手帳。そこには 西宮 翠 と書かれていた。
「じゃあ、テスト勉強しなきゃいけないからこれで。また明日学校で会いましょう。変態ピエロさん」
「だから帰るのかよ!……いや、いい。俺も疲れた」
また明日学校で聞こう。とりあえず家に帰って頭を冷やそう。そう思って彼女、西宮を止めるのをやめた。
「ではさようなら。」
「…俺は変態ピエロじゃない。柳瀬新太だ。」
「そう。」
彼女は学生カバンをしっかり持ち直して、今まで走ってきた方向とは違う方へ歩いて行った。
今日起きたことはよくわからない。科学の世界では証明しきれないことばかりだし、1日にたくさんのことがありすぎた。
あの場所にいた市民の目には、俺は一人で叫んでいる変態に見えただろう。思い出すだけで切腹したくなった。
新太は元きた道を歩いて自転車を取りに行く。こっから45分か…遠いなとぼやつきながら、自分の部屋のベッド目指して帰るのだった。
いつもタイトルは適当なんです。
真面目に考えなければ…
今はその回にでた言葉をタイトルに使っています。