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リストラヒーロー、企む

 それは奇妙な光景であった。

 昼なお暗いルグレの森で一組の冒険者が一匹の魔物の様な生き物と対峙していたのである。

 肌はツルリとしていて全身が黄色い。

 シルエットは人と同じ二足歩行であるが、腕には飛膜が生えており顔には鋭い嘴を持っていた。

 そして目は長方形で黒一色である。

 手に体と同じ色の棒を持っており、道具を使える知能はあるようだ。


「これでも喰らえっ!!」

 弓を構えたハンターが全身の力を込め黄色い生き物に向けて矢を射った。


「ほいっと」

 その生き物は矢を半身になり矢をかわすと、そのまま冒険者達に近づいていった。

 奇妙な生き物、それはコカトリスイエローに変身した大酉五郎である。


「なんだ?この魔物は?人の言葉を話しやがる」

 長剣と盾を持った剣士が吾郎の正面に立ち塞がる。

 

「鳥か?人か?なんなんだ、こいつは」

 斧を携えた戦士の口調には見知らぬ魔物に対する焦りが感じられた。


(鳥か?人か?ってきたらスー○ーマンがお約束だろ…あっ、こいつらは若いから分かんないよな)

 一方の吾郎は微塵も焦りを感じていなかった。

 若い冒険者達の実力は吾郎が敵対してきたどの組織の戦闘員よりも劣っている。

 場合によっては何十人と言う戦闘員と一人で戦わなければいけない吾郎には余裕があるのだった。


(殺すのは簡単だけど、こいつらを殺したら討伐隊が組織される。そうなったら元も子もねえか…それなら先ずは一つにまとめるか)

 吾郎はジャンプすると同時に両腕を羽ばたかせた。

 そしてそのまま冒険者達の視界から消え去る。


「あの体勢から空を飛んだのか?」

 杖を持った魔道具使いが呆気にとられていると、後ろから悲鳴が聞こえてきた。


「ゴサクっ!!」

 彼等の目に映ったのはアーチャーのゴサクが弓を奪われ、謎の魔物に投げ飛ばされている場面。

 

「あの魔物は空を飛ぶぞ。お互いに背中をつけて背後をとられない様にしろ」

 剣士の号令に合わせて戦士と魔道具使いがアーチャーを守る様にして円陣を組む。

 しかし、それこそが吾郎の狙い。

 今、吾郎は樹上で年若い冒険者達をジッと見下ろしその時を待っていた。

 時間としては短くとも、いつ襲われるか分からない時間はまだ若い冒険者達には極度の緊張をもたらす。

 ジリ、ジリと汗だけが流れていく永遠とも思える時間。

 しかし、待てども暮らせども謎の魔物は姿を現さない。

 

「あいつ、逃げたのか?」

 戦士の一言に全員が安堵の息を着いた瞬間、彼等を乳白色の気体が包み込んだ。

 そして一人、また一人と地に崩れていく冒険者達。

 全員が倒れたのを確認すると吾郎は木の上から静かに舞い降りた。


「コカトリスのパラライズブレスだ。明日の夜までゆっくりお寝んねしな」

 冒険者達を包み込んだ乳白色の気体は吾郎が吐いた麻痺の息。


「コカトリスの兄ちゃん、そいつらを殺すの?」

 角イタチの少年ガイラは吾郎の事が心配になったらしく戻ってきていた。


「殺したなら討伐隊が来るから殺さないよ。アメリちゃんも戻ってきた?」


「アメリは親父とお袋の所に逃げたよ…あっ、来た。親父、この魔物さんが助けてくれたんだ」

 ガイラの視線の先にいたのは髭を蓄えた大柄な男性と子供(アメリ)と手を繋いでる細面の女性。


「この度は娘を助けて頂きありがとうございます。私はガイラとアメリの父一角イタチのザブです」


「母のシャルレイです。アメリもお礼を言いなさい」

 母の言葉に合わせてアメリもちょこんと可愛らしくお辞儀をしてみせた。


「知っている子供が襲われるのを黙って見ている訳にはいきませんから。あっ、私はコカトリスのゴローと言います。この姿は人と戦う時に変じています」

 

「それでこの冒険者はどうされるんですか?」

 冒険者を殺す訳にもいかないが、ここに放置しておく訳にもいかない。


「ザブさんは幻術を掛けて魔物を闇に潜ませる事は出来ますか?」


「ええ、闇に潜ませるのは簡単ですよ。最も、幻術ですから攻撃をするのは難しいですけど」

 

「分かりました、ザブさんとガイラに手伝ってもらいたい事があります」

 吾郎の言葉を聞いたアメリは不服そうに小さな頬を膨らませる。

 

「兄ちゃん、任せとけ!!何をすれば良いんだ?」


「その前にアメリちゃん、お母さんと一緒に夜光草を探して来てもらっていいかな?おじちゃん、夜光草が欲しいけど悪者を懲らしめる準備をしなきゃいけないから」

 アメリは吾郎の言葉に力強く頷くと、母親の手を引っ張る様にして森へ消えていった。


「それでゴローさん何をすれば良いんですか?」


「まずそいつらの身包(みぐる)みを剥いで下さい。文字通り下着も全部ね」 


「下着ですか?武器は分かりますが」

 若干引き気味のザブを見て吾郎は慌てて言葉を付け足す。


「そうしたら俺はこいつらを娼館の庭に置いてきます。その時、俺に幻術を掛けて下さい」


「そういう事ですか…ゴローさんも人が悪い」

 人が悪いと言いながらもニヤニヤと笑うザブ。


「親父、俺にも教えてくれよ」


「前に俺が人間の娼館に遊びに行った話を教えたろ。つまりこいつらは覗き魔に仕立てられるんだよ」

 人に化けれる一角イタチは人の町に行く事も珍しくない。

 薬や食糧を確保する為でもあるが、実際に人を見なければうまく人を演じれないからでもある。


(どこの世界でも息子にエロ自慢をしたがる親父はいるんだな…でも、まだシャルレイさんの気配は近くにあるんだよね)

 その夜、プレーリーの町の娼館では護衛に吊し上げれた冒険者の悲鳴が響き渡った。

 そしてルグレの森にはザブの悲鳴が木霊したという。

 その後、吾郎は角イタチ達が森の奥に移動する時間稼ぎを行った。

 ある日は女性冒険者だけを森の入り口に残して、男性冒険者を酒場の前に落とした。

 その時、吾郎は女性冒険者を樹上から見守っていた。

 またある日は、身なりの良い冒険者を貧民街に落としたりした。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 全ての角イタチがルグレ森の更に奥深くに移動した事もあり、角イタチの依頼は達成されずに終わる。

 そしエスペル伯爵家令嬢マーガレットの見合いの当日。

 元冒険者・現ギルド事務員セーリオが複雑な心境で馬車を見守っていると、それは突如空から現れた。


「コカトリス?でかいぞ」


「ブレスを吐く前に退治しろ」


(陣形を組むまで待たないけどな)

 突如、現れたコカトリスは吾郎である。

 吾郎はザブに幻術を掛けてもらうと、風見鶏の様にエスペル伯爵家の屋根でジッと待機していたのだ。

 コカトリスの吐く乳白色のブレスにより護衛達が次々に倒れていく。

 コカトリスがマーガレットの乗る馬車に近づいた瞬間、抜剣したセーリオが飛び出して来た。

(セーリオさん、気合い満点だな。それなら足に隙をつくって)

 セーリオが気合いを込めて剣を一閃すると、足を斬られたコカトリスは堪らずに逃げ出す。

 そして抱き締めうセーリオとマーガレット。

 かたや吾郎は宿屋で一人斬られた足を抱えていた。


(何が引退した冒険者だよ!!洒落にならない斬撃だぜ)

 後日、セーリオとマーガレットは婚儀を許されたという。

お気に入り登録が川の向こうに越されました。

ヒロイン不在だからでしょうか?

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