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リストラヒーロー、命令される

お待たせしてすいません。ついつい新作に力が入ってしまい…嫌われ者もよろしくお願いします

 フルボッコ、今吾朗の状態は正にそれである。大酉吾朗ことコカトリスイエローは肉体的にも精神にもボコボコにされていた。いくら悟郎が歴戦の勇士とは言え、師匠であり本物の幻獣九尾狐である環には歯が立たないのだ。


「ブルーに彼女(ホワイト)を盗られたんですか?あれだけ私がお膳立てしてあげたのに情けない…ふぅー、過ぎた事を叱っても仕方ありませんね」

 キュービーは、そう言うと溜め息を吐きながら首を左右に振った。ちなみに当の悟郎は、尻尾で押さえ付けられており、逃げる事すら叶わないのだ。


「叱ってもって、充分俺の古傷をえぐりまくったじゃないですか。それで俺を呼び寄せた本当の目的はなんです?」

 確かに油揚げは環の好物であるが、わざわざギルドに依頼を出すよりも配下の狐人に作らせた方が確実だし早く作れる。悟郎の身柄を確保するのが目的なら、転移して直ぐの方がリスクも少ない。


「まず貴方がこの地に喚ばれたのは偶然ではありません。ある意味、クリプティドファイブも今回の事を想定して作ったのですから」

 クリプティドファイブ環が日本で作り上げたのだ。設立目的は、異世界のピンチを救う為である。


(確かに、総司令が幻獣十王のキュービだとしたら話がおかしいよな。何年も自分の配下を放っておいてまで、異世界のピンチを救うなんて人が良すぎる…あれか、老婆心ってやつか)


「悟郎っ!!貴方、今は失礼な事を考えませんでしたか!?」

 

(つ、通信機能がオンになっている?しかも、テレパシー機能までオンになってやがる)

 クリプティドファイブのバングルに付いている通信機能は、仲間にテレパシーを送る事も出来るのだ。敵のアジトに潜入した時等、声を出せない状況は少なくない。ちなみに通信機能をオンにしたのは、他ならぬ環であった。


「た、環お姉ちゃんごめんなさいっ!!お姉ちゃんは見た目は二十代ですよね。老婆心は実年齢がそうなだけでっ…へぶっ」

 悟郎が潰された蛙の様な声を漏らす。環が尻尾で悟郎に往復をビンタを食らわせたのだ。


「悟郎、もう少しお話をしましょうか?二人でゆっくりと…色々と積もる話もありますし」

 環は尻尾で悟郎の四肢を固定すると、ゆっくりと持ち上げた。


「環お姉ちゃん、話を進めよっ。なんでクリプティドファイブをリストラされた俺がこの世界にに喚ばれたのかな?知りたいなー、教えて環お姉ちゃん」

 悟郎は小首を傾げて環に質問する。それは彼が子供の頃、環に物を尋ねる時に見せた仕草だ。尤も、それは幼少の悟郎がやってみせたから可愛げあったのであって、中年(いまの)になった悟郎がするとかなり痛々しい…悟郎なりに必死なのだ。


「全く大人になっても手が掛かりますね…でも、貴方に真実を教えるにはある者の許可が要ります。幻獣十王の一人、コカトリスキングのヒヨビに会ってコカトリスとして認めてもらう事。そうしたら全てを教えます」

 

(ヒヨビ?確かケルベロスキングもそんな事を言ってたよな。後、放ち子とか)

 幽体となったケルベロスキングが残した言葉は¨コカトリスキングのヒヨビに会え¨と¨放ち子よ、この世界を頼む¨であった。普通に考えれば猫人達に託す筈である。


「しかし、コカトリスキングがどこにいるのかも分かりませんし、怪しい異世界人に会ってくれるとは思えませんが」

 環が既知の悟郎に会うのにも大勢の狐人や狐の魔物が付いてきた。異世界から来た身分不明な男に会ってくれる可能性は低い。


「ヒヨビはイング王国にいます。イング王国では、もう少しでコカトリスレースが開かれます。それに優勝したらヒヨビに会えるでしょう」


「優勝ですか?しかし、レースに出るとしても、肝心のコカトリスがいませんよ」

 第一、悟郎はコカトリスどころか馬にすら乗った経験がない。それ以前に自分以外のコカトリスに会った事がないのだ。今から、優勝を狙えるコカトリスを手に入れレースに出る腕前になるのは不可能と言えよう。


「いるじゃないですか。大酉戦闘員に命ず。コカトリスの姿でコカトリスレースに参加せよ」


「はいっー!?いやいや、無理ですって。それに誰を乗せるんですか」

 コカトリスレースに参加するからには長時間コカトリスの姿でいる必要がある。そうすると宿に泊まれないし、食事にも制限が出てくるのだ。


「あら、お仲間に馬人の娘がいるじゃないですか。馬人の多くはイング王国の出身が多いですし」


「確かにアタイはイングの生まれだけど…ゴロ、アタイに任せてもらえるかい?」

 サクラは一度俯いた後、決心がついたらしく悟郎を見つめてきた。


「あら、大丈夫ですわよ…大酉戦闘員、命令に従いますわよ?」

 環の尻尾がスルスルと悟郎の首に巻き付いていく。


「ちょ、総司令首が絞まってます…やりますよ、やれば良いんでしょ」

 

「ええ、きちんと報酬を出しますよ。昔みたいにお菓子が良いですか?」

 九稲環は悟郎の師匠であり教育係であった。クリプティドファイブに選ばれ子供の頃に親元を離れた悟郎にとって環は親代わりと言える存在なのだ。


「保証人になってもらえますか?下手こいて奴隷になるのは嫌ですし」


「それなら大丈夫ですわよ。ギルドと交渉して私の部下にしてもらいましたから。森にいると手に入りにくい物もありますし」

 確かに翼を持つ悟郎がいれば、大量の物資を運んでもらえる。


「パシりじゃないですか!?」


「お黙りなさい!!貴方から目を離すと私の胃が持ちません。私がどれだけ心配したか分かっているんですか!?」

 環の暴挙を狐人が止めないのには理由があった。彼等の長が異世界に残してきた教え子を想いだし涙を流していた事。

 そして彼が異世界から転移したのを知ると、陰ながら見守っていた事。

 何より環が本当に嬉しそうに笑っていたのだ。

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