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リストラヒーロー、お説教される

久し振りの更新です

 ノーベフォレスターは周辺の国々から、不可侵の聖地または狐の森とも呼ばれている。不可侵の聖地の名が示す通り手付かずの自然が残されており、また狐の森と呼ばれるだけあって狐を始めとる多くの動物が住んでいた。樵や猟師にとっては宝の山であるが、彼等はノーベフォレスターに近付こうとすらしない。何故なら、ナインテールのキュービーを筆頭にした狐系の魔物や狐人がノーベフォレスターを守っており、外敵と見なした者には容赦なく攻撃を加えてくるのだ。

 そのノーベフォレスターの上空を翔ぶ大きなコカトリスがいた。大きなコカトリスは、冷や汗をかきながら必死に何かを探している。吾朗(コカトリス)はノーベフォレスターを見下ろすと深々と溜め息をついた。

 

「ここがノーベフォレスターか。この森の中から総司令を見つけるのは骨が折れるぞ。この近くに村か町があれば良いんだけどな」

 しかし、上空から辺り一帯を見回しても、眼下には森しか広がっていない。その上、森全体に幻術が掛けてあるらしく、数多く住んでいると言う動物達すら見当たらないのだ。 


「まずは降りれる場所を探すしかあるまい。狐人の村か町があれば良いんじゃがの」

 タイネンも必死に探しては見るが、猿人の目に森しか映らない。視力の問題もあるが、ノーベフォレスターに幻術を掛けたのは、他ならぬキュービーである。キュービーの幻術を破れるとしたら、彼女と同じ幻獣十王レベルの力がなければ無りであろう。


「そんな都合が良い場所が簡単に見つかると思うか?…不味い、油揚げの風味か落ちたら総司令が不機嫌になる」

 コカトリス(ごろう)は既にクリプティドファイブをリストラされた身なので、総司令の気持ちを慮る必要はないのだが、九稲環が彼の師匠である事実は、なくならないのだ。


「オオトリさん、東の方向から暮らしの匂いがしますよ。多分、村だと思います」

 自慢の鼻をひくつかせながらマイが誇らしげに報告をした。いくら幻術を掛けていても匂いを誤魔化す事は出来ない。これが地上であったなら、狼人の鼻でも森に存在する様々な臭いに邪魔され気付かなかったであろう。


「東ですか、ありがとうございます…全く、総司令も届ける場所位書いていおいてくれれば良いのに」

 愚痴をこぼした所で、相手は元上司で自分の師匠。その上、この世界においてトップテンにはいる実力の持ち主である。吾朗は進路を東にとると、足早ならぬ羽早に向かっていった。


「ゴロー、どこまで行くんだい?もう、ノーベフォレスターの端が見えてきたよ」

 サクラの言う通り、吾朗はノーベフォレスターの端は目前である。


「いくら総司令と顔見知りとは言え、アポを取らないで王様に会わせ下さいって言うのは社会人失格だろ?村があれば、そこに通じる道があるだろうし、村道に近付けば狐人が何らかの形で接触して来ると思うんだ…何より、九稲総司令は社会人マナーに厳しいんだよ」

 学生時代からクリプティドファイブに社会人マナーを叩き込んだのは、総司令兼師匠である九稲環である。寝坊して遅刻でもしたら、九本の尻尾で往復ビンタをされるのだ。

 余程、環の事が怖いのか吾朗はノーベフォレスターから、一キロ程離れた空き地に降り立った。


「しかし、傲岸不遜を地でいくゴローがここまで怯えるとはの…まあ、相手がナインテールのキュービーで仕方ないか」

 タイネンが面白そうな物を見る目で、吾朗の顔を覗き込む。


「俺のどこが傲岸不遜なんだよ」

 

「婚礼に向かう貴族の馬車を襲ったり、雇い(オーブネン)をぶん投げたり枚挙に暇かないわ」

 タイネンの素早い切り返しを耳にした吾朗の顔から滝の様な冷や汗が流れて始めた。


「分かった。分かったから、総司令にチクるのだけはやめてくれ。帰ったらなんか奢るから頼む」

 吾朗は形勢が不利だと分かると、必死に頭を下げまくる。こっちの世界の常識を知らなかったとは言え、無茶をした自覚はあるのだ。


「待って下さい。誰かが近付いて来ます」


「近付いて来るって誰もいないじゃないか…くっ、なんてプレッシャーだい!?」

 サクラは今まで味わった事がない底知れぬプレッシャーに怯えて体を震わせている。サクラだけではなく、タイネンは顔を青ざめさせているし、マイはタイネンにすがり付いている。

 三人がなんとか息を整え、警戒体制に入った瞬間、それを嘲笑うかの様に黄金の閃光が三人の間を突き抜けていった。

 狙われたのは、他ならぬ吾朗。吾朗は黄金の閃光に吊し上げれていた。


「大酉戦闘員…何か言い訳はありますか?」

 黄金の閃光に見えたのは金色に輝く狐の尻尾である。現れたの多くの魔物や狐人を従えたナインテールのキュービー。


「そ、総司令…これでも急いで来たんですが」


「誰が遅れたの怒っていると言いましたかっ!!冒険者を返り討ちにしたり、伯爵家の馬車を襲ったり…誰が裏で手を回したと思ってるんです。全く、何の為にブレスレットに通信機能が付いてると思ってるんですか」

 環の一喝に見る見る吾朗の顔が青ざめていく。周りに助けを求めようとするも、タイネン達は環のプレッシャーに怯えているし、狐人達にはあからさまに目を逸らされた。  


「この世界で通信機能が使えるとは思いませんでしたし…俺はクリプティドファイブをリストラされた身ですから」


「リストラ…詳しく話を聞かせて下さい」

 吾朗はこの世界に来る事になった経緯を環に伝えた。


「大体は分かりました…所で、大酉さん今年で幾つになりましたか?」

 環の怒りが幾分やわらいだ事もあり、吾朗は安堵の溜め息を洩らす。


「35歳になりました」

 旧交を暖める二人の間の空気が優しい物に変わる。


「もう、そんな大人になったんですね。所で、子供は何歳ですか?」 


「いや、子供って誰のですか?」


「貴方のですよ。まさか…まだ結婚してないとか言いませんよね!?」

 優しい空気は一変し、気まずい空気へと変わった。


「仕方なじゃないですか!!激務な上に出会いのでの字もないんですよっ」


「情けない。その糸目で、何を見てたんですかっ!!」

 環は空いている尻尾で吾朗の頭をポカリと叩く。


「糸目は関係ないじゃないですかっ!!」


「はー、情けない。戦い方と社会人マナーしか教えなかったのが原因なんでしょうかね…全く、情けない」

 その後、環のお説教は小一時間程、続いたという。

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