12.出会い
遅くなりました。
高校生を選んでしまったのはマズかったかもしれない。
でも彼はいい目をしていた。
どんな人物にこれを渡そうか。
解ってはもらえないし、気持ち悪がられるだろう。この私と同じ運命をたどる半分呪いのようなピアスを誰に渡すか。缶ビール片手に、私は考え続けた。
私の目が届く人物にしよう。
なるべくここから近いところの住人にしよう。
決して大きくない部屋に一人きり。
妻と娘は2年ちょっと前に出て行ったきりで、私もつい最近ここに戻ってきた。
わずかな退職金で日本中をめぐり、2年かけて手に入れたのはこの小さな可愛らしいアクセサリーひとつ。
部屋にすきま風が入ってくる。
あんまり丁寧に掃除をしていないので、埃がころころと転がった。まだ3月。夜は寒い。
何かツマミでも買いに行こう
上着を羽織り、歩いて300メートルほどのコンビニに向かう。ズボンのポケットの中で小銭がチャリチャリと音を立てた。
家の鍵をしめて、薄汚れたスニーカーで歩く。歩き始めてすぐに通行人とすれ違った。若い男の子だった。
もうこんなに遅い時間なのに…
おじさんらしい考えかもしれない。若い子がこんな夜中に危ないな、と少し心配してしまった。
人には認められない仕事。自己満足でやっているこの仕事も悪くないなと最近は考えている。給料はないから、仕事ではなく使命か。
他の人間からしたら私はただの変態親父だろう。何と戦ってるかも一般市民は一生わからないし、次元の違う話だ。
ヒーローなんてやってらんないな、と星が落ちてきそうな空を見上げた。
吐く息が白い。頬に冷たい風が当たる。思わず足を止めて星に見入っていた。
「おじさん」
後ろから声がする。
「そこ、気をつけたほうが良いかと」
「うあ!!!」
大きな水たまりのど真ん中にいた。私は気付かずに夜空を見ていたのか…どうりでかなりしみ込んでいるわけだ。
「かなり濡れてしまった…いや、ありがとう。」
「いえ、これで」
少年は頭を軽く下げて、コンビニとは反対方向に歩いて行く。
「ちょ!ちょっと待ってくれ!」
「…?」
少年は振り返る。
美しい顔をしていた。
「こんなマヌケな私だが、怪しい人間じゃあないんだ!その…このアクセサリーに会う人を探しているんだ」
私は手のひらにピンク色のピアスを乗せて少年に見せた。
「き、君なら…優しい君なら…ふさわしいと思って…」
「…これ、綺麗ですね」
少年は私の手の上からピアスを取り、月の光にかざした。
細く白い指だった。
「信じてもらえないかもしれないが…これには特別な力があって……!」
こんな時に。どこかに奴が現れた。私は行くしかない。それが私の使命。
この少年も巻き込むか?お手本を見せるべきか?引かれてしまうだろうか。少年を見つめる。
「…どうしたの。おじさん。」
「ダメだ…敵が現れたんだ。あんまり近くはないけど…私は行かなきゃいけない」
「敵…?」
「君を連れて行くべきか迷ってるんだ」
「…いいよ。暇だし、ついて行くよ。」
「え?」
少年はアッサリとついてきてくれた。簡単に敵やピアスのことを説明した。信じてくれているのかはわからないが、ふぅんと相槌を打ってくれていた。
「もうすぐそこに敵がいる。気色悪いのは承知だが、私は変身しないといけない。」
「別に、スカートになるだけでしょ?それに、変身しないとチカラ出ないんでしょ?」
「…ああ。」
物分かりのいい少年だった。
「いいよ。ここで見てるから。」
私は変身した。
少年は最初は驚いていたが、理解したらしい。頭のいい子だった。
彼になら任せられる。
一緒にこの地を守っていける。
敵をアッサリと倒し、変身を解いた。敵に取り憑かれていた人間はグッタリと息を引き取っていた。
「死んでるの?その人」
「何十回と敵を倒してきたが、人間側は必ず死んでいた。正気と邪悪な心でやつらは動いてるんだと思う。」
「それって警察に疑われないの?」
「医療のことはよくわからないが、衰弱死にはいるらしいんだ。変死扱いではなく、ずっと何日も食べてなくて自殺傾向があった、として衰弱死と認識されるらしい。変死だったら私は今頃勘違いされて檻の中さ。」
「だろうね」
「……改めて君に聞こう。私と一緒に戦ってくれるか?」
「いいよ」
なんともアッサリとした答えだった。
「…なに?不満?」
「いや、こんな即答で返ってくるとは思わなくて…」
「毎日暇なんだ。生きてる気がしなくって。だからこうして毎日夜中に家を抜け出して散歩してる。今は春休みだしね。」
少年はさっき私が渡したピアスを手のひらに出した。
「ただ、耳、空いてないんだ。私。」
「え?」
「ピアスの穴空いてないけど、つけられるかな。」
「ちょっと…待ってくれ…」
「君は…女の子…かい?」
「そうよ。」
色白で、フードを深くかぶった少年。指が細くて、軟弱な子かと思ったが、彼は女の子だった。
「女が夜遅くに歩いていたら何されるかわかんないじゃない。だからこうやって性別隠して夜は歩いてるの」
フードをパサっととると、黒くて長い髪の毛がふわりと出てきた。美しい女の子だった。
「女の子じゃ…なれないんだ…」
「そうなの?」
「なぜかは私もわからないんだが、女の子はこれをはめることすら出来ないんだ。そのようにできているらしい。…すまない…ずっと少年だと思っていた…」
「そっか。なんか残念」
「でもこれもいいご縁だ。」
「そうね」
もし、君の周りでオススメの子がいたら紹介してほしいーーーー
ええ。分かったわーー
学校が始まったら、探してみるーーーー