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1.輝くピアス

 


 鳴り止まないクラクション、悲鳴、泣き声。

 街のコンディションは最悪だ。


 ふとガラス窓に映る自分と目が合う。


 ------そこにいたのは変態だった。





 春はきらいだ。

 花粉が虫のように飛びまわり、新しい行事が立て続けに入り続け、お金もたくさん飛んでいくし、ちょっと街に出たら人がゴミのようにいて憂鬱になる。


 新太は朝ごはんをダラダラと咀嚼しながら、テレビを見る。寝起きで頭に情報が入ってこないが、今日もいつも通り何かしらの事件がどこかしらで起きている、ということはわかった。テレビから視線を外して時計を見ると七時五十五分。「やっべ!」急いで制服に着替えて必需品のマスクを装着し、重い玄関を開ける。


 自転車にまたがり、こぎ始めようとしたところで斜め向かい側の家の扉が開いた。


「おっ!新太おはよー!」


 赤茶色のセミロング。ゆらゆら揺れるピアスに、短いスカート…説明はいらないだろう。

 ただのビッチだ。


「おはよう。英玲奈」


 挨拶だけすましてさっさと逃げようと思ったものの「待ってよぉー」と後ろから髪とスカートをなびかせながら徐々に距離は縮まり、いつの間にか隣で並んで自転車をこいでいた。


「新太の学校は今日テスト?」

「今日から三日間な」

「あたしの学校二日なのに長いねぇ」


 二年間通った高校に向かう。昨日は始業式だった。今日から春休みの課題テストが三日間もある。憂鬱でしかない。


「あ、わたしそこの角曲がるから〜!またね新太〜!」

「おう」


 英玲奈は小学生から中学卒業まで同じだったが、高校は離れた。自転車で20分ほど離れた高校に通っているが、ビッチの噂は俺の高校まで届いている。なるべく一緒にいるところを見られたくないのが本音だ。


 一人になったところで、自転車を停止してスマートフォンを起動する。少しでも気分の上がる曲を聞きながら学校に行こうと思った。カバンからヘッドホンを出し、新太は手を止めた。

 呻き声が聞こえる。


「う…ううう…」

 住宅街のわずかな隙間に人が倒れていた。


「あの、大丈夫…です…か…?」


 見たところ五十代のただのオッさんだ。出勤前なのか、スーツを着ている。サラリーマンのお父さんの印象だ。

 しかし不思議なのは、顔やわずかに見える肌が傷だらけなことと、明らかに禿げている髪に無愛想なピアスを左耳につけていることだった。


「なんかあったんですか?」

「す、すまん…き、君に頼みがある…」

 オッさんはポケットから何かを出した。


「…これは私の財布だ。頼む、そこの自販機で水を買ってきてくれないか…」

「は、はぁ…」


 新太は財布を受け取り、40メートルほど離れた自販機で120円の水を買い、オッさんの元へ戻った。ちなみに財布にはたいした金もクレジットカードも入ってなかった。


「これ、どうぞ」

「すまないね…」


 スマートフォンの画面を出して時間をチェックする。ヤバい。そろそろ学校に行かないと…


「あの、警察とか救急車とか呼びましょうか?」

「ゴキュ…ゴキュ…あ、いや。いいんだ。呼ばなくてもいい。もう一つだけ、君に頼みがある。」


 またおじさんがポケットに手を突っ込むと、今度はキラリと光るものが出てきた。


「これを君にあげる。どうか身につけてほしい。頼む」


 オッさんと色違いのピアスだった。


「いや…あの…受け取れないですよ…」


 なぜ、禿げ散らかしたオッさんとお揃いのピアスをつけねばいけないのか。


「頼む。今ここでしてほしい。学校に行かなきゃならんのだろう?急いで。早く。」


 新太はピンク色に輝く石のついたピアスを受け取る。必死に訴えるような目。オッさんに言われたのはかなり癪だが、早く学校に行かないとマジで遅刻だ。

 思い切って左耳にピアスをつけて、じゃあ俺学校に行きますんで、と自転車にまたがり颯爽と逃げた。


 少年が去っていくのを見守った後

「……明日もまた、ここで待つかな」


 黄色の石のついたピアスをつけたオッさんは、むくりと起き上がって新太とは反対方向に歩いていった。





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