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リストラヒーロー、ビビる

すいません、吾郎の元カノをイエローハーピーからホワイトアルミラージに変えます

 その日、プレーリーの冒険者ギルドに不思議な依頼書が貼られた。ランクに制限がなく報酬が高額であるにも係わらず何故か誰も受け様としない。

 内容が理解不能な上に一部判読不能な文字で書かれているのだ。何より依頼主が厄介な人物であった。


「依頼主はナインテールクイーンのキュービーじゃと!?こりゃ随分な大物からの依頼じゃな。しかし、何と書いてるか分からないと受け様がないではないか…ゴローどうした?」

 タイネンが驚くのも無理はない。依頼書を見た吾郎の顔が真っ青に変わっていたのだ。


「なんで総司令がこっちにいるんだ?」

 依頼内容は日本語で、しかもわざわざ草書体でこう書かれていた。


緊急指令

鶏坊主へ、今すぐ油揚げを作って私の所に持って来なさい 

 クリプティドファイブ総司令 九稲くいねたまき


 九稲環はクリプティドファイブの総司令にして、初代イエローであった。クリプティドファイブでの名前はイエローナインテール、幻術を主体とした戦法を得意とし歴代クリプティドファイブの中でも最強と言われている。 

 更に付け加えれば吾郎の上司であり、師匠にもあたる人物であった。早い話が九稲環は、吾郎がこの世で最も頭が上がらない人物なのだ。

 

(確かに総司令とは十年近く会ってなかったけど…なんで異世界こっちにいるんだ?)

 九稲環の事を思い出した途端に吾郎の背筋がしゃんと伸びた。

 彼女の指導方法は一言で言えばスパルタ。吾郎はイエローの名を継ぐ者として環に徹底的にしごかれたのだ。

 

「不味い…タイネン、豆腐はどこに売ってる?」


「トウフ?なんじゃ、それは?おい、ゴロー冷や汗が凄いぞ」

 タイネンの言う通り、吾郎の顔は冷や汗でびっしょりになっていた。 


「豆腐がないだと…ごめんなさい、ごめんなさい、環お姉ちゃんごめんなさい…そうだ!!依頼を受けずに逃げれば良いんだ!!俺の翼があれば世界の端にも逃げれる」

 九稲環、彼女は吾郎にとって最大級のトラウマなのである。


「ゴロー、言い難いんじゃが依頼が受理されるとるぞ。恐らくお主が触れたら受理される様になってたんじゃな」


「マジか…豆腐がないって事は大豆を探す事から始めなきゃいけないのかよ…苦汁にがりは海に行けばなんとかなるか」

 依頼を受けたからに何とかしなければならない…いや、何とかしなければ痛い目に遭わされる事が吾郎の体が覚えているのだ。


「確かにキュービーの依頼を受けたからには何とかしないと不味いの」


「環お姉…九稲総司令はこっちで何をしてるんだ?」

 吾郎はそう言うと、タイネンの両肩をがっしりと掴む。


「キュービーは幻獣十王の一人じゃよ。狐人きつねびとの長だぞ」

 

「はー?総司令が長?」

 タイネンの話によると狐人はプレーヌ王国に隣接している大森林ノーベフォレスタに住んでいると言う。ノーベフォレスタは豊かな森で過去に幾度となく侵略を受けたが、その度にキュービーに撃退されここ百年はどこの国も攻めていないとの事。


(総司令がクリプティドファイブを作ったのは八十年前。確かに計算は合う。しかし、本当にキュービーは総司令なのか?)


「さて、新しい依頼が決まったの。それでそのアブラアゲはどうやって作るのだ?」


「あー、油揚げを作るにはまず豆腐を作らなきゃいけない。それと苦汁が必要だ。つうか大豆は売ってんのか?こっちで醤油や味噌を見た事ねえし」

 ちなみに油揚げは九稲の大好物で、吾郎は大豆から作らされた事が何度もあった。


「ダイズなら売っておるぞ。昔、異世界人が持ち込んだらしい。ショーユとミソを作ろうとして失敗した話はブレーヌでは有名じゃよ」

 何でもその異世界人は、折角育てた大豆にカビを生やして台無しにしたらしい。


「あー、麹菌がないと醤油も味噌も作れないからな。大豆は手に入るとして、ブレーヌで塩田をしてる所はあるか?」

 豆乳を固める苦汁は塩を作る時の副産物である。もし、塩田をしている所がなければ海水を煮詰めて作るしかない。


「あるぞ、しかし塩なら町でも買えるじゃろ?」


「早く場所を教えてくれ。コカトリスに変身して苦汁を買いに行って来る」

 余程、焦っているのか吾郎は落ち着きなく足踏みをしている。


「落ち着け。昼間からコカトリスが飛んでいたら大騒ぎになるじゃろが。レンタル自動箱を借りれば1日あれば行けるぞ」


「マジか!!運転はサクラに頼むか。タイネン、大豆を買って水に浸けておいてくれ。それと石臼も頼む」

 吾郎はそう言い残すと一目散にギルドを後にした。


「やれやれ、忙しい奴じゃの。あんな嬉しそうな顔をしおって…仕方ない、手伝ってやるか」

 ギルドから去って行く時の吾郎は嬉しそうに笑っていたと言う。吾郎は、この世界では天涯孤独だと思っていたのに、縁のある人物に会えるのが嬉しくて仕方なかったのだ。

 幸いな事に苦汁も難なく手に入り、油揚げを作る事が出来た。


「さてと、ノーベフォレスタってのはどこにあるんだ?」


「この間行ったジュングラの向こうにある。しかし、ジュングラに向かった調査隊がまだ戻って来てなから陸路は通行止めになってるぞ」

 普通ならとっくに戻って来てもおかしくはないのだが、調査隊とは連絡すらとれていない。


「それなら船を使うかい?確か、ノーベフォレスタから少し離れた場所に港町があるよ」

 サクラ達馬人は自動箱で大陸は中を回っている。その時に手に入れた情報をお互いを共有しあっている為に、まだ訪れた事がない地にも詳しい。


「いや、ジュングラの確認もしたいから空から行く。夜に飛べば問題はないだろ」

 

――――――――――――――――


 ジュングラに近づくにつれて焦げ臭いが漂ってきた。木の燃えた臭いと肉が焦げた様な臭いも混じっている。

 

「ゴロ、下を見てみな…ジュングラが灰になってるよ」

 サクラの言う通りジュングラだった場所は一面焼け野原になっていた。


「マジかよ…なんか嫌な予感がするから一気に抜けちまうぞ」

 速度をあげた為か、吾郎達は焼け野原で蠢く影を見落としていた。


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