11.ベル
「ほら!早く!学校に行く予定だったんだろう?」
オッさんと登校する日が来るとは、思ってなかった。
オッさんは化け物の気配を感じ「今すぐ私は変身する!」と耳元に手を近づけようとしたところを、俺は全力で止めた。
禿げ散らかったオッさんが全身黄色のコスチュームに身を包み、リボンを片手にミニスカートを履き、ブーツからすね毛が飛び出していると想像すると首をつりたくなる。
さらにそのオッさんと登校する俺はもうこの世の終焉間近だ。恐らく、親にすぐに連絡が行き、警察もくるだろう。それは御免だった。
「俺は何もしないからな!あんた一人で俺から離れて勝手にやっててくれ!」
そういう条件で、現在オッさんと並んで登校している。
俺は自転車。オッさんは体力に自信があるのか、走って向かっている。
「なんで会社辞めたのにそんな服着てるんですか」
「ん?ああ。これか。癖でね。いや、もう会社しか行ってなかった人生だから、服がこれしかないんだ。」
ふぅん。見た目は本当に普通のサラリーマンだ。それにしても、全く息が切れてない。
「…近いな。君もわかるだろう?」
「俺にはわからないっす。」
本当は耳がじりじりと熱かった。
ピアスが熱を発しているのか、あの時のような感覚がずっとある。
もうあと数百メートル先が学校というところで、俺たちは別れた。
最後まで引き止められたが、オッさんはオッさんの仕事を。学生は学生の仕事を。と言い逃げした。
自転車置き場にはたくさんの生徒がいた。同級生が何人か俺を見つけて手を振る。軽く右手をあげて挨拶を返す。
そして見たくないものまで見えた。俺は気付いていないフリをした。
とある生徒の上に、アレがいた。紫色の。あの化け物が。
『知らない奴だな…同学年じゃない。1年か、2年か…』
俺はそいつを避けて校舎に入る。
目を合わせてはいけない。そして、ピアスも見つかってはならないと思い、なんとなく手で隠した。
「おっはよう新太!」
「お、おう…」
「なんだよ!元気ねーな!」
そんな気分じゃねえっつーの。
「寝不足でさー!頭回ってないんだわ!って、いつもか!」
ゲラゲラとクラスメイト達が通り過ぎる。
後ろを振り返ると、二年生の下駄箱にあいつ等はいた。
どんよりした顔。生気のない顔。取り憑かれたあの人間は、生きているのか。死んでいるのか。
そして生き生きとした化け物。破裂しそうな太い血管が全身にはりついている。
何を思い詰めて取り憑かれたのかはわからないし興味はないが俺の高校生活を邪魔するのは、許さない。
ジリリリリリリリリリリーー
「火災報知器が給食室で反応しました。
確認が終わるまでただちに外へ避難してください。
繰り返しますーー…」
「え!何?火事?」
「誤作動とかじゃないの?」
「おいおい嘘だろ?」
「今日テストなくなるのかな??」
「みんな!先生が確認するまでグラウンドにいろ!」
「……あんのクソジジイが…!」