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4.変身

 


『うぁ!!』


 新太の叫び声は辺り一面に響き渡り、自分の身体が輝きを放っていることを知る。


 みるみるうちに制服がピリピリと破れ、燃えるように溶けていく。

 履いていたローファーシューズは純白のニーハイブーツに。

 ベルトをしていたズボンは、ヒダが360度美しく広がった膝上スカートに。


『くそ!なんなんだ!やめろ!どうなって…』


 だらしなく羽織ったいたブレザーもインナーの白いシャツも溶けるようになくなり、胸元には自分の顔ほどの大きなピンクのリボンが巻かれていた。

 持っていたカバンはオモチャのようなステッキに変わり、髪の毛も爪も瞳もピンク色に変化した。

 新太はまだ、顔半面にピンクベースの刺青が入っていることは知らない。


 周囲の人々は皆、眩しすぎる光に目を閉じていたが、徐々に視線が新太の方に向けられる。


「どうなってるんだ…」

「あの子…」

「ものすごい光だったぞ!」

「隕石か何かか?」


 見るな、見るな見るな見るな!

 羞恥心で正気を取り戻してきた新太の目の前には、やっぱり得体の知れぬ生き物がねっとりとした視線で睨みつけていた。


「ヤハリ…リボンノ戦士ダッタカ…」


「知らない、俺は知らない!」


「オマエ、邪魔」


 モンスターはものすごい勢いでこちらにズイッと乗り出してきた。と同時に、人混みの中からキャップを被った顔色の悪い男も勢いつけて走ってくる。


「くる、くる…!」


 力一杯ステッキを投げつける。これしか咄嗟に思いつかなかった。スピードに乗ったステッキは、輝きながら一本の矢へと変わる。

 的の大きいモンスターには簡単に刺さったが、刺さった付近がジュウウゥゥと焼け焦げる音だけして矢は消えてしまった。


『使えねぇなあオイ!』


 いや違う。一番使えないのは…オレ自身だ。


 敵はニタニタと笑い、緑色をした歯を見せてこちらに猛突進してくる。岩くらい大きな拳。とても避けられそうにもない。


 新太は走馬灯を見る。

 春のせいだ。だから春は嫌いなんだ。いつも悪いことが起きるのは春だから。そんな時ふと顔が浮かぶのは、産みの親でも父親でもクラスの仲間でもなく、近所のあの女だった。

 ふつふつと怒りがこみ上げる。


 …ざけんじゃねぇ。


 新太はキュートな全身からは思いもよらぬほどのオーラを出して、拳を突き出す。


「変態のままで死ねるかよぉおおおおおおお」


 敵の拳と己の拳がぶつかる。一瞬すぎて敵の肌の感触はわからなかったが、自分の腕が折れる感触もなかった。

 周りの建物に衝撃波が飛び、窓ガラスがカタカタと揺れる。


「うおおおおおおおああああああああ!」


「ギィイイイイイイイイイイ」


 拳は互角だった。自分のどこに衝撃波が生まれるほどの力があるのか。

 互角の割に、モンスターは苦しそうな顔をしている。そして体内が徐々に光り始めた。


「キサマ…アノトキノ…ギィイイイイイイイイイイエアエエエエアエアエエエ」


 大きな叫び声に地が唸る。

 新太の目の前にあったものは、生き物ではなくグチャグチャに弾け飛んでしまった 何か だった。

 何かの中に、さっきのステッキが光落ちている。まさかこのステッキが…?とよぎるものの、周りの視線にやっと感づいた。


 地響きに衝撃波、女装した男の子(しかも痛い)。市民は目を丸くして新太を凝視していた。


 俺は…俺はただの変態じゃねぇか…!


 バタッと人が倒れる。さっきモンスターと一緒に飛び出したキャップを被った男性だった。死んだのか、眠ってるのかはわからない。

 今はこの末代まで伝えられる羞恥をどうすべきかと頭がいっぱいだった。


「こっちにきて。はやく。」


 聞き覚えのある声。固い筋肉で声がした方向に首を動かす。


「何突っ立ってんの。はやく。」


 商店街の隙間の小道に、あの女がいた。日本人形。


 動かなかった足が動く。彼女に吸い寄せられるように、新太は薄暗い小道へと姿を消した。


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