見失った女の子。
昔々あるところに、ある女の子がいました。
女の子は、意地っ張りで、頑固で、人との接し方がわかりませんでした。
なので、皆に嫌われていました。
「アニメのなかの女の子は、みんなに好かれている。なら・・・アニメの女の子みたいになればいいんだ!」
そうして、女の子は、自分にいろいろと設定をつけ始めました。
「私は、嘘をつくとき首筋を触る癖がある。眠くなると赤ちゃんみたいになる。ロングスカートがすき。お風呂は苦手。水は苦手・・・―――――」
そうして、自分に設定をつけた女の子は、その設定に合うように振舞っていったのです。
だんだんと、友達が増えていきました。
女の子をからかってばっかりいた、男の子たちも女の子に優しくしてくれるようになりました。
先生も、話しかけてくれるようになりました。
お母さんも、お父さんも、優しくなって、会話が弾みました。
今まで冷たかったような気がしていたお店の店員さんも、明るく話しかけてくれました。
「みんな、みんな優しくなった。もっと素敵な、アニメの中のあの子みたいになれば、もっと優しくしてくれるかな?」
そう考えて、女の子はさらに色んな設定を加えていき、最後には・・・
そのアニメの女の子を、〈演じる〉ようにまでなりました。
そうやって演じていた女の子は、『すでに本当の自分』を見失っていたのです。
「ねぇ、――ちゃんはどう思う?」
「え?私は・・・」
――だと思う。
――――だと思う。
―――だと思う。
今まで演じてきた、たくさんの女の子たちが、口々に頭の中で意見を言います。
―――だよ。
―――――だって!!
――――でしょ?
――じゃないのー?
「私の気持ちって、どこにあるの・・・?どれが、本当の私なの・・・!?」
女の子は今でも、自分を探し続けています。
実はこの話は、私の実話です。
厨二病をこじらせ、自分の設定をつくって、愛されたかった。
そのせいで、「貴方は何色だと思う?」という質問に、今でも答えられません。
私が演じてきたキャラクターたちが、「白」「黒」「ピンク」「赤」と、たくさんの答えを言ってくるからです。
私は今でも、『たった一つの自分の意見』というものを持ちません。