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リストラヒーロー、冒険者になる

久しぶりの更新です

 異世界に来ても長年染み付いた習慣は中々抜けない物である。

 正義の味方とは言え、実質組織に勤めるサラリーマンであった吾朗は朝六時には目が覚めていた。

 

(今日は月報をまとめなきゃいけないんだよな。確か、納豆が残ってた筈…あっ、俺リストラされたんだよな)

 一人暮らしをしている吾朗は、その日の仕事内容を予習しながら朝食を作る習慣があったのだ。

 ちなみに宿は安宿の為、素泊まりで朝食も夕食も出ない。


(さて、何の仕事を探すかな。稼ぐとしたら冒険者ギルド…出来たら討伐じゃなく護衛か採取が良い)

 吾朗はホワイトパーチ村から一緒に来た冒険者や自分を取り囲んだ警察官の動きを見る限り、この世界で戦い抜く自信はあった…あったが。


(三十五才の新人って受け入れてもらえるのか?今更、伸びしろなんてねえぞ。それにポッと出のおっさんとパーティーを組んでくれる物好きなんているのか?)

 異世界を一人で生き抜かなければいけない最悪パターンを考えた吾朗の口からは大きな溜め息が漏れる。

 吾朗は漏らした息を吸い戻す様に大きく深呼吸をすると、ベッドから一気に立ち上がった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 プレーリーの冒険者ギルドは警察署の近くに建てられていた。 

 警察署と同じく石造りの平屋の建物で、中には色々な人種がたむろしていた。

 猿人の他に、犬の様な耳と尻尾をもった少年もいれば、猫耳のベテラン戦士もいる。

 その他にも、警察署の牢屋にいそうな荒くれ者もいれば、磨かれ輝きを放つ鎧をまとった戦士もいて、冒険者ギルドの中は雑多な雰囲気で満ちていた。

 吾朗は掲示板の依頼書にざっと目を通した後に、人事部人事課新人登録係の掲示板が下げられたカウンターに移動した。

 新人登録係カウンターに並んでいるのは、十代半ばの少年や少女が殆んどで三十半ばの吾朗は非常に浮いている。


(居心地悪りー。何かブルーの学校に休校届けの説明をしに行った時を思い出すな)

 クリプティドファイブのマーメイドブールこと八百琴美は都内のお嬢様校に通っており、学校を休ませるに為に一回一回説明が必要だった。

 無論、琴美がクリプティドファイブにいる事は学校には言えない為、偽装をする必要がある。

 流石に琴美の親御さんにお願いは出来ないにので、隊の保護者役でもある吾朗が説明に行っていた。

 しかし、琴美が吾朗の事をおじ様と呼んだ所為で、吾朗はお嬢様達の冷たく白い目に晒されたのだった。

 受け付けカウンターは三ヶ所あり、金髪のイケメンと銀髪の美少女、そして初老の腕抜きを着けた男性がいる。

 イケメンと美少女には列が出来ているが、初老の男性の前は閑散としていた。 

 

「すいません、登録をお願いしたいのですが」

 吾朗が選んだのは、心地よさよりもベテランの安定を好んだ結果である。

 

「そこに座って下さい。はい、これに必要な事を記入して提出して下さい」

 初老の男性は、吾朗に書類と一緒にインク壺と羽ペンを手渡すと再び事務処理に取り掛かった。


(名前はゴロー・オオトリ、年は三十五、出身は異世界のニホン、職歴は正義のみか…護衛職歴にしておくか。戦う手段は格闘と棒術)

 ちなみに吾朗が愛用している棒の名前はテールロッド、その通りコカトリス(ごろう)の尻尾を棒に変化させた物だ。

 当然、テールロッドには痛覚があり使い所を間違うと、一週間はうつ伏せで寝る羽目になる。


「すいません、これで良いでしょうか?」


「はい、承りました。必要事項はこの冊子に書いているので、きちんと読んで下さいね…何か質問があれば早めに仰って下さい」


(冒険者はお約束でランク別になってるのか…一番上は甲種で次は乙種か。乙の一類は戦士、乙の二類が魔法使い、乙の三類が回復職、乙の四類がスカウト、乙の五類が遠距離職、乙の下が丙種。そして全種共に十階級に別れていると。俺は丁種の十級からになるんだな。ってマイナス丁種?)


「すいません、マイナス丁種って何ですか?」


「依頼を成功させるとポイントが加算されて上のランクに上がれますが、失敗するとマイナスポイントが加算されて下の階級に下がります。当然、自分のランクより上の依頼を失敗すれば、それ相応のマイナスポイントが加算されます。ちなみにマイナスランクからは自由が制限され、ギルドの奴隷として扱われます」

 ただし、マイナスランクは丁種の新人が実力にそぐわない依頼を受ける事を防ぐ役割もあるとの事。

 ちなみにマイナスランクに属しているのは、警察に捕まった犯罪者やギルド規定に違反した者が殆んどである。

 大罪を犯してマイナス甲種になった犯罪者は、無休で様々な依頼をこなして被害者に賠償金を支払っていくらしい。


(それで警察の近くなのか…パチンコの景品交換所みたいに警察のOBがギルドに天下りしてるんじゃねえだろうな)

 改めて異世界の世知辛さが見に染みる吾朗であった。



 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 三十分後、名前を呼ばれた吾朗は白い金属制のカードを手渡された。


「こちらがギルド証になります。もし、紛失したら三万プレが掛かります。それと乙種以下の時は、貯めていたポイントも無くなりますので気を付けて下さい。それでは次の方」

 初老の男性は誰もいない事を確認すると、再び事務処理を始めた。


(住民証まめギルドカードも無くせないな。後からバングルに閉まっておく)

 クリプティドファイブのバングルに組織で発行される身分証を仕舞える様になっている。

 しかし、吾朗は身分証を返したので、バングルに空きスペースがあるのだ。

 丁種十階の依頼は日銭稼ぎの要素が高く、拘束時間の割に収入が少ない。

 本来なら丁種の依頼をコツコツとこなして丙種に上がるのだが、吾朗には二ヶ月という期限がある為にのんびりもしていられないのである。

 しかし、駆け出しの冒険者を護衛に雇う物好きはいない。


(異世界でヒーローが奴隷になりましたなんて、笑えねぞ…来たっ!!これだ)


 吾朗の目に飛び込んできたのは乙種四類十級の依頼。

 夜光草と言う草を取ってくれば、一株五万プレが支払われるらしい。

 早速、依頼書を受け付けカウンターに持っていくと、中年の男性職員が呆れ気味に説明をし始めた。

 一見、簡単そうに思える依頼であるが夜光草は森の奥にしか生えておらず昼間は他の草と見分けがつかない。

 しかし、夜になると淡く光る為に容易に見つける事が出来るらしい。

 らしいと言うのは、夜の森は魔物の動きが活発になる為に好んで入る人間はいないとの事。

 つまり、駆け出し冒険者の吾朗が挑むのは無謀でしかなく奴隷になりますと言ってるのと一緒らしい。

 しかし、吾朗は依頼を受けた。

 何しろ、夜ならコカトリスイエローに変身してもバレないのだから。

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