交叉
アイザックは奇妙な2人組を助けたのはいいが正直後悔していた
やっとのことで桜花帝国から脱出し心身共に衰弱しており可能な限り戦闘は避けたかった
しかし食料調達のためにもこの村を訪れるしかなかった
とはいえ探すにしてもここ3年で家畜は殆ど死に絶え農作物もこの混沌とした時代の中で呑気に耕すことすらままならない
ならば....
「俺はアイザック、“元”勇者だ」
そう名乗りアイザックはエーデルヴァイスを変形させ銃弾を放ち感染者を撃ち抜く
奇妙な2人組はアイザックをまるで化け物でも見るような目で怯えていた
気のせいだろうか?どうも浮世離れしている。年齢は10代半ば、ならばとっくにこの世界の常識が見についているはずだった。それに格好からして旅人であることは間違いない
今考えることは命取りになる。アイザック無理矢理疑問を払拭する
「あなた、何やっているんですか....!?」
少女は目を見開き怯えるように聞く
「見てわかるだろ?感染者を狩ってるんだ」
アイザックは当たり前のことのように言う。実際当たり前なのだが
「でも相手は一般市民です!“元”勇者はそのための存在じゃないんですか!?」
少女が怒りを露わにすると少年が制した
「ダメだカノン、この世界ではきっとそれが当たり前のことなんだ」
少年は吐き気を抑えながら声を震わせる
「協力に感謝する。んでアンタは何者だ」
「俺はタクト、タクト・カドミヤです。こいつはカノン」
「よしタクト、さっきも言ったとおり手伝え。それも死にたくなければな」
「やります!」
タクトは双剣を構える
「殺したことは?」
アイザックは念のために聞く
「ありません」
二人の反応からそれは予想できた
「殺し方は簡単だ。動けなくする、首をはねる、背骨だ」
アイザックは感染者の一人に飛びかかるとエーデルヴァイスを素早く剣にし一刀両断する
「やれ!」
アイザックはタクトたちに命令する
「うわああああ!!」
タクトは双剣を振るが相手は元人間であるためか力が入っていない
「躊躇うな、死ぬぞ!」
アイザックはグレートソードを召喚しカノンの背後の感染者に向けて投げつける
「アイザック様!いたいた!」
群れの背後からロアンが長刀を振り回し蹴散らす
「ったく、なに油売ってるんだ」
天山が一振りで華麗に絶命させる
「ロアン、天山!今生存者を守ってるところだ手伝ってくれ!」
アイザックはそう言って感染者を貫く。貫かれた感染者はまだ動いているアイザックはそのまま引き金を引き感染者の体内で暴発させる
「うらぁ!!」
タクトはやっとコツを掴んだのか一人ずつ倒してゆく。その額には脂汗が滲み出ている
だがカノンは頑として戦わなかった
「片付いたな」
アイザックはため息をつくとエーデルヴァイスを納めた
タクトは自分の手を呆然と眺めていた
「俺、殺しちゃった。人を殺しちゃった....」
「もう大丈夫だよタクト....」
カノンがタクトを励ます
アイザックはそれを気にすることなく感染者の手足を切り落とす
「なに....やってんですか....?」
タクトがアイザックに尋ねる
「何って食料だよ」
アイザックは当たり前のように言う
「人を食べる....だと...!?」
タクトは後ずさり急に口を抑え空き家へ駆け込む
狂人病が蔓延してから人肉を食べることなど割と普通のことだった
確かにこの世界でも人を食らうは禁忌とされていた。だがそれすら誰も言わなくなったということはそれほど誰もが死の危機に瀕しているということだろう
カノンはタクトを追いかけるようにしていった
「なんなんだあいつら?」
天山が不思議そうに見る
「さぁ?温室育ちのおぼっちゃまたちだから感染者を見るのが始めてなんじゃないの?」
ロアンが皮肉っぽく言う
「ロアン、貴族に恨みでもあるのか?」
アイザックが呆れ気味に言う
「別にー」
ロアンは口笛をわざとらしく吹く
「ただいま戻りました」
タクトは顔色を悪くして戻ってきた
「あの、アイザックさん。この世界は一体...」
こいつは何を言っているんだとアイザックは思った。服装といい言動といい一々引っかかるところがあった
「この世界?どういうことだ」
カノンが前に出る
「それは私が説明します」
カノンは自分たちのいる世界について語った。魔法のこと、政治、技術、いろいろなことを
「羨ましいな、俺たちからすれば天国のような世界だな」
アイザックは腕を組んで感想を伝えた
同時に妬ましくも思えた
「それでも戦争はあるんですよ」
カノンは言う
「ああ、戦争があってもやっぱりアンタらの世界は幸せだよ」
アイザックは先ほど手に入れた肉を捌き調理する
「例え戦争があってもここのようについさっきまで隣にいた家族や友人、恋人が突然襲いかかってくることなんてないだろ」
悲惨な光景を見てきた人々の意見にタクトとカノンは重みを感じた
「この世界はな、人が同じ人を魔族を食っていかなきゃならないほど絶望に満ちているんだよ。アンタらにとっては異常で許されないことかもしれない、だがここではそうしなければ」
アイザックの中の僅かな善意が一瞬の間を空ける
「死ぬだけだ。死んでヤツらのようになるんだ。いや、生きていても発症すれば同じだ。生きるも死ぬもここでは地獄なんだよ」
アイザックはこんがりとした肉をカノンに差し出す
「食え」
「でもやっぱり」
「この世界のルールだ。受け入れろ」
「やめろアイザック」
天山が遮る
「今までなに食ってきたか知らねぇがほらよ」
天山は干し肉を差し出した
「安心しろ、人肉じゃねぇから。だが次はちゃんとしろよ」
タクトとカノンに手渡すとドカっと横になって眠り出した
「そーそー、そうしなきゃ死んじゃうんだからねー」
ロアンは少し冷ややかに言う
「それ食い終わったらさっさと寝ろ。見張りは交代で行うからな」
アイザックは立ち上がるとエレンを呼び出した
「久しぶりだな、ザック」
エレンは涼しげな顔で挨拶する
「そっちはどうだエレン」
「相変わらずヘマタイトは暴れているよ。まだ余裕はあるがね」
エレンは得意げに言う
「それで私を呼び出したということはなにか行き詰まったのかな」
エレンは寝ているタクトとカノンの方を見る
「まぁな、珍客といったところか」
「詳しく聞かせてもらおうかザック、もうひとつの世界というものに是非興味がある」
エレンはペンとメモを取り出す
アイザックは相変わらずこの人はと頭を抱えながら説明した
「なるほどな」
エレンは考え込む
「そんなことってあるのか?」
アイザックは問いかける
「あっても不思議はない世の中には不思議なことがまだたくさんあるからな」
「エレンにもわからないこととかあるのか?」
「当たり前だろう。とりあえずそうだな、彼らを送り返すことはできるかもしれない」
「本当か?」
エレンは少し考え込むと口を開いた
「しかしそれが正しく元いた世界に返せるかどうかはわからないがな」
「でもなんでそんなものがあるんだ?」
「ああ、実は魔界では別の世界に移住しようというバカげた提案があるのだよ」
エレンがバカげたというときは大抵面白がっていて本人も一枚噛んでいることが多い
「それって成功はしているのか?」
「一応な、確率は3割くらいか。いくつか報告書も届いている。一部の世界では技術提供を餌に受け入れの会談の話も持ち上がっている」
「じゃあ」
「ああそうだ、私たちはいずれこの世界を脱出することができる」
だがアイザックには一つ気がかりなことがあった
「でも狂魔病はどうなるんだ?仮に別の世界へ移住したとして向こうの世界でも広まったら....」
「そうだな、そうなるともしかしたら私たちはまた別の世界へ移住することになるかもしれないな」
エレンは複雑そうな顔をする
「流浪の民としていろんな世界を移り病を撒き散らす。世界がいくつあるかはわからない、いずれ移る世界がなくなり本当の意味で生きとし生けるもの全てが感染者となる時代が来るかもしれない」
「そんな....」
「だが今はそれでもすがるしかないのだよ」
「そうだよな....」
気がつくと夜が明けようとしていた
「それでは今日中に機材を運んでおこう」
「ありがとう」
アイザックは礼を言う
「気にするな、私からすれば移民計画への投資として非常に魅力的な話だったむしろ感謝するのは私の方だ」
「相変わらず変なヤツだな」
アイザックは笑った。気がつけばエレンの姿はそこにはなかった
「アイザックさんここにいたんですね?」
柔らかい雰囲気をした声が後ろからする
「瑞雲、いたのか」
天山のもう一人の人格である瑞雲が静かに近づいてきた
「タクトさんとカノンさんを元の世界に帰すことができて良かったです」
瑞雲は微笑む
「そうだな、この世界はあいつらにとって生きることができない場所だ。少しでも早く帰れるに越したことはないさ」
アイザックは日の出を見つめる
「なぁその....国のことは何と言えばいいんだろう」
一国の主ではないアイザックにとって天山と瑞雲の気持ちはとても理解できる範疇にはなかった
「いいんです、どんなものでもいずれは滅びるもの」
でもと瑞雲は搾るように言う
「でも、私は無力でした。国民を見捨て代表である私がこうして国を逃れ生きていることが正直辛いです!」
瑞雲は涙を流す。それほど国を大切に思っていたからこその涙であるとアイザックは受け取った
「でもさ瑞雲、俺がもしも桜花帝国の国民だったらきっと皇帝陛下には生きていて欲しいと思うぜ。確かに西洋に出かけたりとかしてちょっと放ったらかしのところもあるかもしれない。でも本当は少しでも国を良くするためにいろいろな技術や政治を自分の目で確かめるためにやっていたことなんだろ?」
「ただ殺し屋を選んだ天山の気持ちは理解できませんけどね。他にもできることがあったのに」
瑞雲は困ったように笑う
「アイザックさん、ありがとうございます。少し楽になりました」
瑞雲はアイザックに深くお辞儀をする
「皇帝陛下が俺みたいなヤツに頭を下げるもんじゃないぜ」
アイザックは瑞雲の肩を叩く
「でも私たちは貴方に救われました。これは皇帝としてではなく一人の人間としてお礼が言いたかっただけで」
「じゃあそうだな、また桜花帝国を復活させて俺を家来にしてくれよ」
アイザックは冗談っぽく言う
「はい、そのときは私の補佐官に任命しましょう」
「ああ、頑張れよ」
「行きましょう、みんなが待っていますし」
「そうだな、きっとロアンが今頃腹を空かせて待ってる」
アイザックと瑞雲は木の実と運良く見つけることができたネズミを手土産にロアンたちの元へ戻った
「え、元いた世界に帰れるんですか!?」
タクトとカノンが喜び飛び跳ねる
「ああ、今日には帰れるそうだ」
「ありがとうございますアイザックさん!」
カノンが礼を言う
「いいんだ、ここにいてもアンタらは辛いだけだしな。だが忘れないでくれ、世の中にはこんな世界も存在していることを」
「はい、心に刻みます。そういえば昨日から思ってたんですがこの剣」
タクトは腰から一振りの剣をアイザックに差し出す
「これは....」
アイザックは受け取ると驚きエーデルヴァイスを取り出し見比べる
「どうしてこれを持っているんだ」
それは紛れもなくエーデルヴァイスだった
「俺たちの世界にあるエデルザンテの森でそれを見つけて気づいたらここにいました」
タクトが説明する
「エデルザンテの森ってどんなところなんだ?」
「エデルザンテは忌むべき場所という意味で一年中霧に覆われ草木には毒があるものばかりで生き物が存在しない危険な森です」
タクトが答える
「ふむ、これはタクトが持っていてくれ。俺には一つで充分だ」
アイザックはタクトに返す
「アイザックさん....」
「ふむ、彼らが例の異世界の住民か」
エレンが部下を引き連れてやってきた。なにやら機械部品が入っていると思われる箱が置かれている
「話はザックから聞いている。私はエレン、こう見えてもマスタードラゴンにして魔王直属の補佐官だ」
エレンはタクトたちに握手をする
「どうも」
タクトはエレンの探るような眼差しにたじろぐ
「ふむ、実物を見るのは初めてだ。服装も我々のものと近い物がある。ちょっと失礼」
エレンはタクトの背後に回り込み背中に下げている剣をペンで叩き音を聞く
「これは素晴らしい、この金属はこちらの世界に存在しない物質だ。是非調査させて欲しい物だ」
エレンは忙しそうにメモを取る
「君は魔法が使えるそうだな」
「え、はい!」
エレンの興味の矛先がカノンへと向けられる
「簡単なものでいい、やってみてくれないか?」
エレンは部下たちに合図を送るとそれに応え魔術測定器を設置した
「えっ?えっ?」
状況が飲み込めずカノンは慌てる
「あのアイザックさん、エレンさんっていつもこんな感じなんですか?」
タクトがアイザックに小さな声で聞く
「ああ、昔から興味のあるものを前にすると徹底的に調べ上げるんだ。解剖されないうちに早く帰ったほうがいいな」
アイザックは遠い目でエレンを見る
「ウソ、ですよね....?」
「あの変態マスタードラゴンならやりかねない」
タクトの顔が青くなっていく
「ファセロ・バトク!」
カノンの杖から火球が放たれ木を粉砕する
「ふむ、詠唱によるものか。魔力指数が高いな、発動時間も早い、まったく君たちの世界は高度な技術を持っているようだな面白い」
エレンは魔術測定器を眺める
「私たちからすればこの世界のほうがずっと進んでいる気がします。特に科学技術においてはタクトがいた世界以上のものかもしれません」
「確かに俺のいた世界に比べると装騎やエーデルヴァイスなどの技術はオーバーテクノロジーですね」
「ふむ」
「ところでエレン、装置のほうはまだか?」
アイザックが少し焦っている
「あと少しだ、どうした?」
エレンは気づいた、何かが近づいていることに
「感染者だ」
空からは天狗が羽を羽ばたかせ地上から大蛇やかつて人間だったものが群れを成してやってくる
「タイミングが最悪だな!」
天山が悪態を尽きながらイーストシミターを構える
「ちょっとしつこいよね」
ロアンは長刀を抜く
一体の天狗がカノンへ飛びかかる
「まったく、空気の読めない連中は嫌いだよ」
エレンは指を鳴らす。するとカノンを襲う天狗が見えない力でねじり切られる
「我々の魔法を披露しようか。君たちは装置の調整を急いでくれ」
エレンの周りに巨大な陣が形成される
「すごい魔力....」
カノンがエレンを見つめる
「タクトとカノンは装置のそばにいたまえ。あとそこのテーブルの上にある小型端末を持っていくんだ。もし向こうの世界に着いたら端末の真ん中にあるボタンを押して報告してくれ」
「でもボタン一個でどうやって報告するんですか?」
タクトは小型端末を拾い上げると眺める
「小型端末があった場所の隣にメモがあるだろ?それが暗号表だ」
「モールス信号ですね!」
タクトが思いついたように言う
「君たちの世界にもあるのか」
「エレン様、準備完了しました!」
部下の一人が報告する
「よくやった、タクトとカノンは装置の中に入り元いた世界のことを思い浮かべるんだ」
「「はい!」」
タクトとカノンは声を揃えて装置へ走る
「またな!」
アイザックは感染者を両断しながらタクトたちに別れを告げる
「チッ!気をつけて!フェイズ3がいるよ!」
ロアンは不死身の感染者の四肢を解体しながら忠告する
「また死なない感染者か、目下研究中だがサンプルが欲しいな」
エレンは真空の刃を作りフェイズ3の手足をもぎ取る
「お願いします!」
タクトが装置に入る
「電源を入れろ。出力は最高、他の調整は任せた」
部下は指示通りに操作すると機械が光を放つ
エレンは色眼鏡を取り出すと装置の動作を見守る
30秒ほどで光は消えタクトたちの姿はなかった
「あとは報告を待つだけだな。よくやった、撤退だ」
エレンは魔法で道を作る
「撤退だ!」
アイザックが叫ぶとロアンと天山が後退する
「さて、一息つけるな」
エレンは懐から受信機を取り出して確認する
「どうやら元の世界へ無事に到着したようだ。実験は成功だな」
「まったく、不思議な連中だったぜ」
天山が背伸びをする
「でもなんでアイザック様の剣があったんだろう?」
ロアンが首を傾げる
「さぁな、どこかで繋がったのかもしれない」
アイザックも不思議に思ったが深くは考えないことにした
「世界と世界が繋がる、か。一仕事終えたら研究する必要があるな」
エレンはメモに数式を書き考察する
「そうだザック。一つお使いを頼まれてくれないだろうか?」
「なんだ?」
「ここから西の町にユンと呼ばれる大賢者がいるんだがどうやら新しい魔法技術を開発したらしくてね。是非資料とサンプルを譲ってもらいたいのさ」
エレンはアイザックに紹介状を手渡す
「西の町なら通るはずだから問題はないな。大賢者ユンの特徴は?」
「ふむ、そうだな。見た目は子供で恐らく西の村を探せばそこらへんで寝転んでいるだろう。なかなか起きないからどこかで甘いものでも用意しておくといいだろう」
「こんなご時世に甘いものなんてないだろ」
「そう思って用意しておいた」
エレンは飴玉をアイザックに差し出した
「準備がいいな、知り合いか?」
「そうだ、古くからの付き合いだ。まぁ商売敵といったところか」
エレンは珍しく苦い顔をした
「そんなにいやなのか....」
「私は正直苦手だ。怠惰な上に行動が読めない」
それからブツブツと悪口を言い出す
「ま、まぁ行ってくるよ。アイツによろしくな」
「わかった、ザックも気をつけてくれたまえ」
エレンと別れアイザックは大賢者ユンのいる西の町へと向かった
どうもーうなにゃぎ兄妹ですー
前回に引き続きコネクト様原作の異世界行ったら門前払いを食らいましたよりタクトとカノンを出演させていただきました
原作に比べだいぶキャラが崩壊していますがああ、この世界線ではこんなキャラなんだと少しでもご理解いただけると幸いです
今回も妹とその場のノリで考えついたものを突っ込んだのでメチャクチャな文章ですがこれからも精進していきたいと思います