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リストラヒーロー、泣く

久しぶりの更新です

 空中に浮いている木の箱が草をなびかせながら草原を移動して行く。

 吾朗達を乗せた自動箱だ。

 移動の速さは時速にして四十キロ程度、公道を走るトラクターと同じ位である。

 吾朗が乗っている古いタイプの自動箱は運転席が剥き出しになっており、速度を上げると風圧により運転手が呼吸困難に陥ってしまうのだ。

 もし兜か何かを被って風圧を防いだとしても、木製の為に箱が風圧に耐え切れなくなり空中分解してしまう。

 あくまでも物資や人を安く大量に輸送する事のみに適した自動箱なのである。 

 ホワイトパーチを出て三時間が過ぎた頃、冒険者の一人が申し訳なさそうに吾朗に頭を下げてきた。


「悪いんけんど窓を閉めさせてもらうだ。プレーリーは人が多いから埃が凄いんだよ」


「それに兄ちゃんみたいな黒髪に黄色い肌の猿人は目立つんだよ。見世物にはなりたくねえべ。少し暗くなるけど我慢してけろ」

 男達はそう言うと引き戸になっている窓を閉めた。

 運転席と厚い板で隔てられている事もあり、箱内は一気に薄暗くなる。

 それでも所々にある隙間から光が漏れているお陰で視覚は保てていた。


「良いですけど、窓にガラスを使ってないんですね」


「ガラス?あんなのを使ったら何も見えなくなっちまうだよ。透明なガラスは高いし、第一自動箱なんかに使ったら直ぐに壊れちまうべ」 

(確か透明なガラスを作るには大規模な施設が必要なんだよな。そういや強化ガラスってどうやって作るんだ?) 

 普通高校を卒業して、直ぐに組織に就職した吾朗の工業知識は豆知識レベルで実用化には到底役立つ物ではない。


「それじゃ雨の日には自動箱は使えないんですか?」


「ある程度の自動箱にはクリスタル系の魔物の素材を磨いた物が使われているだよ。だど、そんなに乗れるのは貴族様か稼ぎの良い商人ぐらいだけだ」

 暗くて表情は見えないが大きな溜め息が冒険者の切なさを吾朗に伝えていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 不思議な事に吾朗を乗せた自動箱は一度も道路を走らずにプレーリーに着いた。

 

「プレーリーに着いただ」

 運転手の言葉を皮切りに冒険者達のテンションが高まる。


「おら、母ちゃんにネックレスを買ってくだよ。明日は久しぶりにベッドで燃えるべ」

「相変わらずかみさん命だな。おらは若い姉ちゃんをヒイヒイ言わせるだ」

「そして演技さ騙されて、おめえの財布がピイピイと泣くんだべ。中が空っぽになってひもじいって」

 その後も冒険者達は、自分達の予定を声高に捲し立てていく。

 その為、吾朗はプレーリーの町がどんな所なのかを一歳掴めていなかった。

 自動箱が停まったかと思うと、冒険者達は一斉に降りていく。

(まるで蜘蛛の子を散らす勢いだな…ってマジかよ!?)

 冒険者達と入れ替わりに入って来たのは完全武装した兵士だった。

 

 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 今、吾朗の目に映っているのはコンクリートで作られた部屋に磨きあげられた木製の机。


「君が異界人のゴロー・オオトリ君ですね」

 冷たい視線で自分を見ている役人、そして役人の後ろにいる三人の帯剣した警察官。

 ちなみに吾朗の背後にも帯剣した警察官が四人いた。

 

「はい、そうです。あの、ここは何て言う場所なんですか?」


「警察庁の取り調べ室ですよ、それがどうかしましたか?」

 眼鏡をかけた役人の事務的な受け答えに吾朗は困惑する。


「あのもう少し詳しく教えていただけたませんか?」


「プレーヌ王国フォレ州プレーリー町プレーリー警察庁の取り調べ室ですよ。ちなみに私はフォレ州治安維持部の者です」

(俺としてはこの世界の名前を聞きたかったんだけど、現在地を聞かれて日本から答える人はいないか。まして地球から言う人はなんていないよな)


「最初に言っておきます。プレーリーへのオオトリさんの居住は認めますが保護はいたしません。そしてプレーリーに住むなら警告があります。自分で責任が持てない技術は伝えないで下さい…場合によっては死罪にしますので」


「し、死刑ですか?」

 吾朗の問い掛けに役人は静かに頷く。


「昔は異界の知識は、技術を発展させ生活を向上させたましたが、ここ何十年かは再現不可能な物が殆どです。しかも、異界人の言葉を信じ財産を注ぎ込み家を傾けた貴族もあり、今やプレーリーで異界の知識は禁忌扱いされています」


(知識を伝えただけで死刑…えっとエンジンは密閉された場所でガソリンを気化させて…どうやって火を着けるんだ?それにネジやバネってどうやって作るんだ?)


「分かりました、あの前に来た人で無事に帰れた人はいるんですか?」


「分かりません。突然いなくなった人はいますが、元の世界に戻れたのか確認は出来ませんので。それと状況が状況ですので、彼等は異界人である事を隠して生活をしていますので接触を禁じさせてもらいます。この事を了承してもらえるのなら最低限の知識と当座のお金等をお渡しします」

 吾朗は役人の言葉に頷くしかなかった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 その日の夜、吾朗はベッドの上で一人黄昏ていた。

 一泊二千プレのベッドしかない部屋、明かりも月明かりしかない。

 吾朗が手に入れた知識はプレーヌには王制が敷かれており、吾朗の立場は一代市民になるという事。

 手渡されたのは当座の金として二十万プレと仮発行の市民証。

 市民証は三ヶ月が有効期限であり、三ヶ月の間に犯罪を犯さずに二十万プレを返却すれば正式に交付されるとの事。

 知り合いも(つて)もない吾朗は、冒険者となり魔物を刈るのが一番手っ取り早く稼ぐ手段だと言われた。


(明日からどうやって生きていこ…いっそのこと山でコカトリスとして生きていこうか。思えばなんも親孝行出来なかったな…もう日本に帰れないし家族やダチに会えないんだな)

 そう思うと、吾朗の目から止めどなく涙が溢れだした。



違う意味で成人男性にしか受けない感じが

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