表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
デイブレイク  作者: うなにゃぎ兄妹
セカンドパンデミア
6/17

囚人

3年後


そこは地獄だった。罵倒、悲鳴、嘲笑が常に耳を犯し糞尿の臭いや腐敗臭が鼻を麻痺させる

朝早くから過酷な労働を強いられ夜遅くに床へ就く

気がつけば3年だ。もはや生きる意味や活力など己には存在せずただひたすらに後悔に苛まれる

何度も死のうとも思った。しかしその度に彼女が止めようとする

楽になりたい

気づけば垢だらけで髭も伸び放題となり衣服もボロボロだ

手錠の重みも今では感じなくなった

独房なため外は見えずボーッと横たわることが今の楽しみだった

「おい!囚人、面会だとよ!」

うるさい看守に呼ばれる

「誰だよ今更」

アイザックはゆっくりと起き上がると力なく歩く

「久しぶりだな、ザック」

「よぅアイザック、少し老けたか?」

エレンと天山がいた

「....かえれ」

アイザックが呟くように言う

「おいどうしたんだよアイザック!」

「やめろ天山」

エレンがアイザックを止める

「ザック、私たちは君を助けに来た」

エレンは口を開く

「今更助けるだ?3年前のあの時アンタがいてくれればフィーアは....!!」

アイザックは憎々しげにエレンを見る

「あの時のことは残念に思う。だが狂魔病については私でもどうにもならなかっただろう」

「何が残念に思う、だよ!もういい、かえれ」

アイザックはぶつけられない怒りをエレンに向ける

「悪いがそういうわけにもいかないのだよ。君には使命がある」

「他をあたれ、俺はもう勇者じゃない。ただの哀れな罪人さ」

「ヘマタイトが狂魔病に感染した」

「だからなんなんだよ、そっちの仕事だろうが!俺を巻き込むなよ!」

「だが彼は君を指名している」

「....だからなんなんだよ」

「これは君にしかできない仕事だ」

アイザックは少し考えてしまった

今でも彼の顔が頭から離れないでいた

思い出すだけでも腹立たしい

「それで俺はどうすればいいんだ」

「お前さんは今からオレの護衛として働いてもらう」

「俺が天山の護衛を?お前いつからそんな身分になったんだ」

アイザックは皮肉っぽく言う

「彼女は極東にある桜花帝国の13代皇帝だ。今まで私たちに身分を隠していたんだ」

「黙っててすまなかったな。こっちもいろいろあったからよ」

天山は懐からタバコを取り出し吸い始めた

「まぁいいさ、引き受けよう」

「いいのかアイザック?」

エレンが訝しげに聞く

「ああ、久々にあのクソ親父の顔を思い出したらぶん殴りたくなった」

「ありがとう」

エレンはふっと微笑んだ


久しぶりの外は昔に比べ少し寂れていた

アイザックは新しい服に身を包み髭を剃り3年分の垢を落とした

「ザック、受け取れ」

エレンが白い剣を差し出す

それはフィーアが残した剣、エーデルヴァイスだった

アイザックは手を伸ばすが躊躇った

「これはお前が持つべきものだ」

エレンが強調して言う

「わかったよ」

エーデルヴァイスを受け取るとアイザックは背中にかけた

「準備はいいか?アイザック」

天山はリンゴをかじりながら肩を叩く

「問題ない」

「せっかくいい男になったんだから明るくしろよつまらねぇな」

天山はため息をついた

「それよりこれからどうするんだ?」

「ザックと天山で飛空挺に乗り桜花帝国へ向かいそして魔界と通じる最後の門がある。そこを目指すんだ」

「エレンは?」

「私は魔界に戻りヘマタイトを食い止める」

「相手はあんなのでも魔王だぞ?どうやるつもりだ」

あの剛腕なら城壁さえも容易く崩すだろうそのくらいエレンでも予想はつく

「安心しろ、彼はバカだ。だから魔法の障壁の前では無力だ」

エレンは少し可哀想な人の話をするような態度で言った

「たしかにあのバカには効きそうだな」

アイザックはバカを強調して同意した

「ではまたあとでな、ザック」

「またなエレン、死ぬなよ」

「私は死なないさ」

エレンはそう言い残して消えた

「いっちまったな」

天山が少し残念そうにつぶやく

「ああ、そうだな」

「そういえばそろそろ来るはずなんだが」

天山が辺りを見回す

「誰か来るのか?」

「まぁな、お前の部下ってところか」

「おいおいおい、護衛に就任すらしてないのにもう部下ができるのかよ」

「まぁ照れるなって、それにお前さんのために女にしておいたぜ」

天山が少しいやらしい笑みを浮かべる

「んな気遣いいらねぇよこのうつけ皇帝!」

アイザックの発言に天山の中で何かが切れた

「なんでてめぇがその名を知ってるんだよ!さてはエレンか?エレンなのか?」

「あのーちょっとそこのバカップル?」

「「誰がバカップルだバカ!!」」

アイザックと天山は息の合ったプレーを見せつける

「アイザックという人がここに来ると聞いていたんだけど」

そこには動きやすそうな鎧を纏い背中には大の大人ほどもある巨大なイーストシミターを下げた少女が立っていた

「俺がアイザックだけどなんだ?」

「瑞雲、あとは任せた」

天山は何かを感じ取ったのかもう一つの人格である瑞雲に変わる

「あ、こら天山さん!」

横暴な天山とは対照的に清掃で儚げな女性に変貌する

「君がアイザック様か。私ロアンって言うんだ、よろしくね!」

ロアンはアイザックの手を取ると激しく握手をした

「お、おう」

また変なテンションのヤツが出てきたなとアイザックは頭をかいた

「では港へ行きますか」

瑞雲が提案する

「そういえばさっきと雰囲気が違うよね」

ロアンが瑞雲を見る

「私たちは俗に言う多重人格というものです。戸惑うこともあるかもしれませんが少しでも仲良くしていただければ幸いです」

瑞雲は礼儀正しくちょこんとお辞儀した

「今更だけど瑞雲と天山って桜花帝国ってとこの皇帝なんだよな?」

「はい」

瑞雲は柔らかい物腰で返事をする

「ですが今まで通りに接していただけたら嬉しいですね。今は主従関係のようですがあくまでも形式的なものであって私たちは共に戦う仲間ですから」

「ありがとよ」

「いえいえ、では向かいましょうか」

アイザックとロアンは瑞雲についていく形で港へ向かった


飛空挺内

離陸してから16時間が経った頃である。窓の外を退屈そうに見ていたロアンが立ち上がる

「あーもー!いつになったら着くの!」

「落ち着けロアン、もうすぐだろ」

アイザックがなだめる

「そう言ってかれこれ16時間経ってるんだけどー!」

「そういやそうだな」

アイザックは筋トレしながら納得する

「あと4時間ほどで着くぜ」

男が答えた

「ありがとうね、お兄さんは誰?」

ロアンが礼を言う

「って....シン!?」

アイザックが驚く

「知り合い?」

ロアンがキョトンとする

「ああ、3年前の北方最前線以来だな」

「そうだなアイザック、フィーアはその...残念だったな」

シンが申し訳なさそうに言う

アイザックは胸を痛めたがグッとこらえる

「ああ、いいヤツだったよ」

ため息混じりに苦笑する

「ほらほら、暗い顔しないのー!」

ロアンが手を叩く

「それもそうだな、ありがとうロアン」

アイザックはふっと笑うとロアンの頭をクシャクシャ撫でた

「えへへ」

ロアンは気持ち良さそうにする

アイザックはロアンの存在に救われた気がした

「それでシンはどうしてここへ?」

「ああ、エレンにお前の尻拭いを頼まれてさ。つくづく親バカだよな彼女も」

シンは腹を抱えて笑う

「おいおい、エレンは俺のお袋かよ」

アイザックも爆笑する

「アイザックって魔族なの?」

ロアンが背を伸ばす

「違うっつーの、俺はれっきとした人間でとある魔族に育てられたのさ」

「ああ、ってことは魔界にいたんだ。どんなとこ?」

「あ、それ俺も聞きたい」

シンも乗り出す

「んと、機械と工場がいっぱいあったな。その割りにちょっと王都を出ると一面綺麗な草原が広がっててさ。よくクソオヤジと稽古したもんだな」

「仲がいいんだね」

「ちげぇよ、俺はあいつが嫌いだった。俺頭悪いしやれることと言えば喧嘩だった」

「それに付き合う親父さんも親父さんだな」

シンは羨ましそうに言う

「あいつは頭の中がガキだったからな」

アイザックは呆れたように返した


「さて、そろそろ着くぞ。お前ら席に座ってろ」

シンがアイザックたちを座らせる

「あいよ」

「やっと着いたー」

ロアンは背伸びをする

「オレこの着陸の時の感覚が苦手なんだよな」

天山はぐったりとした様子でいた

飛空挺の真下には巨大な極東独特の雰囲気を持った帝都が広がっていた。文明は西洋や魔界に劣るもののとても賑わっていた

「そういや極東にも狂魔病は流行ってるのか?」

アイザックが天山に聞く

「いや、2ヶ月前まではなんともなかったしそういった報告はないな」

アイザックは極東が羨ましく思えた

飛空挺が大地に降り立つ

アイザック達が出ると目の前には多くの兵士と国民が出迎えてくれた

皆口々に帰還を歓迎する言葉を述べた

「結構愛されてるな」

シンが天山に言う

「どうだかな、よくオレのことをうつけと呼ぶけど」

「やっぱ愛されてるな」

シンが笑うと天山は腹に肘を叩きつける

「よぅてめぇら!」

天山が叫ぶ

「こいつを見てくれ!これが西洋と魔界の船、飛空挺だ!そしてこれを見ろ!」

腰のホルスターから銃を取り出すと天に向けて撃った

国民たちは発砲音に驚く

「これは銃だ!いいか!極東の覇権を握るのはいち早く西洋と魔界の技術をより多く手にした国だ!まぁ元々極東はオレたち桜花帝国領土だったが今まで領土をもらってきた大名どもがいっちょまえに主権争いを始めたおかげでこうなっちまったわけだが!」

天山は改めて大きく息を吸った

「これからは銃と飛空挺の時代だ!今時古臭い刀とかじゃねぇ!」

国民たち歓声が大きくあがる

「皇帝陛下万歳!!」

天山は満足げに城へと向かった


「美味いなこれ」

アイザックは極東の料理の感想を述べた

「でもこれ生の魚だよね」

ロアンは少し戸惑いながら口に入れると惚れ惚れとした顔をする

「これ西洋に持ち帰ろうかなぁ!」

あまりの美味しさにすぐさま手のひらを返す

「そりゃいいなぁ、あとでレシピを教えてもらってマナに作ってもらおうかな」

シンは口に食べ物を含みながら言う

「つかマナと結婚できたのか?」

アイザックがツッコミいれる

「できたのかってなんだよ!あの後すぐに結婚したわ!」

シンが指輪を見せた

「お前も年なんだし結婚考えろよ」

天山が茶化す

「うるせぇババア」

「んだとクソガキ!!」

アイザックの一言に天山は堪忍袋の緒が切れてイーストシミターを取り出そうとするがロアンに抑えられる

「皇帝陛下ー落ち着いてー」

ロアンは笑顔で天山を落ち着かせる

「ははは、でも天山は美人だし地位もあるかr」

そう言いかけたところでシンの首が落ち血しぶきをあげた

「....え?」

アイザックは一瞬なにが起きたのかわからず間抜けな声を出す

天山は立ち上がり愛刀を抜きロアンも横にあった太刀を構える

不意にアイザックへとイーストシミターが振り下ろされる。アイザックは咄嗟に刃を両手で挟みへし折る

攻撃したのは天山の部下だった

「おい、まさか」

アイザックが天山を見る

「ああ、どうやら余計な道連れを連れてきちまったらしいな」

感染者はどんどん増えてゆく

「まだ正気なヤツがいたら聞け!襲ってきた仲間がいたら躊躇なく斬れ!中にはまだ理性が残ってるヤツがいるかもしれねぇ、だがこの病気には治療法がねぇ!感染したヤツがいたら斬ってやれ!」

天山が部下たちに呼びかける

「よぅ才蔵、オレお前さんの生き様結構好きだったぜ。褒美にオレがお前を斬ってやるぜ」

天山はそう言うと一振りしてすぐに鞘へ納めた。顔を伏せている

「天山....」

アイザックは天山の頬を伝う涙を見て呟いた

天山は涙を拭うと顔をあげる

「ぼさっとしてないでいくぞ!感染が広がるまえによ!」

「そうだな!」

アイザックはシンの骸を見ると立ち止まる

「シン....すまん!」

シンの指から指輪を抜くと懐にしまいエーデルヴァイスを取り出した

「アイザックさん!あれ!」

首を斬られた感染者の肉体がゆっくりと立ち上がる

「なんだよ....あれ」

首のない感染者はよろよろと歩きながらアイザックの方へ向かう

「まさか新種かよ....クソ」

天山が舌打ちすると素早くイーストシミターを首なしの感染者の心臓を貫く

だが感染者動きは止まらない

「こいつ、不死身なのか?」

アイザックたちは戦慄しながら互いの死角をカバーし合うように背中を合わせ武器を構えた




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ