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リストラヒーロー、依頼を受ける

 フォレ州はその名の通り、広大な森林を有しており、プレーリーから一時間程歩いた所にもルグレと言う森がある。

 ルグレの森は隣州モンターニュまで広がる巨大な森で、様々な生き物の生息地となっていた。

 当然、ルグレに生息する魔物も多種多様であり、それを目当てに訪れる冒険者は少なくない。

 しかし、それはあくまで日中の話。

 夜は肉食獣や魔物の動きが活発になる為、日が落ちてから森に入るのは自殺行為と言われている。

 そのルグレの森に闇夜を切り裂さいて奇妙な生き物が現れた。

 奇妙と言うのは、その生き物が人と鳥を混ぜ合わせた様な姿をしていたからである。

 シルエットこそ人に近いが、腕には大きな飛膜が着いており顔に(くちばし)があった。

 鳥かと言えば、その黄色い体には羽毛が生えてらず二足歩行をしている。

 奇妙な生き物の正体は、コカトリスイエロー第二形態に姿を変えた大酉吾朗であった。


「夜光草、首を洗って待ってろよ!!」

 テンション高く叫ぶ吾朗であったが、突っ込んでくれる人がいる訳もなく、冷たい夜風が吾朗の頬を撫でていく…まるで吾朗が滑った言わんばかりに。


(突っ込みが欲しい!!このままだと、社会の歯車から外れてしまう)

 三十代半ばの吾朗にしてみれば、社会の一員(はぐるま)である方が安心なのである。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 夜目が効く吾朗にしてみれば、夜の森も昼間と変わらずに移動する事が出来る。

 夜光草を探す為に、樹上すれすれを飛んでいた吾朗の目にそれは飛び込んできた。


(ひでぇ、必要な素材だけを剥ぎ取って後は放置してるのか…しかし、何で食われてないんだ?)


 吾朗が見つけたのは三メートル近い大きさがある鹿の死体。

 角と胴体の皮だけが剥ぎ取られて、そのまま放置されている。

 しかし、不思議な事に死体は、動物に食べられた痕が見当たらない。


(これで三体目か、どれにもかじられた痕すらなし…子供の泣き声?)

 三体目の死体を見つけた時、 吾朗は子供の泣き声を耳した。


(この森の奥で子供の泣き声だと?誰かに連れて来られたのか?それとも…幽霊?)

 正体不明の泣き声は怖いが、そこはリストラされたとは言え正義の味方。

 吾朗は絶え間なく聞こえてくる泣き声を目指して森の奥へと進んで行くのであった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


(マジに子供がいたよ…しかも側に夜光草が生えてるし)

 泣き声の主は五歳位になるであろう女の子。

 少女は大木の根本で、顔を伏せながら泣いている。

 少女は簡素な布の服を着ており、茶色い髪を草の蔓で束ねていた。


(どうする俺?泣いてる子供を放っておいたら正義の味方失格だ。…あの子、幽霊じゃないよな?それに夜光草が…行くしかない!!)

 吾朗は意を決すると、少女の前に降り立った。


「お嬢ちゃん、一人?お父さんとお母さんはどうしたのかな?」

 吾出の声に気付いた少女が顔を顔をあげ吾朗と目を合わせた途端、更に激しく泣き出した。


(し、しまったー。この世界の子供がクリプティドファイブを知ってる訳ないよな)


 何しろ、吾朗は第二形態になると翼や(くちばし)だけじゃなく尻尾まで生えてくる…その見た目は正義の味方と言うよりも怪人に近い。


「お、おじさんは正義の味方だから怖くないんだぞ。君が泣いているから助けに来たんだ。ほら、泣いていたら可愛い顔が台無しだよ」

 挙動不審になりながら少女に話し掛ける吾朗。

 

「にんげん?アメリをつれてくの?パパたすけてー。マーマー!!」


「アメリちゃん誤解だって…おじさんは怖くないから」

 必死に取り繕うとする吾朗であったが、その姿は立派な不審者である。


「アメリを泣かすな!!俺は人間なんて怖くないから」


「おにいちゃん!!」

 吾朗と少女の間に、小学校四年生位の男の子が入ってきた。

 男の子は、手に木の棒を持ちながら必死の形相で吾朗を睨みつけてくる。


(これって…菓子あげるからおじさんと遊ぼうな人に思われていないか?)


「違う、違う、誤解だって!!おじさんは泣泣き声が聞こえたから来たんだよ…ほーら、怖くない」

 吾朗はそう言うと、尻尾をコミカルに動かしてみせる。


「アメリ、大丈夫だよ。このおじさんは人間じゃないよ。ほら、尻尾があるだろ?それにくちばしも羽根もある。僕達と同じ魔物だよ」


「ほんとう?おじちゃんはにんげんじゃないの?」

(魔物?人間じゃない?ここは!!)


「ああ、おじさんはコカトリスだよ。今は森を歩く為に変身をしているんだ。コケッーコッコ!!」

 そう言うと吾朗は首を前後にを振りながら鶏の真似をしだした…半ばを自棄である。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 アメリ兄妹は角イタチと言う魔物だとの事。

 その証拠にアメリの頭には茶色い小さな耳と角がちょこんとのっていた。

 人の姿に変身しているのは、他の魔物や人間に捕まらない為らしい。


「最近、人間の所為で、俺達の食べる餌が少なくなったんだ。だから、親父とお袋は遠くの森まで狩りに出掛けている…俺は男だから我慢出来るけどアメリは子供だからお腹が空いて泣いていたんだと思う。俺も何か捕まえようとしたけど駄目で…ごめんよ、アメリ」

 さっきまで強気だった少年ガイラが申し訳なそうにしている。


「だいじょうぶ、アメリもう泣かないよ。ガイラおにいちゃんもおなかすいてるんだもん」

 そう言って笑って見せるアメリ。

 そして吾朗はと言うと

(良い子だ、なんて良い子達なんだ)

 二人の幼い兄弟の健気さに泣いていた。


「ここに来る途中、鹿の死体があったけど、あれは食べないのか?」


「それ変な匂いがしていただろ?あれには痺れ薬が入ってるから親父から食べるなって言われてるんだ」

(だからわざと肉を残してたのか、あれを食べた魔物は麻痺する、それを捕まえる算段か)


「よっし、コカトリスのおじさんが何か捕まえてきてやる。何が食べたい!?」


「良いよ、お袋は余所様に迷惑を掛けるなって言われてるし」


「あー、それじゃその光る草を集めてくれる?おじさん、この森は初めてだからどこに生えているか分からないんだ」

 

「アメリ、しかさんがたべたい。つののあるしかさん」

 嬉しそうにはしゃぐアメリを見た吾朗は、任せろと言い残し闇夜に消えた。

 夜光草は二束しから手に入らなかったが、久しぶりに満腹になり喜ぶ兄妹を見た吾朗はそれで満足であった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 次の日、夜光草を換金しにきた吾朗はある依頼を目にする。


そこにはこう書かれていた、角イタチの角を買い取ります。一本三十万プレ。


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